援軍
ーーーーーーーーーー サイア視点
ここまでの闇属性魔術が、行使されるなんて……
やはり、この男は……
私は黒衣の死霊術師に向かって、ゆっくりと近づいていく。
……生かしておいてはいけない。
ミラージの指令に反してでも、ここで闇陣営の強大な戦力であるこの男の息の根を止めて措かなければ、やがて光陣営の、いや人類全体にとっての脅威と成り得るのでは……。
「んん、どうしたんですか?サイアさん」
くるりとこっちを振り向く闇属性魔術師。
その顔からは邪悪さは微塵も感じられない。
ごく普通の、どこにでも居そうな、ちょっと私好みの顔をした、歳下の男の子。
「……もしかして、いつもの冗談ですか?今は空気を読んでやめて下さいよぉ」
そうですねー、あははは。
……だが、それよりも、今は優ってしまった。
ミラージの指令よりも、人類の命運よりも、一介の魔術に携わる者として、この男が今後何処までの魔術の高身に到達するのか……
その好奇心の方が、優ってしまったのだ。
ーーーーーーーーーー エイジ視点
ふはははは、見ろ!人がまるでゴミのようだ!
なんて気分には、到底なれそうもないな。
多分、悪党をやるのにも才能って奴が必要なのだろう。
そして俺にはそんな才能は無い。
もう十分だ、骨龍達を城に引き返させよう。
ルナの事も心配だ。
早くベッドへ連れていって、寝かせてやりたい。
命に別状は無い、とは言っていたが、万が一という事もある。
しかし、結局ソフィアにまたもや助けられた形になってしまった。
思えば一番最初にネファラム城への危機を教えてくれたのもソフィアだった。
と考えてたその時。
小型水晶板の映像に変な物が映り込んでいた。
空中に浮く黒いガレー船?
高高度の映像に切り替えると、何隻ものガレー船が西から進出してきているのが見えた。
なんだこれ……。
黒玉石に通信が入った。ピアからだった。
「エイジ君、あれは攻撃するなよ。あれは味方だ、アザトース教団の導師様が、援軍に来てくれたんだ!」
興奮ぎみに話すピア。よほど嬉しいのかな。
「あ、アザトースって……邪教の……」
逆にサイアの方は青ざめていた。
ーー
至るところに転がるチャイカ兵の遺体をスケルトンにお片付けさせるてんてこ舞いの中、アザ教の導師様が城までやって来るというので、全員でお出迎えすることになった。
俺とピアはもちろん、キューやテリーにミーアとその妹弟、サイアまでもが並ぶ。
ルナは昏睡状態のままなので、自室に寝かせてある。
「エイジ君、君ならば言うまでもないと思うが、導師様はアザ教団のトップというだけでなく、ダークエルフの中でも最長老に属する御方だ、くれぐれも粗相の無いようにな」
と、慎重な面持ちでピアが言う。
ピアがここまで言うとは、よっぽどの事だな。
ええ、十分気を付けます。
上空に停泊していた黒いガレー船のうち一隻が、ネファラム城の正門へ向けて降下してきた。
全長百メートル近くあり、かなり大きい。
俺がさっき呼び出した骨龍と同じぐらいの大きさがあるな。
ガレー船の中には多数の生物が乗り込んでいるのが見えた。
この「生物」はかなり珍妙な造形をしていた。
身長が三メートルぐらいあり、二足歩行する灰色がかった白い肌の、目の無いヒキガエルのような姿、顔の鼻の部分にはピンク色の触手が何本もうねうねと生えている。
うーん、なんだか随分と冒涜的な姿だ。
見てるだけでSAN値が下がりそうだけど、本当に味方で良いんですよね?
着陸したガレー船からハシケが降ろされた。
まず最初に下船してきたのは、白い仮面を着けたダークエルフの男達だった。
なんとなく俺の頭の中に、アノニマスとかガイ・フォークスっていう言葉が浮かんだ。
男達はハシケの先に通路を作るかのように、二列に並んだ。
近くに来て分かったが、身体からチックタックチックタックと音がしている。なんだろう、時計の音か?
そして次に降りてきたのが……
最初に目に入ったのは、深紅のドレスだった。
仮面の男に手を引かれて下船してきたのは、そのドレスを着たダークエルフの幼女。
何処かで見たことがある……
そうだ、あのダークエルフ本国の王都でだ。
チラッとだけ現れて、すぐに見失った、あの深紅のドレスの幼女。
幼女は手を引かれたまま、ゆっくりと歩いてくる。
俺達の前まで来ると、先頭に立っていたキューがダークエルフ式のお辞儀をして、
「ネファラム城にようこそいらっしゃいました、導師ニャルラ様」
と、頭を下げた。
他の人も同じ様に下げたので、俺もつられて同じ動きをする。
え、この人がアザトース教団のトップに立つ人なの?
ダークエルフの最長老、と言っていたが、若いどころか幼いぐらいなんだが……
「うむ、苦しゅうないぞ。面を上げるのじゃ」
む、この話し方は。
ニャル導師は俺の前まで来ると、
「お主がネファラム家に婿入りしたという、死霊術師じゃな?お主と二人きりで話がしたい、部屋を用意するのじゃ」
うーむ、これはロリババアとか、のじゃロリとかに分類される人だな。現実にお目にかかれるとは……。
「かしこまりました、導師様」
ピアがそう言い、ニャル導師を城内に案内しようとする。
と、彼女の足が途中でピタリと止まり、
「うん?なぜ光陣営の者がここにおるのじゃ?」
ニャル導師がサイアをじろりと見上げると、長身の仮面ダークエルフ達がどかどかと走り込んできて、サイアを取り囲んだ。
「わ、私は、その……」
青ざめて動揺するサイア。
「貴様、光陣営のスパイか?
この者を拘束するのじゃ。ガレー船の中へ連れ込んでおけ」
ガレー船って、あの大型触手カエルがいっぱいいるとこか?
それはいろんな意味でまずーーい。
待って下さい!
俺はニャル導師とサイアの間に割って入った。
「エイジ君!」
ピアの叫ぶ声が聞こえたが、すまない、これだけはスジを通させてくれ。
この人は確かにミラージの人間ですが、今はネファラム城の援軍としてここに来ています。
実際、彼女の魔術には何度もネファラム家は助けられました。
どうか、ガレー船に連れ去ってしまうのは、許して頂きたい。
俺がそう言うと、ニャル導師はじっと俺の顔を見つめ、
「……お主がそう言うのならば、取り止めてやろう。
ささっ、部屋に案内するのじゃ」
ピアに連れられ、先へ進むニャル導師。
その姿を見送る俺の背中に、ふと、サイアの手が触れた。
「また、あなたに助けられましたね、私……」
静かに、そう呟いた。




