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総攻撃

 にわかに敵陣全体が慌ただしくなり始めた。


 ついに来るべき日がきた、と言うことらしい。


 オーク帝国へチャイカ軍輸送部隊の位置情報を教えてやったり、ツラギに国境付近で軍事演習をやってもらったり、傭兵部隊には「途中で帰ったら金をやる」との裏契約まで結んでいたのだが、その効果が徐々に現れ始めては、いた。


 このまま空中分解して、各国が勝手に帰り出すところまで行けば万々歳だが、そうなる前に決戦を挑んでくるつもりらしい。


 やはり、これだけの部隊を動員しておいて「なんの成果も!得られませんでした!」では帰れない、という事か。


 まあ、この長ったらしい持久戦を、この段階で打ち切らせる事にさせた、という効果はあったのだろう。


 古来より、強攻策で城を攻めることは「下策」とされ孫子の兵法書なんかにもやるべきじゃないと、書いてはある。


 だが実際のところ、その中国を含め日本やヨーロッパや世界中の戦乱の時代で、強攻策は何度も行われてきた。


 結局、城を攻め落とすという事は、多大な犠牲を支払うのも厭わぬ覚悟でやるしかない、ということなのだろう。

 お上品なやり方ばっかりじゃ、城なんて落とせませんよ、という訳か。


 ーー


 いよいよチャイカ軍の総攻撃が始まった。


 ネファラム城をぐるりと取り囲む全部隊が前進を行い、まずは矢戦が開始された。


 城の周囲360度全てからネファラム城に降り注ぐ矢の嵐。

 さすがに射ち負けるのは確実なので、スケルトン兵による反撃は程々にして防御に努めさせた。


 高高度に放たれた骨鳥からの情報によると、敵軍の主攻は意外にも唯一の門がある街道側のネファラム城正面ではなく、反対側の平原北部側からの様だった。


 正門をぶち破って大群で雪崩れ込むのが強攻策のセオリーだが、チャイカ軍は城壁を攻略する方を選択したらしい。


 もう少し低空からの様子も観察できれば、その詳細も確認出来るのだが、敵に察知され撃墜されるリスクは犯したく無かった。

 骨鳥を失って、戦闘情報中枢(C.I.C)が機能を停止するなんて事態に陥る訳にはいかない。


 ーー


 北部側を攻撃してくるチャイカ軍には大楯が多数配置されていた。

 威力偵察の時のような、ちゃちな代物ではなく、車輪のついた移動防壁のごとき形状の物だった。

 それが何十台も連なって進軍してくる様は、まるで壁が移動してこちらへ向かってくるかのようだった。


 長い兵糧攻めの期間に、チャイカ軍が後方で多数の攻城兵器を組み立て始めていることは、偵察により察知していた。

 時折骨鳥から可燃物を投下して妨害したりもしていたが、初回の兵糧庫攻撃以降はチャイカ側も警戒を厳重にしており、大きな戦果は上げられていなかった。


 俺は、バリスタと投石機(カタパルト)による攻撃を始めさせた。矢の嵐から兵器を守る為にイージスシステム(A.W.S)も起動させる。


 いくつかの移動防壁が破壊されたり損傷を受けたりしたが、チャイカ軍は構わず前進を続けてきた。

 土橋へは回り込まず、そのまま堀へと進軍してくる。


 やがて堀の淵へと達した移動防壁はそこで一旦停止し、防壁の後ろに隠れていた兵士が、次々と土嚢やガラクタ類を堀の中へと放り込み始めた。

 まずは堀を埋めてしまおうという魂胆らしい。


 最初は微々たる物だった堀埋め作業も、それでも数千人の兵士が次々と絶え間なく放り込み続ける事によって、徐々にではあるが堀が埋まり始めた。まさに人海戦術だ。


 俺は骨兵による弓矢の一斉射撃を、防壁と敵陣の間を往復している敵兵に対し何度も行ったが、チャイカ軍は損害を無視して堀埋め作業を続けさせた。


 チャイカ軍は仲間の死体をも堀埋めの材料として利用し、ただひたすらにこの単純作業を継続した。

 敵陣の矢の届かない地点には、神殿騎士団聖ヘルメス協会の部隊が集結していて、光属性魔術で負傷者の治療を行い次々と兵士を戦線に復帰させていた。


 ある意味、向こうもアンデッド兵みたいなものだな。

 光属性魔術という奴は本当に毎回厄介だ。


 ーー


 堀埋め作業は数日間に渡って継続された。

 チャイカ軍は次々と部隊を交代させ、二十四時間体制で堀を埋め続けた。


 俺もテリーと指揮を交代しながら、お互いに仮眠を取り合って休息した。


 そしてついに堀が完全に埋まってしまう時が訪れた。

 最後には移動防壁も堀に投げ捨て、埋め草で地面を平らにまでする念の入れようだった。


 仮眠していたところをピアに揺り起こされ、テリーと交代して戦闘情報中枢(C.I.C)へ向かった。

 寝不足で頭がガンガンするが、敵軍に新たな動きがあったらしく、対応しなければならない。


 北部側に多数の攻城塔(ブリーチングタワー)、中国風に言うなら井蘭車(せいらんしゃ)というべき物が多数確認された。


 攻城塔は移動式の大型ヤグラのような形状で、正面には矢を防ぐための獣皮や木板が張られていて、後ろには梯子や急勾配の階段が付けられている。

 これを城壁に接舷させ、ハシケを渡して城内に兵士を送り込ませるのだ。


 その数は三十台以上あり、移動防壁の倍以上の数だった。

 あれがネファラム城に多数取り付いてしまえば、敵軍は易々と城壁を乗り越えて、城内に大軍で雪崩れ込んで来るだろう。


 高高度骨鳥からの偵察によれば、敵軍に造られた攻城兵器群は、これで最後だ。

 チャイカ軍は、乏しい補給物資の中で自軍の兵士を飢えさせながらでも、これだけの数の兵器を揃えさせた。

 連日に及ぶ総攻撃で、兵士達の疲労もピークに達しているだろう。


 この攻勢が、向こうにとっても最後の攻撃だ。

 これが失敗に終われば、継戦能力を失って、退却するしか道は無くなるだろう。


 その後はどうなるんだ?

 またしばらくしたら、より大軍を伴ってここへ攻めてくるのか。

 それとも、もうこんな割りに合わない戦いは懲り懲りだと、諦めてくれるだろうか。


 どちらの未来が訪れるのかは分からないが、それもこの攻勢を退ける事が出来たら、の話だ。


 ここを乗り切ることが出来なければ、そのどちらの日も訪れることはないのだから。



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