幕間劇「狙撃手」
ーーーーーーーーーー 元衛兵視点
二度目の攻撃も頓挫した。
凄まじい勢いの竜巻が投石機部隊を蹂躙し、貴重な資材を投入して揃えた二十台の全てが巻き上げられ、吹き飛ばされた。
資材だけでなく、人的被害も甚大だった。
こちらはまだ、城壁にたどり着く事すら出来ていないというのに。
「どういうことだ!あれほどの大魔術師が敵におるとは聞いておらぬぞ!」
ドミトリー将軍が吠えるのも無理はない。
あれほどの規模の風属性魔術、ミラージの色付きローブ持ちでも扱えまい。
たかが小城だと思って侮っていたら、飛んでもない戦闘力だ。
初っぱなから全軍で総攻撃しましょう、と言い出した神殿騎士団の意見を採用などしていたら、今頃どうなっていたか。
いきなり敗北も普通にあり得た。
「兵糧攻めに切り替えよう。城内の奴らを眠らせない様に、各部隊に交代で小規模の攻撃を繰り返させろ」
時間をかけて城の防御力が弱体化するのを待つ。
いたずらに兵力を消耗していくよりはマシだろう。
アンデッドの城とはいえ、それらを操っているのは生身の人間だ。
彼らは配下の死者達のように不眠不休とはいかないだろうから。
ーー
「やはり何かがおかしい。こちらの動きが全て筒抜けになっている気がします」
と、イレーナ。
敵のスパイが紛れ込んでいる可能性があると?
「城外にスパイがいるならば、城内に情報を伝える必要があります。この包囲の中で、城に送り届ける方法はありません」
イレーナは上空を指差し、高空を飛ぶ鳥を指差した。
「やはり、あの鳥が……あれを撃墜する方法はありませんか?」
長距離狙撃用ボウガンでギリギリ届くか、と言ったところかな。
「狙撃手を探して下さい。やってみるだけの価値はあります」
ーー
俺はチャイカ軍の中から狙撃の名手を探した。
ほとんどの狙撃兵がムリだと断る中、連邦構成国の一つカラフ王国の狙撃手が承諾してきた。
ジューゾーと名乗るその無口な男は、カラフ人とヒノモト人のハーフだという話だが、その出生の秘密は諸説あり謎に包まれているという。
早速その男を連れて、イレーナの所へ訪れた
「あの鳥を狙撃して下さい」
「……やってみよう」
ジューゾーは自分専用にカスタマイズされた専用のスナイパーボウガンで、高空を飛ぶ鳥を狙った。
「……!」
たった一発、発射しただけでジューゾーは鳥を仕留めた。
噂通りの凄腕だな。
撃ち落とされた鳥を確認し、驚いた。
その鳥は骨だけの姿で飛んでいた、骨の鳥だったのだ。
「これは……やはり、あのネクロマンサーは全てを上空から……」
イレーナは撃墜された骨鳥を持って、ドミトリー将軍へ報告した。
「直ちに、全ての骨鳥を撃墜しろ」
「それが……」
一羽が撃墜されるや否や、全ての鳥が更なる高高度へと移動したという。
長距離狙撃用ボウガンでも届かない、もはや手が出せない高度へ。
「なんということだ……こちらの動きは全部敵に筒抜けか……」
「ですが、低空での偵察は封じました。あの城の偵察能力は減少したはずです」
ドミトリー将軍は兵糧攻めを徹底する事を決めた。
この戦いは長丁場になるなと、このときの俺は思っていた。
ーー
「今後は敵に行動が見られていると、想定した上での作戦が必要になるでしょう。それが分かっただけでも成果はありました」
と、イレーナ。
こうやって外を二人で歩いている所も、あのネクロマンサーに見られているんですかね。
「そうかも知れませんね。他人を覗き見するなんて、厭らしい趣味。これじゃあ二人っきりで外に出ても、何もできません」
なにもって、何をするんです。
「ふふ。さあ、なんでしょうか?」
回りは見渡す限りの遮蔽物の無い平原。
兵隊さえいなければ、のどかさすら感じられる場所。
「今度、ここで昼食でも取りましょうか、ピクニックみたいに」
この提案はもちろん冗談だろう。
さすがに呑気過ぎますよ、包囲が長引きそうだからって。
「いっそ包囲も止めて撤退してしまえば良いんですよ。あんな物騒な小城、わざわざ攻撃する意味があるのかなって」
それは神殿騎士団の連中とドミトリー将軍本人以外は、みんな薄々そう思ってるでしょう。
ドミトリーにとっては進退問題だから。
というか、あなたも首席参謀なんだから他人事じゃ無い。
「左遷されて閑職につくのも良いかも知れませんよ。それで戦争から遠ざかることが出来るなら」
イレーナと交わす他愛もない会話。
長く続きそうなこの戦いでの息抜きには丁度良いのかもしれない。
彼女といるのは楽しかった。
だが、その反面本当にそれで良いのか、という思いもあった。
俺はナガッセの街を焼き払った大悪党だ。
イレーナはその事を知らない。
もし知ってしまったら、今までの様には接してくれなくなるだろう。
そうなってしまうのを恐れて、俺はその事について言い出す事が出来なかった。
彼女に対し後ろめたい隠し事をしている。
その事実が凝りとなって心の奥底にこびり着いていた。




