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籠城

 城への攻撃というのは、結局のところ二種類しかないのかもしれない。


 強引に攻め込んで落城させる強行策か、相手が干上がるまで補給路を絶って兵糧攻めを続けるかのどちらか。


 それ以外の方法だと、奇策に分類されるような手法になるだろう。

 木馬を作って相手に中に入れさせるとか、トンネルを掘って地下から侵入するとかだ。


 強行策の一環として、戦国期の前世日本では火攻めがよく行われた。

 信長なんかは火攻め大好き人間で、色んな所に火を付けまくった挙げ句、最後は自分自身も本能寺で火を付けられて倒されてしまった。


 木造建築の多い日本や中国などでは火攻めは有効な作戦なのだろうが、ほぼ石材で作られているネファラム城には効果が薄そうだった。


 水攻めもよくある手段だ。

 堤を作って川などを塞き止めて、城を水没させてしまうのだ。

 秀吉の備中高松城攻略などが有名だが、ネファラム城周辺にはそもそも川が流れていないので、この方法も駄目。


 で、結局兵糧攻めになったのだろうが……


 ーー


「最近目立った動きが敵にありませんねー」


 サイアの言う通りこのところ敵が第三波を仕掛けて来る様子は無い。

 兵糧攻めに切り替えたのかもな。


「兵糧って……スケルトン達はご飯なんて食べないでしょう」


 向こうはこっちにいる生身の人間が、わずか十人足らずとは思っていないのかも。


 城内にいる俺達を休ませない為に、チャイカ軍は不定期に攻撃を仕掛けてはきたが、散発的な矢戦程度ならスケルトン兵の独自判断でほっといても対応可能だ。


 俺はテリーと城の指揮を交代しながら休憩を取った。


 テリーは良く城を守ってくれた。


 俺が寝ている間に、チャイカ軍はちょっとした作戦を仕掛けて来たことがあった。

 正面でわりと大規模な矢戦を展開させ、そっちに気を取られている内に裏側から少数のコマンド部隊を送り込もうとしてきたのだ。

 骨鳥からの映像で丸見えだった侵入作戦は、苦労して堀を突破し城壁に梯子をかけて登り始めた敵兵に、頭から煮え滾る熱湯を浴びせかけて撃退した。


 籠城戦の守り手側は、ただひたすら守っていれば良いという訳では無い。

 相手が隙を見せたら逆に討って出て奇襲を仕掛ける事だってある。


 最大の攻撃チャンスは、相手が兵糧攻めを諦め、包囲を解いて退却に移った時だ。

 戦国時代の北条氏なんかは小田原城の固い守りを利用して、籠城戦後の追撃で何度も勝利を重ねている。

 秀吉に完全攻略される前までは。


 ーー


 長引く籠城戦。

 来日も来日も城の中で、一歩も外に出られない日々が続く。


 俺みたいに元から引きこもり体質の奴ならまだ耐えられるが、そうじゃない人はやはり辛いようだった。

 実際ミーアの妹弟たちなんかは、かなりしんどそうだ。


 味気ない保存食の日々が続くのも地味にキツい。

 唯一新鮮な食べ物は、城内菜園で栽培されている葉野菜類のみだ。


 前世なら冷凍食品やら缶詰やらカップ麺やらが食べれて凌げるのだろうが……

 キューと相談してマジックアイテムの冷蔵庫もどきでも開発すべきだったかもしれない。


 暇潰しは読書か、城内での軽い運動。

 テレビやネット、ゲームが恋しい。

 そういえば前世で長く無課金で遊んでたあのゲーム、もうさすがにキャラが消されちゃってるかなあ……


 ーー


 指揮をテリーに変わってもらって、リビングでソファーに座って休息していると、サイアがやって来た。


「暇ですねー、こうも何もないと」


 ああ。

 こうやって城の中の人を疲弊させるのが、兵糧攻めの目的だろうから。


 それに飢えの苦しみが無いだけ、まだ恵まれている方だろう。

 前世じゃカニバリズム感溢れる悲惨な記録が、いくつも残されている。


「どうですか?退屈しのぎに、ピアさん抜きで私と一対一でスキンシップでも」


 そう言いながらソファーの後ろに回り、俺に抱きついてくる。


 なんでそうやって俺を誘惑しようとするんですか。


 ピアは今晩は都合が悪く、自室でもう寝てしまっている。


「今、この部屋にいるのはあなたと私の二人だけなんですよー。だから、私がやろうと思えば……」


 サイアは俺に抱きついていた手を滑らせ、両手で俺の首筋をそっと締める。


 ……!


「あはは、冗談ですよー」


 それ本当に恐いからもう止めてください。


「だってこれやると、あなたがビクンビクンと跳ねて面白いんだもん」


 なんか一対一の時はサイアに主導権を握られっぱなしだなあ。


「あなたって受身な事が多くて、ちょっとM気質だからね」


 そ、そうですか?


「……あなたは私より何歳か年下だけど、ピアさんは私よりずっと年上なんですよ。あなた、ピアさんの事を本当によく知ってるんですか?」


 ……。


「ちなみにキューさんはもっと年上です。あの二人、結構年の離れた姉妹なんですよ」


 あー、俺とピアの仲を引き裂いてネファラム家を分断させようという魂胆なのなら……


「そんなんじゃありませんよー。例えば知ってますか?ピアさんとミーアさんは過去に何度も肌を重ね合ってるって」


 ええっ?


「ミーアさんから聞きましたよ。元々その為にネファラム家に雇われたんだって。キューさんとピアさんと三人で何度もやってたんですよー」


 ……嘘でしょ。


「本当ですよー。後からテリーさんも加わって四人でやった事もあるって……」


 俺は無言のまま、ソファーから立ち上がった。


「あれっ……怒ったんですか?……ごめんね」


 ……。


「ごめんね、本当にそんなつもりじゃ無かったんです……」


 言っていい冗談と悪い冗談がありますよ。


「……これは冗談じゃなくて、本当の事。嘘だと思うならミーアさんに聞いてみればいい。

 あなたはネファラム家の事について、ほとんど何も知らない。知らないのに、こんなに多くのアンデッド兵を操れるぐらい強大な闇属性魔術で、彼女らに力を貸している」


 ……。


「あなたは一度立ち止まってよく考えた方がいいわ。

 でないと、このままじゃ……本当に闇に取り込まれて……」


 もうこれ以上聞いていられなかった俺は、リビングを後にして外へ出た。


 ーー


 確かにピアは言っていた「男を籠絡するすべをキューから教わった」と。あの時は気にも止めていなかったが……


 あの後、初めてピアと関係を持った。

 あれは肉欲なんかじゃ無い。いや、肉欲もあったけどそれだけじゃない……ない、はずだ……。


 なんだか妙なわだかまりが心に残ってしまった。

 これがサイアの策略なんだとしたら、チャイカ軍なんかよりよっぽどダメージを与えているぞ。


 今さらネファラム家の性事情について根掘り葉掘り聞くのも野暮な話だが、なんとなく気になってミーアに聞いてみた。


「ああ、サイアさんから聞いたんですか。そうですよ、最初は。……でもあなたがネファラム館に来るずっと前の話ですよ」


 あっけらかんと肯定されてしまった。


「妹弟全員と病弱な母を養っていくには、家政婦としての仕事だけではとても無理。だけどそのおかげで、不衛生な売春宿で身体を売って病気を移されて死ぬ、なんて事にならなくても済むだけの給金は頂けました。だからネファラム家には感謝しています。……ナガッセはそういう街でしたから」


 ……。


「キューさんは、私を使ってピアに性知識や技法を教えるのが目的みたいだったですよ。それがダークエルフ貴族としての務めだって」


 そうなのか?貴族の考えることは庶民には分からんな。


「私もダークエルフのしきたりとかは良く知りません。……その後、ある晩にテリーにバレて、それからテリーとも肌を合わせるようになって……」


 ……。


「今はもう、私の身体はテリーだけの物です。だからあなたに夜伽の相手を頼まれても、断りますからね」


 いやいや、そんなつもりは無いですよ。


「……何かあったの?サイアさんに言われてピアの事が気になっちゃった?」


 ええ、まあ。


「心配しなくてもピアは貴方に夢中ですよ。最初に会った時から、凄い闇属性の使い手に出会ったとか、いつでも倒せたのに助けてくれたとか、大興奮だったんだから」


 そうだったんですか。


「ピアだけじゃなく、みんな貴方には感謝しているわ。ナガッセがあんな事になって、館が焼け落ちて、私は家族も何人か失って……途方に暮れていた時に、新しい住みかを与えてくれたんだから。それも前よりも快適な所。まさかお城に住める日が来るなんて、思っても見なかった」


 そうですか……ここを取り戻せて良かった。


「それよりも注意した方がいいのはサイアさんの方ですよ。彼女は同じ猫獣人だけど、その心はあくまでミラージにある。今は共闘しているけど、その事を忘れないで」


 ーー


 戦闘情報中枢(C.I.C)に篭って敵陣を観察。今日も特に目立った動きなし。


「どうしたんだ、エイジ君。少し浮かない表情だな」


 隣にいたピアが、話かけてきた。

 今はこの部屋にピアと二人っきりだった。

 俺はピアの身体を掴むと、ゆっくりと抱きしめた。


「寂しかったのかい、良いんだよ君の為なら私はいつだって」


 どちらからともなく唇を重ね合わせた。

 お互い舌を絡め合って、その感触を楽しんだ。


 ややあって、唾液で糸を引きながら唇を放すと、


「エイジ君、何かあったのなら、もっと私を頼ってくれて良いんだぞ。私は君と共に歩むと、もう決めたのだから……」


 ……それじゃあ、少しだけ、俺に勇気を下さい。


「ああ、君が欲しいと言うのなら……少しといわず、いくらだって私はかまわないよ」


 もはや何回目かも分からないぐらい、重ね合わせて来たピアの身体。


 過去なんて関係ない。俺は今のピアの事が……

 そうだ、それだけなんだ。


 薄暗い戦闘情報中枢(C.I.C)の中、水晶板に映し出される圧倒的なチャイカ連邦の軍事力。


 その光を浴びながら、俺はピアと快楽()貪り(確め)合った。


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