表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/82

威力偵察

 ナンザン軍を打ち破ってから数日経つと、ネファラム城の周辺には続々と軍勢が到着し始めた。


 さすがにもう少数で突っ込んで来るようなボーナスステージは発生しなかった。

 城から離れて十分に距離を取り、次々と陣立てを整えていく。


 俺は戦闘情報中枢(C.I.C)に籠ると、骨鳥から持たらされる敵軍の様子を観察した。


「凄い部屋ですねー。これ全部あの骨鳥飛ばしてるんですか?」


 と、サイア。


「ケーニヒスグラード要塞、平原北部の新設オーク砦、ゴウラの王都まで……あれ、この右下の水晶板だけ何も映ってませんねー」


 あー、そこは今はいいんですよ。


「……あなた、もしかしてツラギの王都も!」


 ギクッ。ええー?そんなことないですよ。

 ……テリー、敵の所属国とか分かるか?


「おう、調べておいたぜ」


 テリーによると、


 チャイカ連邦正規軍約一万、連邦加盟国からの派遣軍が二千~三千ぐらいのが四ヶ国分、神殿騎士団の合計が約八千、ゴウラ軍が約四千、傭兵隊が様々な所の寄せ集めで約二千だそうだ。


「合計で三万強ってとこだな」


 こっちはスケルトン兵約六千だ。

 序戦でナンザン軍を蹴散らして多少は減らせたが、それでも敵軍は五倍以上の兵力か。


「……本当に勝てるんですか、これ」


 不安そうな声を出すサイア。


 俗に攻撃三倍の法則と言われていまして、攻撃側は防御側の三倍以上の兵力がないと勝てない、そうです。


「でも相手は五倍以上じゃないですかー」


 普通に野戦で戦うなら、ランチェスターの法則を持ち出すまでもなく、敗北は確定的だろう。

 だが、こちらにはネファラム城という防御施設があり、相手は一枚岩ではなく寄せ集めである。

 その辺りにつけ込む隙があるようだ。


 神殿騎士団の内訳について、もう少し詳しく教えてくれないか。


「ああ、大きいのは二つあって、後は小団体が小判鮫みたいにへばりついてるだけだな」


 一番大きいのがオストリッチ騎士団。

 聖教会から装備一式が支給される白揃えの連中で、これが約五千。

 二番目が聖ヘルメス協会。

 光属性魔術師を何人も抱える、いわゆるヒーラー集団だ。

 戦場の後方で、野戦病院を構築したりするらしい。これが二千。

 後は小さいのの寄せ集めで千だそうだ。


 光属性魔術師ですか、彼らは攻撃魔術も使ってきますかね?


「あの人たちはもっぱら回復専門よ。使おうと思えば魔術弾(マジックミサイル)ぐらいは撃てるでしょうけど、そんな事に魔力を消費するぐらいなら、負傷者の治療に使うでしょうねー」


 と、サイア。


 ミラージは今回の攻撃には参加してないんですか。


「私の知る限りは無いですねー。ただ、各国に宮廷魔術師はいるかもしれません」


 ーー


 チャイカ連邦は、ネファラム城を360度完全包囲する形で展開を完了させており、まさに四面楚歌の状態になっていた。


 街道も封鎖され、外部から物質を運び入れる方法は完全に遮断された。


 だが考えても見たまえ、こちらにはこれまでに集積された十分な物資と城内菜園がある。


 ネファラムはまだ10年は戦える。


 ーー


(おかしい…どうしてこうなった…)


 見る者によっては半ば絶望的とも言える景色を眺めながら俺はそう思った。


(俺は引きこもって、静かに悠々自適の生活を送りたいだけだった、そのはずなのだが…)


 完全にその対極とも取れる状況にある。


(おっ…)


 敵兵集団の一部が、にわかに慌ただしくなり始めた。

 にらみ合いの時間はそろそろ終わりになりそうだ。


 ーー


 まず最初に動き出したのは、連邦構成国の部隊と傭兵隊だった。


 どの世の中でも矢面に立つキツい仕事は、派遣社員や契約社員が真っ先に割当てられるものらしい。


 まだ全力攻撃とは言いがたい規模の攻勢で、威力偵察としての意味合いが強そうだった。

 城の防御力の高さを、派遣軍と傭兵の血と汗で推し測ろうとしているのだ。


 まあ、こちらもいきなり全ての手の内を見せてやるつもりは毛頭無い。


 チャイカ兵からの散発的な弓矢の援護射撃が城に向けて放たれる中、大楯と破城槌がゆっくりと接近してきた。


 大楯は文字通りの意味で大きな楯だ。

 木板を何枚も重ね合わせて造られており、表面には獣皮と湿らせた布が張り合わされていて、火矢の対策も行われている。

 普通の弓矢程度なら貫通することは不可能で、この大楯の後ろには数十人が隠れる事が出来る。


 破城槌はナンザン軍のような剥き身の丸太ではなく、車輪の付いた三角屋根の荷台の中に、釣鐘の撞木の様に吊り下げられた形状になっていた。屋根が三角なのは落下物の衝撃から荷台を守るためである。


 今、何枚もの大楯と、数台の破城槌がネファラム城に迫りつつあった。

 どちらも通常の弓矢やボウガンでは、破壊することは不可能だ。


「どうするの、あれ。魔術で吹き飛ばす?」


 と、サイア。

 いや、まだ使わなくても大丈夫。


 俺は骨兵達にバリスタを準備させた。


 バリスタは要するに可動式超大型ボウガンだ。

 城塞の上に計八台設置されているそれらを正門付近に集結させる。

 バリスタには骨兵達が四人がかりでウインチを回して巻き上げる極太の矢が装填してあった。硬度も魔力で強化済みである。


 角度を調整させて、まずは大楯へ。


 撃ち~方始めー!


 轟音と共に射出された極太の矢は、唸りを上げて大楯に向かって飛んで行き、容易く大楯を貫通し真っ二つに叩き割った。

 後ろに隠れていた兵士も、巻き込まれて何人か引きちぎられていた。


「凄い精度ですねー、全弾命中ですか」


 俺が骨鳥からの映像見ながら座標指定してるからな。

 骨兵達は決められた場所に向けて発射するだけだ。


 隠れる場所を失った敵兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出すと、まだ無事な大楯の後ろに隠れようと殺到した。

 もうとっくに許容人数を越えていた場所を奪い合って、敵兵同士で小競り合いまで発生した。

 逃げ遅れた者や、外に押し出された者は、城から降り注ぐ矢によって打ち倒された。


 バリスタの矢にはロープが結び付けられている。

 回収可能な物は巻き上げて再利用し、駄目な物は切り捨てて新しい矢を再装填させる。


「エイジ君、敵の破城槌が堀の土橋にまで接近してきているぞ」


 ピアが報告してきた。

 よしよし想定通りだ。


 堀がある以上、敵兵がネファラム城に接近してくるには、土橋を使う以外に方法は無い。

 つまり敵兵が進軍してくる場所は、最初から予測されているのだ。


 俺は城内に複数設置されている投石機(カタパルト)に、発射準備を整えさせた。


 土橋付近にはあらかじめ何度か試射を行って、角度などの調整数は割出してある。

 後は目盛りに従って撃つだけだ。


「敵破城槌、試射痕跡まで接近!」


 よし、投石開始。


 テコの原理を最大限利用する構造になっている骨製投石機から撃ち出された巨大岩石は、放物線を描いて飛んで行き、木製の破城槌に何発か命中すると、木っ端微塵に吹き飛ばした。


 なんちゅう脆い破城槌だ。

 まあ、木製兵器の耐久力などこの程度だろう。


 ーー


 再装填が完了したバリスタから撃ち出された極太矢で、さらに大楯が叩き壊された。


 他の土橋から回り込もうとしていた複数の破城槌も、投石機から放たれた巨大岩石で破壊された。


 大半の攻城兵機が破壊されてしまうと、敵兵達に動揺が広まり、やがて我先にと敗走していった。


 俺はスケルトン兵達に勝鬨の声を上げさせる代わりに、高笑いさせた。

 数千のスケルトン兵から発せられる禍々しい笑い声が、轟音となってネファラム城の周囲にとどろいていく。


「何ですかこれ、気持ち悪いんですけど……」


 サイアが顔をしかめた。


 心理効果って奴を狙っているんですよ。

 周囲で見てるだけだった敵兵達に聞かせる為にね。


 こうして敵襲の第一波は、城壁にたどり着く事すらできず撃退された。


 中々さい先の良いスタートだ。

 だが、まだ戦いは始まったばかりだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ