初めてのクエスト(ソロ編)
ミラージ魔術学校へ帰りなさい。
そう言われたけど、場所がまず解らないし、そもそも俺はそこの生徒でもない。
仮に行ったところで、君は誰だで門前払いされて終わりだろう。
なんか金持ちが行くとこみたいだし。
ルースからはクエスト報酬の分け前を貰えた。
回復スクロールのお金を支払いますと言ったけど、それはいいと断られた。
後でアイテムショップで値段を調べると、分け前の倍以上の値段で売られていた。
なんてこった、迷惑しかかけてないよ。あんな良い人に。
いっそルースに洗いざらい全部話して助けてもらおうか?
実は俺、他の世界から転生してきた人間でこの世界の事は何も解らないのです。
なぜか闇属性の魔術はかなり上位まで使えます。
駄目だ、止めとこう。
信じてもらえるかどうか解らんし、闇属性は縛り首らしいからなあ……
それにもうこれ以上迷惑をかけたくはない。
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さて、分け前が貰えたとはいえ、それはタイムリミットが数日延びたに過ぎない。
やはり冒険者ギルドを利用して、当座の金を得る他は無いだろう。
初等魔術だけでやっていくのはかなり厳しいのだから、闇属性を使わざるを得ない。
だが、闇属性を他人に見せる分けにはいかない。
となれば、これしかない。
ソロだ。
思えば俺はMMORPGでも2垢利用してソロギルドを自力で設立させてたぐらいのソリスト野郎だ。
ここでもそうすれば良い。
そんなこんなで俺は冒険者ギルドに再びやって来たのだ。
一応、ルース達が居ないか確認する。
居ないな、よし。
まずは掲示板に行き、クエストを確認する。
ゴブリン討伐、野犬の駆除、傭兵募集なんてのもあるな。
傭兵は随分と実入りが良いが、その分危険度も高そうだ。止めとこう。
最初は簡単なやつがいいだろう。
薬草集め。これだな。
昨日ルース達とゴブリンを討伐したあの広場、あそこへ行って薬草集めて帰ってくるだけだ。簡単だ。
俺は薬草集めの募集表を取り、ギルドの受付へ向かった。
受付嬢は前世で言うならスーパーのレジ打ちのおばちゃんのような人だった。
あの、このクエスト受けたいんですけど。
「そのクエストは恒久表示だから持ってこなくて良いよ。
受けたいならまずギルドカード出して」
え、ギルドカード?
「無いんなら登録からだね」
ルース達と昨日受けた時はそんな物無かった。
最初からルースは俺に1日だけ冒険者の真似事をさせるつもりだったのだろう。
ギルドカードの発行は特に身分証の提示なども必要なく、自己申告で空欄を埋めるだけで完了した。
名前、種族、性別、年齢、以上だ。
名前以外は嫌なら書かなくてOKというアバウトさ。
ちなみに発行の際には登録料を取られるので、俺の人生タイムリミットはさらに減少した。
名前:エイジ ギルドランク:ブロンズ
ギルドランク、ようやく目で確認できる強さの指標が出てきたな。
これだけアバウトだとあまりあてにはならんが、一応の目安にはなるだろう。
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こうして俺は薬草集めへと出発した。
わざわざゴブリンがよく現れるから討伐クエが出るような場所へ、である。
後から解った事だが、もっと街の近くにも薬草の群生地はいくつかあったらしい。
だが、この時の俺は他の場所など知らなかったのだ。
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ルース達と昨日進んだ道を、同じようになぞって歩く。
たった独りで街道を行くのは心細いが、俺には戦力増強のあてがあった。
脇道へ入り、先へ進む。
小動物の死骸があった場所に差し掛かる。
確かこの辺の近くに例の野犬3匹の死体を片付けたはずだ。
……あった、あとはコイツに、
「そんな事をするのは、人の道を踏み外したクズだけだ」
ルースの言葉が頭にフラッシュバックする。
だが、その声を頭から振り払い、闇属性の魔術を行使する。
闇属性死霊術、死者使い。
魔力が注ぎ込まれ、死んだはずの野犬がゾンビとなってゆっくりと起き上がる。
このゾンビ犬は死ぬまで、いやもう死んでいるのだから壊れるまでと言うべきか、俺に忠誠を尽くす、完璧な下僕だ。
どんな命令であっても、愚直過ぎるぐらいそれに従う。
更に死者使いを使用して、残り2匹の野犬もゾンビに変える。
今の俺の姿は、ゾンビ犬3匹を従えるなんか悪そうな魔術師、そのものだ。
しかしこれもこの世界で生き延びる為。
見た目が悪いが、とにかく戦力は増強された。
先へ進もう。
金を稼げなければ、俺に待っているのは餓死だけだ。
この世界には生活保護なんて、無さそうだしな。
道を奥へと進んでいくと、昨日ゴブリンと戦闘した広場へと出た。
脇に片付けておいたゴブリンの死骸を調べたが、討伐証拠品摘出時の損壊が激しく、ゾンビ化は出来なかった。
ゾンビ犬に周囲を索敵させながら、薬草の採集を始めたのだが、これが思いの外難しい。
昨日1日聞いただけの知識では、よく似た他の野草と見分けるのが大変なのだ。
こうして、正しい野草が集められているのか怪しいまま時間だけが過ぎていった。
俺が薬草集めに悪戦苦闘していると、警戒にあたっていたゾンビ犬が濁った声でヴァウッ!っと吠えた。
何者かが、ここへ来る。
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3匹と一緒に草むらに隠れていると、現れたのはゴブリンだった。
全部で2匹。
背中に篭を背負っている所をみると、あいつらもここに薬草を集めに来たのかもしれない。
ゴブリンはまだこちらの場所を特定出来ていないようだが、犬の吠え声を聞いているので、警戒体制のまま広場へ侵入してきている。
ゴブリン2匹とゾンビ犬3匹とでは、どちらが強いのだろうか?
ゾンビ化すると生前よりも敏捷さが落ちて動きが鈍るようなので、ゾンビ犬は苦戦するかもしれない。
ここは向こうにも弱体化していただくとしよう。
俺はゴブリンに向けて杖を掲げ、魔術を行使する。
闇属性魔術、呪い。
対象の全ステータスを呪いの力で大幅にダウンさせる。
魔術をかけられたゴブリンは、まるで重い鎖を身体に巻き付けられたかのように動きが緩慢になった。
すかさず俺はゾンビ犬をゴブリンへ突撃させた。
ゴブリンは慌てて錆びた剣を振り回すが、その速度は呪いを受ける前の半分にも満たないだろう。
瞬く間にゾンビ犬に噛まれて引き倒され、3匹がかりで一方的に噛み千切られて息絶えた。
その様子を見たもう1匹のゴブリンは、完全に戦意喪失し逃亡に入った。
もちろん逃がすつもりなど毛頭無い。
そいつに向かって杖を掲げ、次の魔術を行使する。
闇属性魔術、猛毒。
相手の身体に猛毒を撃ち込み、徐々にダメージを与えていく、いわゆるDoT系の攻撃魔術だ。
さて、どのぐらいで毒が回るのかな?
と、様子を見るつもりだったのだが、ゾンビ犬がそいつにも攻撃を開始してしまう。
おい待て、ステイ!ステイ!
結局三匹に噛まれてそいつも倒されてしまった。
うーむ、どのぐらいで毒が完全に回るのか知りたかったのだが、これじゃわからないな。
だが、下僕の制御には細心の注意を払うべきだという教訓になった。
普段は常に待機状態にしておこう。
でなきゃ戦いたくない相手とも、いきなり戦闘開始になりかねない。
しかし闇属性の威力は凄いな。
初等魔術とは桁が違う。
最初からこうすりゃ良かったんだ。
ゴブリンごとき、どうとでもなるじゃないか。
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倒したゴブリン2匹も早速、死者使いで仲間に加えておく。
これで合計5匹を下僕にしたわけだが、俺の魔力はまだ問題なく使用できるようだった。
いったいどれぐらいの数を下僕にできるのか、俺自身にも全く解らない。
とりあえず行けるところまでいってみよう。
俺はゴブリン2匹へ薬草集めを命令した。
下僕ゴブAとゴブBは、ぶっちゃけ俺よりも薬草集めが上手いようだった。
休息もせず延々と集め続けてくれるので、薬草集めはかなり捗った。
さて、ある程度集まったし、そろそろ帰ろうか。
と思ったのだが、その場合コイツらをどうするのかが問題だ。
引き連れて街中に入るのは論外だ。
私は闇属性魔術師です、と宣言して歩くようなもので、即刻捕まって縛り首だろう。
命ずればすぐに元の死体へ戻す事はできるが、またアンデッド化するのも面倒だな。
街の近くまでは移動させ、そこで戻しておこうか……
それが良い。よし、帰ろう。
帰ろう。
と命じるとゴブリン達は道とは反対側の森へと移動し始めた。
おい待て、どこへ行く。
んんー、そうか。コイツらにとって帰るというのは自分の住み家に戻る事なんだな。
住み家へ行けば大量のゴブリンが居るかもしれないが、それはゴブリン討伐報酬の大量獲得チャンスだ。
いっそ攻め込んでやるか。
言うまでもないことだが、このときの俺は完全に調子に乗っていた。




