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事前準備

「あのハーフエルフからの情報というのが癪に障るが、わざわざエイジ君に言ってくるということは、本当だろうな」


 と、ピア。


 聖教会が総攻撃と言っていましたが、どれぐらいの規模なのでしょうね。


「聖教会には神殿騎士団という独自の軍事組織があるんだよ。大小様々な団体があるが、大きい物では一万人を越えるほどの規模があるのだ」


 と、キュー。


 そんなにいるんですか。

 そして、恐らくはチャイカ連邦の正規軍も加わると……


「数万の兵力で攻め込んで来るのかもな。これは大きな戦いになるぞ、エイジ君」


 ええ、急いで籠城の準備を始めましょう。


 ーー


 籠城の準備は急ピッチで進められた。

 保存食や各種資材の備蓄、骨鳥による偵察網の拡大、新規スケルトン兵の作成、キューとの共同開発による骨製大型防御兵器の設置、アザ教への救援の打診、などなど……


 そんな忙しい日々のある日、ツラギ王国からパーク外交官がやって来た。

 ピアと二人で対応に当たる。


「実は、チャイカ連邦がネファラム城を攻めるのではないか、という兆候があるのです」


 やはり、そうですか。

 こちらもその情報を得て、備えている所です。


「既に察知しておられましたか、さすが耳が早い」


 チャイカ連邦は周辺国に、ネファラム城への攻撃に協力するよう要請しているという。


「なんとツラギにすら攻撃に参加しろと言ってきました。先の戦いでゴウラと組んで我が国へ進攻しておきながら厚かましい。適当に理由を付けて断りましたが」


 ということは、ゴウラ王国軍が敵軍に加わっている可能性があると。


「恐らくは、数千ほどの部隊を派遣してくるでしょう」


 ふーむ。

 ツラギ王国にネファラムから救援を頼むことは可能ですか?


「……正直、難しいかと。チャイカ連邦は聖教会に協力して闇勢力と戦おうと宣伝しているので、堂々とネファラムに協力する訳には……」


 よき隣人にはなれる。だが友好条約は無理。

 ヒルダ王女の言葉が思い起こされた。

 ピアは特になにも言わず俺の顔をチラッとだけ見た。


「ですが、ツラギ王国は恩人の窮地に見て見ぬふりをするような、恥知らずではありませんぞ」


 籠城用物資の提供をしてくれるという。

 今は少しでも多く欲しいからありがたい。


 そして、更に……


「ヒルダ王女は、宮廷魔術師のサイア殿を援軍として派遣しても良いと。もちろん、誰であるかという身分を隠してですが」


 言われて一瞬固まってしまった。

 サイアはあの襲撃の事や、その後のゴニョゴニョについて誰にも言って無いのかね。


「良い話じゃないか?魔術師が一人増えれば、相当な戦力アップだろう。ここはご好意に甘えようじゃないか」


 ……ってピア。本当に良いんですか?


「構わぬだろう?だが、身分を隠す都合上あの護衛士には辞退して頂こう。サイア殿が単身で来て欲しい」


 パーク外交官は承知した。

 本当に良いのかな……。


「戦力を増強するのなら、傭兵を雇うという手段もあります。

 人族の傭兵は難しいでしょうが、獣人の傭兵ならば金払い次第では雇えるでしょう。

 チャイカ連邦もいくつかの傭兵団と契約を結んだとか」


 荒くれ傭兵団の者達を城に招き入れても、単に糧食の減りが早まるだけだ。アウトソーシングは止めといて、全部内製でやっとこう。

 だが、それとは別にチャイカ連邦と契約を結んだ傭兵団には打診したいことがある。


「分かりました。繋ぎ役は任せて下さい」


 それと、何かあった場合に骨鳥で緊急の連絡をする可能性があることも伝えた。


「私の伝書鳩のような物ですな。ヒルダ王女に伝えておきます」


 ーー


 それから何日かすると、本当にサイアは単身でネファラム城にやって来た。


 馬車から降りて、非常に気まずそうな顔をしている彼女を、俺とニヤニヤ笑いのピアが迎え入れる。


「あんな事があったのに、よく私をここへ呼べましたねー。どんな神経してるんですか」


 断らずにここへ来たあなたもかなり凄いけどな。


「私はツラギ王国に使える身です。断ることなんて出来ません」


 ヒルダ王女には馬車の一件について話して無いんですか?


「言えるわけ無いでしょうー、あんな事……」


「言っておくがサイア、お前はツラギ王国からの客人としてそれ相応の対応をネファラム城は提供しよう。だが、妙な真似をしたら許さぬからな」


 と、ピア。


「今の私はツラギ王国からの援軍としてここに来ています。ちゃんとわきまえていますよ、自分の役割は。宮廷魔術師として、ヒルダ王女の顔に泥を塗るような事は致しません」


 サイアを城に招き入れ、まずは城の全員に面通しする。

 キュー、テリー、ルナ、ミーアとその妹弟たち。


「ダークエルフばかりかと思ったら、まさかハイエルフもいるとはねー」


 サイアに見つめられて、ルナはサッと俺の後ろに隠れてしまった。


「あら、怖がらせちゃったかしら」


 厳密に言うとルナはハイエルフでは無いが、まああえて教えてやる必要も無いだろう。


「それと、私の猫獣人(おなかま)も」


 サイアとミーアは短期間の内に打ち解けあって話をしていた。

 同じ猫獣人同士ということで気の合うところがあるのかもしれない。


 大量にある空き部屋の中から一室与えた。

 当面はここで暮らすことになるだろうから、サイアは入念に準備をしていた。


 ーー


 さて、ほぼ全ての考えられる手は打った訳だが、あと一つだけ実行に移すべきか悩む事があった。


 ミラージに取り引きを持ちかけるかどうかだ。


 イカーデに話をすれば、何かしらの援助は引き出せるかもしれない。

 だが、見返りにミラージに来いと言ってくる可能性が高い。


 キューの研究所の中にある黒玉石の前で逡巡していると、


「エイジ君、それは止めておいた方が良いぞ、イカーデの奴はこれ幸いとばかりに君をミラージに連れ戻そうとするだろう」


 と、キュー。

 やはりそうなりますかね。


「ああ、そして君さえ手に入れば約束など簡単に破るよ。あいつはそういう男なんだ」


 キューは嫌な事でも思い出したかのような表情だった。

 かつて同じ場所で働いていたらしいから、過去に色々あったのかもしれない。


 じゃあ、この件は止めておきましょう。

 ……ところで例の準備は出来ていますか?


「……ああ、緊急脱出用装備の件だな。準備は完了している。だが、ピアはこれの使用には反対するだろうよ」


 どうしても城を守りきれないなら、もう最終手段はそれしかありません。


「分かっている。城の存続とネファラム家の存続のどちらを取るかと言われれば、もちろん後者だ。ピアも私が説得すれば理解してくれるはずだ」


 ーーーーーーーー キュー視点


 エイジは自室に帰って行った。


 ミラージに助けを求めるなんて絶対に駄目だ。

 奴らは待ってましたとばかりに君を取り戻そうとするだろう。


 君にはそれだけの価値があるんだよ。

 転生者君。


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