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戦利品

 

 ーーーーーーーーーー ライガー視点


 不覚にも暫しの間、気を失っていたようだ。

 身体のあちこちを負傷してはいるが、幸いにも致命傷足り得るものは一つも無いようだ。


 今は完全に崩壊した馬車の下敷きになっているが、少し力を入れて起き上がれば、問題なく脱出出来るだろう。


「あの横転の中でも、ほとんど無傷だなんて。それが骨鎧(ボーンアーマ)の効果、という事ですか?」


 サイアの声が聞こえた。

 ここからやや離れた場所に居るようだ。


「いや、そう言うわけでもないですよ。ほとんどシールドのおかげ」


 今度の声はあのネクロマンサーだった。

 どうやら奴は俺のすぐそばにいるらしい。


「またまたー。もっとあなたから闇属性魔術について、聞き出しておくべきでしたね」


「あの、両方とも馬車が壊れちゃったし、もうこれで引き分けって事で終わりにしましょう」


「なんで?私はまだ戦えるし、勝機もありますよー」


「……その左腕のケガ、痛くないんですか?」


 薄目を開けて残骸の隙間から外を見た。


 右腕で杖を持って掲げているサイアの姿が見えた。

 左腕がぶらんと垂れ下がり、かなり出血もしている。


 骨折しているな。それもあまり良くない形で。


「馬鹿にしないで下さい。これぐらい、全然大したこと無いですよー」


 嘘だ。本当は相当痛みを我慢しているはずだ。


「……もう止めましょうよ。そのケガも治療してあげますから」


 ネクロマンサーの姿も見えた。

 お互いに杖を掲げ、牽制し合ってジリジリと横に移動している。


 いいぞ、そのままこっちに来い。

 もうすぐ俺の大剣の届く範囲に入る。


「無理ですね。完全に決着がつくまでは」


「ミラージの指示だからですか?」


「それもありますねー。でも今は、それよりも……」


「……!」


「トトラ君の、(かたき)!」


 今だ!


 ーーーーーーーー エイジ視点


 緑ローブからは全く何も魔術行使の術式を検知しなかった。

 つまり、あの杖の動きは完全なフェイント。


 本命は馬車の残骸の中から飛び出してきたライガーの方だろう。


 ライガーは優秀な護衛士だ。

 なるべく生きたまま俺を連れ帰れ、という魔術師ギルドの指示を、馬車戦の時も忠実に守り続けた。

 だから俺の胴体に叩き込まれた大剣は、刃の部分ではなく腹の部分だった。


 致命傷にはならぬが、身体をまともには動かせなくなるように、計算された打撃。

 骨鎧(ボーンアーマ)越しにでも俺に深刻なダメージを与えた。


 肋骨が折れ、内臓に損傷を負い、衝撃に吹き飛ばされ、

 ……俺は準備しておいた魔術を行使した。


 損傷転移(ダメージシフト)


「ぶはぁっ……」


 俺に与えたダメージを、そのまま自分に擦り付けられたライガーは、血を吐いてその場に崩れ落ちた。


「くそっ、貴様わざと……俺の攻撃を……」


 血の泡を吐き出しながら呻くライガー。


 ああ、そうだ。

 律儀なあなたは俺を殺しはせず、死ぬ寸前のギリギリのダメージで押さえてくるだろうと、確信していた。

 そうでなければ、到底使えない逆転の技だ。


「ライガー!」


 慌てて緑ローブが駆け寄ろうとする、が。


「おっと、それ以上動くなよ魔術師」


 どこからともなく現れたピアが、緑ローブを羽交い締めにし、その首筋に短刀を突き付けていた。


「それ以上動けば、お前の首筋を掻っ切るからな」


 これでもう勝負はあったでしょう。

 敗北を認めては?


「くっ……」


 ライガーの惨状を目の当たりにして、さすがに緑ローブも諦めたようだった。

 憔悴しきった顔で項垂(うなだ)れていた。


「なんとか言ったらどうだ」


 ピアが羽交い締めにしている腕に力を込めた。


「ぐうっ……ああっ……」


 緑ローブの左腕の出血が、かなり酷くなっていた。

 ピアに羽交い締めにされて悪化しちゃったかな。


 だいぶ苦しそうですね。すぐに楽にしてあげましょうか。


「……!」


 俺がそう言うと緑ローブは目を見開き、羽交い締めから逃れようともがきはじめた。


 あ、今の言い方だと考え方によっては、トドメを差すみたいに思えるな。


 俺は緑ローブの右腕を掴み、この状態からでもまだ反撃の隙を伺っているライガーに向けて杖を掲げた。


「や、やめて…」


 前に、自分にもかけて欲しいって言ってましたよね?


「えっ?」


 損傷転移(ダメージシフト)


「あ……はっ……」


 緑ローブの左腕の怪我が癒え、逆にライガーは苦しみ悶えた。

 さすがにライガーもこれでは反撃できまい。


 ーー


 さーて、中ボスも倒した事だし、かっぱぎタイムといきますか。


「中ボス?」


 何故かハモって言うピアと緑ローブ。


 イベントバトルに勝利した後は、報酬として戦利品が貰えるんですよ。

 大抵のRPGじゃあ、そうなってます。


 まずはライガーの大剣から。

 手に持ってみると、両手剣とは思えない軽さ。他にも何か効果がありそうなマジックウエポンだ。当然貰っていきます。


 それから緑ローブの杖も頂いて、他には……


 俺はローブに手を掛けグッと胸元を開く。


「あ……」


 ローブの下には薄い肌着しか着ていないようだった。


 ろ、ローブはいいや。俺は緑色はあまり好きじゃない。


「……。」


 胸元を正してやり、次にナップサックを物色する。

 予備の杖があったので、これも頂戴する。


「なんだか追い剥ぎみたいだぞ、エイジ君」


 ピアにジト目で言われてしまった。

 冷静に考えると歴代RPGの主人公達もそう見えるかも。


 他には携帯食料やら女の子道具やらそういうのは残しといて、

 回復スクロールが一枚あった。


 これはライガー用に置いておきましょう。

 路銀も帰りの馬車賃ぐらいは残して、後は頂いて行きます。


「……なんで、殺さないの」


 え、物騒な事を言うんだなこの緑ローブは。


 するとピアは楽しそうに少し笑い。


「ふふふ、エイジ君は殺さないよ。何しろ私ですら命を助けたぐらいだからな」


 もう戦いは終わったんだから、やる必要なんて無いでしょ。

 それにあなたはツラギの宮廷魔術師だ。

 ヒルダ王女とは友好的にいたいのです。


「……そんな理由で?」


 何にせよ、あなたは命が助かったんだ。

 できればもう襲ってこないと、約束して欲しいところだけど。


「トトラ君は?」


 ああ、彼に逆転の望みを掛けるのは……


 チラリと横を見ると、赤ローブの魔術師がこちらに歩いて来ていた。


「トトラ君、あなた無事で……あっ」


 よく見ると、赤ローブの中に入っているのは人ではなく骨だった。


「あ……ああ、トトラ君、ああ……」


 えーっと、勘違いしないでくれよ。

 俺が見つけた時、彼はもう潰れた馬車の中で亡くなっていた。

 骨にしたのはその後で……


「うわああああ、あ、あああああっ!」


 そ、そこまで泣き叫ばなくても……


「トトラ君を返して!この悪魔!ひとでなし!」


 ……。


「口の聞き方に気を付けろよ魔術師」


 ピアが緑ローブの首筋に短刀を這わせる。


「お前の生殺与奪はこっちが握ってるんだ。あまり挑発的な態度を取るようなら、思わず手が滑って掻き切るかもしれぬぞ」


「うう、う……」


 敵対する所へ所属したら、同じミラージ同士でも戦い合う、そう言っていたじゃないですか。

 こうなる可能性はあなた方同士でもあったはずだ。


「……それでも、私はあなたを許さない」


 なんでですか。


「トトラは、私の……弟だから」


 それは……悪い事をしたな。すまなかった。


「謝るぐらいならーっ」


 緑ローブはキッと俺を睨み付け、


「あなたは偽善者よ。トトラ君をアンデッドに変えてしまったけど、私は見逃してやるから感謝しろって?冗談じゃ無い」


 ああ、こういう事が起きるから、知り合いになった人と戦うのは嫌なんだ。


 俺はあんたと戦いたく無いって最初に言ったぞ?

 それでもあんたは攻撃を仕掛けてきた。

 トトラの顔は少しだけ見たが、明らかに戦いには向いてなさそうな奴だった。そんな奴を戦いに巻き込んだのもあんたじゃないか。

 なぜそこまでして俺を付け狙う。


「それが、ミラージからの指示だから」


 ……そうかい、やっぱりミラージはろくでもない所だな。

 入らなくて良かった。


「いいえ、あなたはミラージに入った方が良かったわ」


 何?


「そして、あの人畜無害なソフィアさん辺りと一緒になって、治療施設でも開けば良かったんですよー。そうすれば誰も不幸にならず、あなたも平穏無事に人畜無害なスローライフを送れたでしょうねー」


 ……。


「なんでこんなダークエルフなんかに、ついて行っちゃったんですかー?

 大方、色仕掛けかなんかで騙されたんでしょう。あなたはウブでチョロそうだし、ちょっと裸を見せてやったら、すぐに言いなりになりそう。

 あなた、今の自分の立場分かってますかー?

 このダークエルフの便利な道具、それでしかないんですよ」


「黙れ!」


 ピアが緑ローブの喉元に短刀を突き付ける。


「なんならお前もあのトトラと同じようにしてやろうか?そして姉弟仲良くネファラム城の砲台として、並べて立たせてやってもいいんだぞ」


「ふん、そんな事、自分じゃ出来もしないくせに」


「貴様っ!」


 サイアさん、そこまでにしておいて下さい。

 俺はあなたに危害を加えないと言ったけど、ピアをこれ以上侮辱するようなら、その考えを改めないといけなくなりますから。


「……。」


 ーー


 ピアはサイアを解放し、俺の隣にまでやって来た。

 サイアはその場にしゃがみこみ、力無く項垂れていた。


「エイジ君、本当にこのまま帰すのか?

 相手はいきなり攻撃してきた上に、酷い暴言まで吐いた奴なんだぞ」


 ……ええ、このまま、帰します。


「君という奴は本当に……分かったよ、君がそういうのなら」


 ありがとう、ピア。


 と、それまで押し黙っていたサイアが。


「酷い事を言って悪かったわ……それは謝罪します」


 ポツリとそう言い、


「でも、トトラ君は返して。……戦いに敗れる事もあるのは魔術師の宿命。だけど、弟を弔ってやりたいから」


 それは出来ない。

 彼はネファラムの戦力として、これからは利用させてもらいます。


「……あなた、ピアさんが死んでも骨に変えて戦力にしちゃうの?」


 いや、しない。

 多分、あなたが死んでも俺は骨に変えない。


「……なんで」


 それが俺の個人的な矜持で、越えたくない一線だから……


 いや、違うな。


 あなたの言うように、俺は偽善者だから、そこまでやるだけの覚悟が無いんですよ。


「……。」


 俺は元トトラだったスケルトンメイジから赤ローブを脱がせ、一旦畳んでからサイアの足元へ置いた。


 ……俺が返せるのはここまでだ。


「……あなた、なんで闇属性なんて持って産まれちゃったんでしょうね。他の属性だったなら……」


「お前、まだっ!」


 再び激昂しそうになるピアを抑えて、


 俺は自分の闇属性を呪う気持ちなんて無いですよ。

 そのおかげでピアと知り合う事も出来たのだから。


「エイジ君……」


 俺はピアを引き寄せ、その身体を抱きしめた。

 ピアも俺の身体を抱きしめ返してきた。


 サイアは虚ろな目でただ二人を見つめていた。


 ーー


 骨馬車がこっちに走ってくるのが見えた。

 予備の骨馬車、ということは乗っているのは……


「よお、エイジ。迎えに来てやったぜ……ってお前ら何やってんだ」


 やはりテリーだった。


「もう、遅すぎだぞテリー。とっくに戦いが終わってるじゃないか」


「えー、そりゃねえよピア姉。敵襲を受けたから早く来てくれって呼ばれて、これでもかなり急いだんだぜ……」


 ーー


 じゃあ、戦いはここまでって事で。

 最低限の路銀と回復スクロールは残しときますから。


「……。」


 サイアは何も言わず、ただ黙って俯いていた。


 緑ローブと護衛士を取り残し、テリーの操る骨馬車に乗り込んで出発した。


 やれやれ、ただの祝勝会に出席するだけだったのが、犯人呼ばわりされるわ、襲撃は受けるわで大変だったな。


「私は君の事を道具だなんて思ってない、思ってなんか、いないからな」


 分かってます。分かってますよ、ピア……


 馬車の中で再びピアと固く抱きしめ合い、唇を重ね合わせた。


「何があったか知らないが、お二人さん。そういうのは城に帰ってからで……って言うだけ野暮か」


 テリーのぼやきを聞き流しながら、俺はピアの身体を座席に押し倒した。


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