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名探偵登場

「全員その場を動かないで下さい!衛兵隊、出入口を封鎖して!」


 サコンジが叫び、会場は騒然となる。


 ピアの所へ向かいたかったが、衛兵に「捜査に協力して下さい」などと言われ阻まれてしまう。


「衛兵隊、凶器を捜索して下さい!犯人はまだ所持している可能性が高い!」


 衛兵達は参加者のボディチェックを始めた。


 俺の所にも衛兵が来て入念にチェックされた。

 もちろん武器なんて持ってない、入場時に杖まで取り上げられてるからなあ。


 参加者全員のボディチェックが終わったが、誰もボウガンなんぞ持ってない。

 続いて会場内の徹底的な捜索が行われ……


「あったぞ!凶器のボウガンを発見!」


 なんとビュッフェテーブルの巨大寸胴鍋から出てきた。

 全長60センチぐらいのボウガンがスープの底に沈んでいたという。


「鍋のそばに居た者を確保してください、恐らく犯人はその中にいます!」


 寸胴鍋のそばに居たのは全部で三人。

 給士の男、召し使いの女、そして……ピアだ。


 おいおい、冗談じゃないぞ。


 サコンジはイゼルナ王女の前から移動し、寸胴鍋の方へ向かった。


「状況から考えて、射撃後に鍋の中に凶器を隠せた者はこの三人しかいません。

 そして、この中で最も怪しいのは、ダークエルフ、貴方です」


「私だと?」


「貴方はボウガンの名手だそうですね、先の戦場でも敵将を討ち取る戦果を上げたとか……

 ならばここからイゼルナ様を狙撃し、すぐに寸胴鍋にボウガンを隠すことは容易いでしょう」


「待ってくれ、私はそんな事などしていない、無実だ」


「犯人はみんなそう言うんです。

 衛兵!彼女を尋問室へお連れして。

 なあに、多少痛め付けてやれば、すぐに犯行を自供しますよ」


 なんだと、ふざけんな。


 おい、待て!

 うちのカミサンはねえ~、犯人じゃ無いと思うんですよ。


「おやおや、旦那様ですか。奥方様を庇いたいお気持ちは分かりますが、犯人は彼女でほぼ間違いは無い」


 どこがだよ。


「あれれーおかしいなぁー」


 野太い声で言ったのは、護衛士でバーバリアンのライガーだった。


「参加者は全員が入場時にボディチェックを受けたはずだ、どうやって彼女がボウガンを持ち込んだというのだ?」


「失礼ですが、ライガー殿。女性はポケットが一つ多いということを、お忘れではありませんか?」


 入るか馬鹿。

 ガバガバなのはお前の推理だけにしとけ。


「いーや、彼女ではボウガンを会場内に持ち込む事は不可能だ」


「では、このボウガンは誰が持ち込んだというのですか」


「衛兵隊員にも武器のチェックは行っているのだろうな?」


「もちろんです。私を含め隊員全員がチェックを受けていますよ。見ての通り誰も武器を携帯しておりません」


 衛兵全員がグルならもうお手上げだが……

 さすがにそれは無いと思いたい。


「真実は、いつも一つ。

 ならばボウガンを持ち込めたのは、彼らだけだな」


「彼ら、とは?」


「王族達だ」


 ーー


 ライガーがそう宣言すると会場が少しどよめいた。


「なんと不敬な。王や姫様が犯人だと言うのですか!」


「ボディチェックはしたのか?王族達に」


「……いや、そのような失礼な事を姫様達には……」


「ならばそうとしか考えられぬではないか」


 うーむ、仮に王が犯人だとしたら、衛兵は逮捕出来るのかな。

「ああ、王様でしたか。じゃあノーカン」

 ってなりかねんが。


「姫様の誰かがボウガンを射った、そういうんですか、貴方は!」


「いや、王族の方々はボウガンを持ち込んだだけなのだ。隙を見て手下に武器を渡し、手下が射ったのだ」


 つまり共犯者がいるってことか。


「その手下というのは……?」


「むろん、射撃直後にボウガンを隠す事が出来た者だ。寸胴鍋の側にいた三人、それぞれ所属を述べよ」


 給士男がムラカ第二王女所属、

 召し使い女がイゼルナ第一王女所属、

 ピアは俺の嫁です。


 ムラカ王女だとしたら、イゼルナ王女を射る理由なんてあるのだろうか?

 一方、イゼルナ王女だとすると、これは自作自演という事になるが……


 ピアはもちろん射ってない。俺は信じるよ。


「妙ですねえ……」


 と、サコンジ。


「そもそも全長60センチものボウガンを、隠して運ぶなんて事が可能なんでしょうか?」


 お前、さっきまでピアがそれをやったと主張してなかったか?


「細かいことが気になるのが、僕の悪い癖」


「普通は無理だ。服の中に隠し持っていたりすれば、不自然にボコッと膨らんでてバレるだろう。

 だが一人だけ、そうなってもバレない体型の者がいる」


「誰ですか、それは」


「もちろん、彼女だ」


 ライガーが指差した先にいるのは……ムラカ第二王女。


「ぶひっ!」


 この状況下でも、まだ食事を続けていたムラカ王女が思わずむせた。


「わたくしが犯人ですって?そんなわけないでしょ」


「しかし、貴方の体型ならば脂肪に埋もれさせて少々の物なら隠すことが可能だろう」


「なんですって!」


 体重0.1トンを越える巨体を揺らせながら、ムラカが立ち上がった。


「わたくしに対して、なんて無礼な振る舞い。アナタ、只じゃおきませんわよ」


「もし、貴方が犯人でないならば……私はいかような罰でも受けましょう」


「よござんす、ならば……」


 ムラカ王女はライガーの全身をねっとりと舐めるように見渡して、


「アナタ、いい身体してるわね。今晩わたくしの寝室へいらっしゃい、それで許してアゲル」


「……ええっ」


 引きつった顔でライガーが硬直した。


 ーー


「ハッハッハッハ……ナンセンス、ナンセンス!」


 突如、会場内に居た客の一人が立ち上がった。

 犬型獣人で、口にパイプを咥えている。

 そしてかなりのイケメンボイス。


「いや失礼、あまりにシロウト考えの推理だったもので……申し遅れました、私は名探偵ホムズ。隣にいるのは助手のワットソン医師です」


 自分で名探偵って言うのか……


「……シロウト考え、だと?」


「ええ、そうです。仮にムラカ王女がボウガンの持ち込みに成功したとしましょう。王女が専属の給士にボウガンを渡し、その給士はボウガンを持ってビュッフェテーブルまで移動したとでも?……そんな事をしたら絶対に誰かにボウガンを持っていることがバレます」


「……王女が、自分でビュッフェテーブルまで行き、寸胴鍋にボウガンを入れた可能性は?」


「無いですね。王女は自分の席から一歩も動かず、料理は全部給士に取りに行かせていましたから」


「むう……」


「そもそも、そんな大きいボウガンを寸胴鍋に沈める事自体がナンセンス。絶対に誰かに見られますよ」


「では……ホムズ殿、犯人はどうやってボウガンを隠したというのですかな?」


 と、サコンジ。


「不可能な物を除外していって残った物は、たとえどんなに信じられない物でも、それが真相……


 そのボウガンは凶器では無いのです。


 恐らく犯人が捜査を撹乱する為のダミーで、最初から寸胴鍋の底に沈んでいたのですよ」


 なんだってー。

 じゃあ俺達はボウガンが沈んだままの鍋からスープをよそって飲んでたのかよ、うぇー。


「僕としたことが……大変な勘違いをしていたようです。

 では、凶器のボウガンはまだ別にあると」


「いえ、衛兵隊があれほどくまなく捜索したのです、ボウガンなどの武器類は会場内には無いのでしょう」


「……犯人は、どうやって矢を射ったのですか?」


「射った、という表現が当てはまるのかどうか……犯人は矢だけで犯行に及んだのです」


 どうやるんだ。ダーツみたいに投げるのか?

 そんなの大して威力なんか出ないぞ。


「ボウガンを使用せずに、殺傷力のある速度で矢を飛ばす事が出来る者。

 そんな事が出来る人は、この会場に一人しかいません。

 ……風属性魔術師のサイア殿、あなただけです」


「ええっー!私?」


 突然犯人呼ばわりされて驚く緑ローブ。


「そうです。風属性魔術を行使して矢を飛ばし、イゼルナ王女を襲った犯人、それはあなたです」


「そんな事してませんよー、杖だって持ってないのに」


「杖は無くとも接触魔術を行使する事は可能なはず。あなたは手のひらに矢を乗せ、魔術を行使したのですよ」


「……私はここにいるエイジ殿とずっと会話をしていました。

 私は魔術なんて使っていませんよねえ?」


 確かにずっと会話をしていた。

 魔術を使うような様子は……


 まてよ、あの瞬間、俺はピアを探すためにキョロキョロしていて彼女から目を離していた。

 その隙に彼女は……


「やってません……よねえ?」


 すがる様な眼で俺を見る緑ローブ。


 ーー


 ええ、彼女は魔術を使ったりしていませんね。


「なぜそう言い切れるのです」


 と、ホムズ。


 こんな至近距離で風属性魔術を行使したりすれば、俺は間違いなくその魔術を感知できます。

 彼女からは一切そういうものを感知しておりません。


「なるほど、そういう事ですか」


 と、サコンジ。


「つまりあなた方二人は共犯者、あなたは嘘をついて彼女を守っておるのでしょう」


 なんでそうなるんだよ。


「あなたが犯人ということは、あのダークエルフも怪しいでしょうなあ。

 衛兵、この三人を尋問室へお連れして。

 ちょっと痛め付けて真実を自白して貰いましょう」


 こいつ……


 どうもこの男の言動はおかしい。

 最初からピアを狙い打ちして、犯人に仕立て挙げようとしている節がある。


 ここは一つ、カマを掛けてみるか。


 待って下さい。その前に検証したい事があります。


「言い訳は尋問室で聞きましょう。衛兵!さっさと連行して」


「待て!エイジ殿の話を聞くのが先だ!」


 サコンジのごり押しを止めたのはヒルダ王女だった。


「王女様、しかしコヤツめは……」


「お前は黙っていろ……エイジ殿、話を続けてくれ」


 分かりました。


 俺は椅子に座り、半分寝ているようなポーズを取った。

 確か名探偵が事件の真相を語る時には、こういうポーズを取るのが定番らしい。


 サコンジさん。あなた最初にこう言いましたね。

『イゼルナ王女を狙撃しようとした犯人が、この中にいる』と。


「ええ、それが何か?」


 その時、あなたは凄い事をやってのけた。

 なんとイゼルナ王女の前を横っ飛びでジャンプし、飛んでいるボウガンの矢を手で握りしめた。


「王女様を守りたい、その一心からの行動です」


 いや、素晴らしい反射神経だ。

 是非とも、もう一度見せて貰いたい。


「はいぃ?」


 今から私があんたをボウガンで射ちますんで、あんたは発射された矢を手で掴んで見せて欲しい。

 なあに、先ほどと違って今度は事前に飛んでくる事が分かってるんです。あんたなら容易くやって退けるでしょう。


「……え、ええっ。貴方、何を言って……」


「衛兵、エイジ殿にボウガンを渡して」


 ヒルダ王女が手配し、俺の手にボウガンが手渡された。


 さて、それでは射ちますよ、サコンジさん。


 俺はボウガンを構え、オドオドしているサコンジに狙いを付け……


 おもむろに引き金を引いた。


 バシュっというボウガンの発射音が鳴り響いた。


「わあああっ!」


 思わずしゃがみ込んで身を守ろうとするサコンジ。


「あ、危ないじゃですか!飛んでくる矢を手で握りしめるなんて、そんな事出来るわけが、無いじゃありませんか!」


 唇をぷるぷる震わせながら、青筋を立てて怒るサコンジ。

 ああ、やっぱりな。


 安心してください、矢は発射されていませんよ、空射ちです。

 しかし妙ですなあ、あんたは最初にそれをやったと主張していたのに、今は出来ないと言う。


「いや、そ、それは……」


 サコンジさん。あんた嘘を付いてますね?

 あんたには飛んでくる矢をキャッチして握りしめるなんて芸当は出来やしない。

 そんなことが出来るのは護衛士のライガー殿のような歴戦の勇者だけですよ。


「……出来るの?ライガー」

 と、緑ローブ。

「え、、もちろんだ」

 と、ライガー。


 サコンジさん。あんたは飛んでくる矢をキャッチなんかしていない。

 キャッチしたふりをして、最初から矢を握りしめてジャンプした。

 つまり、ここでは事件なんか起きていない。

 全部あんたの自作自演だったのですよ。


「な、何を根拠に……そうだ、ボディチェックは私も受けています。矢など持っていたら、その時にバレるはず!」


 サコンジさん。

 あんたは身体のポケットとやらに、やけにこだわっていましたねえ。

 その矢が入るくらいのポケットなら、男女共に一つ後ろに持っているんじゃありませんか?


「え、じゃああの矢って……エンガチョー」


 緑ローブが露骨に嫌な顔をした。


「衛兵隊、サコンジを拘束しろ!」


 ヒルダ王女が命令を下す。


「待って下さい!一方的過ぎます!私の話だって」


「聞くわけにはいかんな」


 と、ヒルダ王女。


 ーー


 サコンジは拘束され、拘置所に入れられた。

 その後、サコンジ家の家宅捜査が行われチャイカ連邦との繋がりを示す証拠がいくつか見つかった。


 やれやれ、またもやチャイカか。


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