英雄
ピアとのめくるめくコスチュームプレイを楽しんでいたある日、ツラギ王国からの使者がやってきた。
先のゴウラとの戦勝を祝して祝勝会を開きたいので出席してくれないか、との話だった。
折角だから出席することにしたが、
キューは研究が忙しい、テリーは「俺そういうのパス」といつもの通りだった。
ルナにも聞いてみたのだが、
「王国ってことは、ミラージから宮廷魔術師とか呼んでない?」
緑ローブの獣人がいたな。
「じゃあ、あたしもやめとく」
ゴウラとの戦いの時は行きたそうにしてたのに。
「あの時は、あなたに危険が及ぶかもしれなかったから。今回は大丈夫そうだし、待っとく。
あ、お土産は期待してるからね」
お土産?
ツラギの特産品って何だろうな。
結局俺とピアの二人で行くことになった。
ーー
骨馬車に乗り、ツラギの王都へ向かった。
まるっと一日かけて到着した王都は、なにやら以前とは違った雰囲気であった。
前はこう、石でも飛んでくるようなピリピリとした状態だった王国民達の様子が、多少はマシになったような……
まあ、それでも遠巻きにネクロマンサーとダークエルフを眺めているという構図は変わらないが。
登城するとパーク外交官が俺達を出迎えた。
「ようこそお出で下さいました、英雄どの」
え、英雄?
「共に戦い、ゴウラ・チャイカ連合の大軍を破ったばかりか、ヒルダ王女の命まで救った英雄。そう考えている人もいるのですよ」
ほう、頑張った甲斐があるものだな。
「それは貴女に対してもですぞ、奥方様」
「なに、私も?」
ちょっとビックリするピア。
「元々ナガッセより東でダークエルフを見かける事など、ほぼ無かったのです。聖教会の逸話に出てくる邪悪な……失礼、不思議な存在としてしか知られていないのです。それが、今は我々の王都に招かれて味方までしてくれる。あなたはエキゾチックな存在なのです」
「ふうむ、そう言うものか」
ーー
前に来たときと同じ部屋に通された。
祝勝会の間はこの部屋を自由に使って良いという。
城の召し使い達が骨馬車から運んできた荷物を広げ、まずは滞在の準備をした。
それが一通り終わると二十四時間骨馬車でガタガタ揺られていた身体を癒すため、少しのんびりとする。
高性能ゴム製タイヤやダンパーの開発を本気で考えた方が良いかもしれんなあ。
ふとピアの方を見ると、物思いに耽っている様子だった。
思えば前に来たときもそうだが、ツラギ王国ではピアは言葉少なげになる。
何しろ周りはほぼ全部人族で時々獣人という状態で、ダークエルフはピアただ一人なのだ。
ダークエルフの王都に俺が行ったときと同じような疎外感を、彼女も感じているのかもしれない。
なんだか好感触で迎えられているね。
「ん?……ああ、そうだな。人族からそう言う風に見られるのは、初めての事かも知れぬな。
……もちろん君は別だぞ、エイジ君」
このまま友好関係を続けられれば、ネファラム城も安泰なんだけど。
「そうなれれば、それに越したことはないな。
だが、それも君という存在があればこその関係だぞ。人族の君が城の主だからこそ隣国は仲間に出来るかも、と考えているのだ。もし、ダークエルフだけでネファラム城を取り戻していたら、恐らく彼らは……」
闇と光の対立はそれほどまでに根深いと。
なんとか共存できる方法はないんですかね。
「それはかつてナガッセが目指し、そして手痛い失敗をした道だよ。アザ教も聖教会も両方とも敵にするという道なのだからな」
うーん……
「なあ、エイジ君。こんな事を言うと、君は怒るかもしれないが、それでも一つ提案をさせてくれないか」
な、何でしょう。ちょっと怖いな。
「いっそ人族との交流をほどほどで止めておき、アザ教団に全面的な支援を受けるのはどうだろう。
チャイカ連邦の後ろには絶対に聖教会がいる。
両者は一心同体のようなものだからな。
そして聖教会に対抗出来るのは、かつてより衰えたとはいえ、アザ教団だけだ」
……。
「この前のツラギとゴウラの戦争、あの最中にネファラム城が攻撃を受けた。不自然な戦力の分散、と言っているが、本当にそうだろうか?
あれは、ツラギへの攻撃が陽動で、ネファラム城への攻撃こそが主目的だったのでは」
……まさか。
じゃあチャイカ連邦はネファラム城を攻略する為だけにあの戦争を引き起こした、っていうの?
「どうもそんな気がしてならぬのだ。
そしてチャイカの思惑にハマって『兵力の分散』、をやらかしてしまったのは我々の方かも知れぬぞ。実際、ネファラム城とツラギへの派遣軍の二つに分散してしまったのだからな」
では、ゴウラだけでなくツラギもチャイカと繋がっているって?
「ツラギ王国の全てがチャイカ連邦と繋がっているわけではないだろう。
だが、ツラギ軍と別れ、ネファラム城へ向かうと直ぐに攻撃は止み、チャイカ軍は北上した。
あの時、君も言っていた。こちらの行動がチャイカ軍に伝わっていると。
なぜ伝わった?
ツラギにチャイカとの内通者がいるから、ではないか?」
その可能性はある。
だがまだ分からない。
移動中にゴウラかチャイカの斥候に、補足されたからかもしれない。
「確かにな。けど、あまりツラギを信頼するなよ。
もし、聖教会が聖戦を宣言し、ネファラムを聖教会の正式な敵だと認定したら、全人族は結集してネファラム城を攻撃するぞ。
その時はツラギ王国もそれに参加するだろう。
ツラギは中立にすらなってはくれない。中立になるということは、ネファラムと共に聖戦の対象になるということだから。
彼らはネファラムと共に死ぬ道は選ばず、自分達の王国を守る事を選択するだろう。例え『英雄』に対してでも、な」
……こう言ってはなんですが、ネファラムはただの小城一つですよ。それに対し、そこまでしますかね。
「チャイカ連邦は、いや聖教会は、そういうふうには考えていないのかも知れない。
あのパークとか言うツラギの外交官も言っていただろ。
北方戦争後の協定を破って、闇陣営が緩衝地域に勢力を広げた。
そう、思っているのかもな」
それじゃ、俺があの城を取り戻したせいで、北方戦争の再開にすらなりかねない事態を巻き起こした、というわけですか。
「そうかも知れない。
だが、あの城はネファラム家の物だ。それをオークの山賊どもの手から取り戻した事は、なにも間違った事ではない。
誰がなんと言おうと絶対にだ」
やや強い口調でそう言うと、ピアは俺の身体に抱きついてきた。
「エイジ君、君はネファラム家の失われた領土を取り戻してくれた。もはや三人となってしまったネファラム家の末裔として、君に最大限の感謝と恩義を。
この身を全て君に差し出しても足りないほどの、恩義だ」
ピア……。
俺もピアの身体を抱きしめ返す。
念のために聞いておきます。
今現在、最も早く平和を手に入れる方法は、
ネファラム城を放棄し、ダークエルフ王国の王都かその周辺に新しくネファラム館を建てることでしょう。
その道は選択しますか?
「それは無い。
そもそも自分の領土を他人に奪われていく過程を平和などと呼んではならない。
もしネファラム城がチャイカ連邦の大軍に攻め込まれて落城するという事になったら、私はそこで討ち死にするまで踏み留まるよ」
それはだめです。
「ん?」
もしも落城してしまう事になったら、その時は全員で脱出して落ち延びて再起を図りましょう。
そしていつの日かまたネファラム城を取り戻すのです。
俺に恩義を感じているというのなら、それだけは約束してください。
俺はピアが死ぬ所なんて、絶対に見たくない。
「ふふっ、分かったよエイジ君。それは約束しよう」
どちらからともなく、二人で軽く口付けを交わした。
この祝勝会から帰還したらアザ教と連絡を取ってみましょう。
そしてそれと平行して、ツラギとの友好関係を模索する道は残したい。
隣国が友好的であることに、越したことは無いですから。
「……分かったよ。エイジ君がそう言うのなら。
キュー姉も君の選択を支持すると言っていたしな。
けど、危険な道を選んでいるんだって事は認識しておいてくれよ……
私は全力で君の事を守る。でも、守りきれない事だってあるかもしれない。
私とて、君が死ぬ所なんて、絶対に見たくはないんだ……」
ーー
世界情勢の変化、か。
ならばもう一度変化させて、ネファラム城が存続する権利を世界に認めさせてやろうじゃないか。
それぐらいの事を成し遂げてこそ「英雄」だ。
ほんの数回戦闘に勝ったぐらいで、調子に乗って名乗って良い称号なんかじゃない。




