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丘陵の戦い

 杉林から進出しつつあるゴウラ軍は、こちらとほぼ同規模の兵数を有していた。


 だが、こちらは丘陵地という戦場の要所を確保している。

 ファ○アーエ○ブレムでも大○略でも、丘の上にいるユニットは大体防御力が上がったりするものだ。


 ゴウラ軍は弓兵を前面に押し出して横隊にした。

 その後ろに何列か歩兵の横隊が続いている。


「あれはゴウラ王国のウリム将軍ですねー」


 緑ローブが指差す先には、一人だけ馬に乗り全身フルプレートの金属鎧を着た男がいた。


 天幕に籠らず、直接戦場に出てきて指揮を取るタイプの将軍か。

 確かにその方が兵達は鼓舞され士気は上がるだろうが、自分の身を危険にさらすリスクがある。

 俺みたいに運動神経の鈍い奴には到底真似できない。


 隣には赤ローブを着た魔術師がいる。


「となりにいるのはゴウラ王国の宮廷魔術師トトラ君ですねー」


 となりのトトラ君はミラージ所属の魔術師じゃないの?

 ミラージ同士で戦っていいのか?


「もちろん彼はミラージの魔術師ですよー。魔術学校では私の一つ下で、引っ込み思案でおとなしい子でした。

 同じミラージの魔術師でも外に出て敵対する組織に所属したら当然戦います。これはミラージの魔術師の宿命みたいなものですー」


 そうなのか。

 一度親しくなった相手と戦うなんて、あまりやりたくないなあ。


「へえ、ソフィアさんみたいなこと言いますねー」


 ソフィアって、白ローブのソフィアか?


「知り合いなのですかー?

 絶対に他人を傷つけたくないから、という理由で白ローブになった人ですよ。あなた達なんか似てますね。あなたの魔術はソフィアさんと違って禍々しいけどー」


「あー、エイジ君。ボウガンの準備は出来たぞ」


 ピアには長距離狙撃用ボウガンの準備をしてもらっていた。

 前線にノコノコ出てくるような脳筋指揮官は、とっとと倒してしまえばいい。


「ゴウラの将軍は全身金属鎧だから、狙撃してもダメージは浅かろう。となりの魔術師はローブだけだから撃てそうだが」


「魔術師も多分シールド張ってますよー。私も張ってるし。あなたもシールド張らないと危ないですよー」


 いや、俺も骨鎧(ボーンアーマ)張ってるよ。

 ちなみにピアにも掛けてある。


「ボーン?闇属性の魔術ですか?」


 あ、黙っといた方が良かったかな。


「えー、ケチ臭い事言わないで、教えてくださいよー。

 闇属性の魔術なんてミラージでは扱ってないから、興味津々ですよー」


 と、言っているうちにゴウラ軍が横隊のまま並んで一斉に前進を開始した。

 戦争が始まったぞ、おしゃべりしてる場合じゃない。


「弓隊、構えー」


 ツラギ軍の弓兵隊指揮官が命令を下した。

 高所に陣取っている分こちらの方が弓の射程が長い。

 ツラギ軍弓兵は一斉に弓に矢をつがえて引き絞り、


「射てーっ!」


 一斉に放たれた数千本の弓矢の様子は、まさに矢の雨だった。


 まともに矢の雨を浴びたゴウラ軍はバタバタと人が倒れ多数の犠牲者がでたが、損害を厭わず盾を掲げながらそのまま前進を続ける。


竜巻(トルネード)ー!」


 緑ローブが杖を掲げて風属性の魔術を行使する。

 ゴウラ軍の間で小型の竜巻が発生し、何人か巻き込まれて上空に吸い上げられた後、落下して地面に叩きつけられた。


 よし、じゃあ俺も猛毒雲(ポイズンクラウド)辺りで……

 と、思っていたら敵の赤ローブが火球(ファイアボール)を撃ってきた。

 あわてて魔術解除(ディスペルマジック)で掻き消す。


 魔術師同士の戦いというのは、ぶっちゃけ地味な戦いだ。

 魔術を撃つためには、足を止めて杖を掲げて頭の中で術式を構築しながら行使する、というプロセスが必要なので、


 敵のライトニングボルトを横っ飛びで紙一重にかわしながらアイシクルランスをカウンターで放つ!


 なんていうカッコいい動きがない。


 敵が魔術発射ー。こっちの魔術で解除ー。

 こっちが魔術発射ー。敵の魔術で解除ー。


 の繰り返しになる。


 これは前世の戦争なんかでも、極端に言ってしまえば、


 敵がミサイル発射ー、こっちの妨害システムで妨害。

 こっちがミサイル発射ー、敵の妨害システムで妨害。


 の繰り返しを続けるだけなのが現実だったのとなんか似ている。

 AIが発達する前は空中戦でドッグファイトとかやってた時代もあるそうだが……


 要するに、戦争の中における魔術師とは、ちょっと特殊な弾が撃てる移動式砲台、でしかないってこと。

 そして俺はトトラ君の魔術を延々と掻き消し続けるという、地味な役割を仰せつかったということだ。


「トトラ君の魔術なんかほっといて、あなたも何か禍々しい闇属性魔術で攻撃したらどうですかー?」


 えー、そんなことしたら味方が吹き飛ばされちゃうじゃないですか。


「ほら、そういう考え方するとこ、ソフィアさんそっくりー」


 うるさいやーい。


 ゴウラ軍は矢の雨と竜巻で被害を受けながらも構わず前進し、ついに弓が届くところまでたどり着いた。

 そこから一斉に弓を撃ち始めたが、下から撃ち上げる矢は効果が薄く、横に並べた盾で大半が防がれてしまった。


「怯むな!攻撃を続けろ!」


 ウリム将軍が叫び声を上げた。

 ゴウラ軍は不利な状態からでもお構い無く矢戦を継続する。


 結果、ゴウラ弓兵は被害が相当出たが、こちら側も並べた盾の隙間から狙う弓兵に少なからぬ損害を受け、負傷者の後方搬送等で多少の混乱が発生した。

 その隙をウリム将軍は見逃さない。


「第2列、前へ出よ!」


 ウリム将軍は前線のやや後方で陣頭指揮を取り続け、馬上から剣を掲げて歩兵部隊へ突撃を命じた。


 弓兵の間から染み出る様に前へ出た歩兵部隊は、横隊のまま喚声を上げて坂道を駆け上がってくる。

 だが、野戦築城で築かれた柵や逆茂木に阻まれ、もたついてしまった。

 そこを弓矢で攻撃され、ゴウラ歩兵はバタバタと倒れた。


「後続部隊、委細構わず攻撃を続行しろ!」


 ウリム将軍は続けて第三列、第四列にも突撃を開始させた。

 いかにも脳筋将軍らしい、体育会系の力攻め。

 ゴウラ軍は仲間の死体を乗り越えながらもついにこちらの陣前へ達し、接近戦が始まった。


 眼前で繰り広げられる、両軍入り乱れての肉弾戦。


 寡黙な男、緑ローブの護衛士ライガーは剣に手を掛けたままプルプルと震えていた。


 どうした?恐いのか?


「バァーローゥ、これは武者震いだ」


 あの乱戦の中へ飛び込んでいって、自分も剣を振るいたくて仕方ないのだろう。さすがバーバリアン。


 ーー


 山の天気は変わりやすい。

 折しも雨が降り始め、やがてどしゃ降りとなった。

 戦争は、雨が降ったからといって雨天中止になどならない。

 雨天決行で文字通り泥沼の戦いが続く。


 雨に打たれながらもウリム将軍は兵士を鼓舞し続けている。

 俺とピアは骨馬車に戻って、雨宿りしながら開けた窓から魔術を行使したりボウガンを撃ったりした。


 と、その時黒玉石に通信が入った。

 ピアがそれに出て話を聞く。


「エイジ君、ネファラム城に敵部隊が迫ってきているらしい。旗印からすると、チャイカ連邦の部隊だそうだ」


 ええっ、向こうにも敵かよ。このタイミングで。


「まだ攻撃は始まってないが、敵は矢の届かぬ距離まで離れて集結中らしい。今のところ約二千だそうだが、まだ後続があるようだ」


 今からこの戦場を放り出して、ネファラム城へ救援に向かう。なんて事は不可能だ。この状況からスケルトン部隊三千が抜けたらツラギ軍は戦線崩壊しかねない。


 ネファラム城に残してきた兵力は約千五百。

 暫定アンデッド制御オーブでは、まだキュー達は大雑把な命令しか与えられない。

 城壁と未完成の堀で、どこまで防ぐことが出来るだろうか?


「向こうの事は、もう任せるしかあるまい。なあに、キュー姉達なら上手くやってくれるさ」


 そうだな、ピアの言う通りだ。

 俺達は目の前の戦争に集中しよう。

 一つ間違えただけで、自分の命すら失いかねないのだから。


 ーー


 通り雨が止み、また日が差し込み始めた。


 地面はぬかるみ、兵達は泥まみれ汗まみれ。

 それでも無慈悲に戦争(ころしあい)は続く。


 乱戦は延々と何時間も続き、両軍の疲労はピークに差し掛かっていた。

 そんな中、俺のスケルトン部隊の前にいたゴウラ軍の左翼が崩壊し始めた。

 普通の人間なら、こんな力押しがいつまでも続けられる訳がない。

 だが、アンデッドは違う。彼らには疲労も体力も関係ない。

 ただ黙々と戦いを続けるだけだ。


 崩壊しかける左翼の中へ分け行って、ウリム将軍が兵士を鼓舞する。


「踏み留まれ!勝利は目前だ!ここが正念場だぞ!」


 崩壊は無理矢理に収まり始めた。


 むう、そろそろあいつには消えていただこう。


 俺はスケルトン弓兵の何体かに、魔術スクロールが丸められた特製の矢を渡した。

 スケルトン弓兵は敵陣の様々な場所にその矢を曲射でばら蒔いて撃ち込む。

 一斉にスクロールが開き、セットされていた音声が再生された。


「ウリム将軍が戦死した!」

「ウリム将軍が倒されたぞ!」


 ゴウラ軍全体に動揺が広がった。

 将軍が戦死したらしいぞ、俺達の指揮官が死んだ。


「待て!私は死んでなどおらん!」


 ウリム将軍はヘルメットを脱ぎ捨て、自分の顔が兵達によく見えるようにした。


「私はここにいるぞ!誤報に騙されるな!私は健在だ!」


 叫びながら兵士を踏み留ませる。


 ピア、行けるかい?


「ああ、任せておけ」


 前線後方で駆け回っていたウリム将軍が、方向転換のために馬首を巡らせて動きが止まった瞬間、


「……っ!」


 ピアの放った長距離狙撃用ボウガンの矢が、ヘルメットを脱ぎ無防備になった将軍の眉間に深々と突き刺さった。


 ウリム将軍は馬上から地面に崩れ落ちた。

 嘘から出た誠か、将軍は本当に倒れた。


 将軍が戦死したゴウラ軍は、カリスマ経営者がいなくなった中小ベンチャー企業の如く、瞬く間に崩壊した。


 全軍が総崩れになり、敗走が始まった。

 それまで死に物狂いで彼らと戦っていたツラギ兵は、壊走する彼らを追い掛けるために、持ち場を離れて陣から飛び出した。


 確かに逃げる敵軍を掃討して戦果を上げるというのは、セオリー通りの行動だ。だが、この場合は……


「待て、深追いするな!持ち場にもどれ!」


 ヒルダ王女が天幕から叫ぶ。

 半分ぐらいはそれに従ったが、もう半分はそのまま引きずられる様に敵兵に付いていった。


 そういえば、いつの間にかトトラ君の魔術が止まっているな。敵兵士と一緒に逃げたのか?


 俺は骨鳥を飛ばして上空から偵察させた。

 小型水晶板に骨鳥からの視界が表示される。


「あ、また怪しげなの使ってますねー」


 緑ローブが横から覗き込んできた。


 水晶板には逃げるゴウラ軍と追撃するツラギ軍の姿が、なんとか確認できたが、大半が杉林に隠れてよく分からなかった。


「便利ですけど、ここでは木が邪魔ですねー」


 前世の偵察用ドローンなら、夜間暗視(ナイトビジョン)赤外線(サーマル)の機能があって、もっと良く分かるんだろうが……


 さて、時間が出来た今のうちに戦力を回復させておくとするか。

 補充のための死骸は眼前に敵味方合わせてゴロゴロと転がっている。

 そこから適当に見繕って十体ほど補充した。

 ルナがいたら、もっと効率的に補充出来ただろうがなあ……


 死骸が起き上がってスケルトンに変わる様子を眺めていた隣の隊の兵士達から、うぇーという嫌そうな声が聞こえた。


「ほら、そういう禍々しい事をやってるから闇属性は気味悪がられるんですよー」


 ミラージ周辺でこんなことやってたら、今頃縛り首でしょうね。


「あの辺りは聖教会の影響力が強いからねー。でも、この辺りでもあまり良くは思われないでしょうね」


 そうだろうな。

 それが闇属性に対する、一般的な感情という奴だろう。


 その時、杉林の辺りがにわかに騒がしくなり始めた。

 先程まで追撃に移っていたツラギ兵が、逃げるようにこちらへ走り戻ってきたのだ。


 逃げる者がいるということは、追う者がいる。


 ツラギ兵の後から別の鎧を着た兵士達が現れた。

 ゴウラ兵と、それに混じってあれは?


「チャイカ軍の鎧ですね」


 緑ローブがそう言った。


 まだ戦争は終わらない。

 第2ラウンドが始まる。


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