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隣人

 ややこしい事になってきた。


 南東のツラギ王国。

 北東のゴウラ王国。

 そのまた北東のチャイカ連邦。


 ツラギ王国と手を組み、共同でゴウラ王国と戦うか?

 それともほっといて自分の城を守る事だけ考えるか。


「ゴウラ王国の後ろにチャイカ連邦がいるというのが本当なら、相当に厄介だ。奴らはダークエルフの、いや、全エルフの敵だよ」


 と、キュー。


 チャイカ連邦、大陸北東部に位置する巨大軍事国家。

 国教は聖教会東方派で、ガチの人族第一主義者の集まり。

 人族以外は「亜人」呼ばわりで、人間だとは認めていない。

 極東地域にある強制労働施設、通称コロニーには今でも多くの「亜人」達が捕らわれ、奴隷として扱われているという。


 いわゆる光陣営の中でも、ミラージに次ぐ大勢力。

 北方戦争時には主戦力を務め、無慈悲かつ有能な戦術で多数の勝利を納め戦争の勝利に寄与した。

 現在もオーク帝国と国境を接する都合上、闇陣営相手に何度も小競り合いを繰り返している。


 テリー曰く、そういう国らしい。

 恐ろしい国もあったもんだな。


 ツラギ王国とゴウラ王国については?


「正直、よく知らない。

 人族は小国が出来ちゃあ潰れ、出来ちゃあ潰れの繰り返しが多いんだよ。しょっちゅう人族同士で戦ってるし、寿命短いから……あ」


 ……。


「ごめん、エイジの事を悪く言ってるわけじゃないんだ。

 時々お前が人族だってことを忘れちまう。同じダークエルフのような気がして」


 そうだな、俺の寿命はダークエルフに比べて短い。

 俺が残りの人生全てをピアと暮らしても、ピアにとってはほんの短い人生の一部分だろう。

 それで生涯の伴侶となんて言えるのか?

 責任を取る、なんて言えるのか?


「エイジ君?」


 ピアに不安そうな声で呼ばれてハッと我に返った。

 バツの悪そうな顔でテリーが俺を見ていた。


 いかんいかん、今はまず当面の問題に取りかかろう。

 対応を間違えたら城を失いかねない事態なんだから。


 ああ、すまない。協議を続けよう。

 で、ツラギ王国と手を組むかどうかだけど。


「ツラギ王国とゴウラ王国については情報が無くてなんとも判断しがたい」


 と、キュー。


「本当にゴウラ王国の後ろにチャイカ連邦がいるのかどうかすら分からぬ。

 ツラギ王国に付くのが吉と出るか凶と出るか、ほとんど賭けだな」


 これからは周辺国の情勢にも気を配らないといけないな。

 情報の重要性を今更ながら再認識だ。


「君はどうするのがいいと思う?」


 うーん。悩む所だが……


 俺はツラギ王国と接触を持ってみようと思います。

 情報が無いのなら、まずはツラギ王国の情報を得る所から始めましょう。

 もちろん、今回の話自体がワナではないか、気をつけてですが。


「私は反対しない、エイジ君の賭けた方に乗ってみよう」


 キューはそう言い、ピアとテリーも同意した。


 ーー


 その夜、ピアが俺の部屋を訪ねてきた。


 何故か妙に優しい態度だったので、俺もなんとなく甘えながら肌を重ねた。


 ーーーーーーーーーー


 開けて翌朝。

 テリーはまだ昨日の事を悩んでいた様で、すまなかったと謝ってきたが、気にして無いから大丈夫だ問題ない、と返した。


 パーク外交官がやって来たので、手を組む方向で検討したいと話すと、ならばツラギ王国まで今から行きませんか、と誘われた。


 ちょっと考えたが行く事にした。

 ピアに護衛を頼んで骨馬車に共に乗り込み、パーク外交官の馬車に続いて街道を東へ進んだ。

 途中の三叉路を南東側へ曲がり、さらに進んだ所で夜になったから村で一泊し、翌朝更に南東へ出発。

 かなり進んだ所でようやくツラギ王国の王都に到着した。


 馬車でまるっと1日の旅は、JRなら数時間だろうな。

 ほんっと大変。


 パーク外交官の馬車に続いて入ってくる骨馬車を見ると、住民達はギョッとしていたが、馬車から黒ローブの俺とダークエルフが出てくると更にギョギョッとしていた。


 さすがに石までは飛んでこないが、恐る恐る遠巻きに警戒している様子がありありと感じられた。


 パークに言われるままピアと一緒に王城に入り、まずは控えの間へ。


 しばらく待つとパークが来て、王がお会いになられます、というから導かれるまま謁見の間へ移動する。


 入るなり、「闇属性魔術師エイジ殿、その妃ピア・ネファラム殿、入城!」と叫ばれちょっとビックリする。


 両脇に居並ぶ貴族達の好奇心丸出しの視線に耐えながら王座の前へ進み、ピアから教わったダークエルフ式の宮廷お辞儀を披露する。


 人族式ではないことに周りが少しざわめいたが、これは今貴方の前に居るのはダークエルフ側の人間なんですよ、という俺からの決意表明だ。

 老齢な王様はポーカーフェイスのままそれに応じた。


 招かれたお礼を述べたり、客として滞在することを許すだのなんだのといった形式的なやり取りをしただけで謁見は終了。

 速やかに退出して外の廊下へ移動した。


 次はどこへ行けばいいんだろ、また控え室へ戻るのか?

 と、ぶらぶらしていたら。


「あなたがあの有名なエイジさんですかー?」


 と、呼び掛けられた。

 振り返って見ると、緑ローブの魔術師がそこにいた。


 ……ミラージか?

 思わず身構えると、筋肉モリモリの大男が緑ローブを守るかの様に立ちはだかった。


 背中の両手剣を軽々と片手で扱えそうな大男。

 まるでコナンだ。探偵じゃ無いほうの。


 緑ローブはその大男の後ろからスッと横へ移動し、


「そんなに警戒しないで下さいー。私は確かにミラージの魔術師ギルドへ所属していますが、今はツラギ王国の宮廷魔術師です。王の客人を害する様な真似は致しません。

 ……申し遅れました。私は風属性魔術師のサイア・ミーズです」


 緑ローブはよく見ると獣人の女性だった。

 白い肌、グレーの髪、青い瞳の猫獣人。

 スレンダーなシャム猫を擬人化するとこんな感じかな。


「隣にいるのは護衛士のライガーです」


 隣のグレートな方のコナンも獣人だった。

 獅子獣人?虎獣人?

 ああ、ライガーか。


 俺とピアも自己紹介し返した。


 で、俺有名人なんですか?


「有名ですよー。

 ミラージからの誘いを再三に渡って拒み続け、愛のためにミラージから駆け落ちした人。

 ロマンチックだわー」


 からかって言ってるのか本気なのか、その表情からは読み取れなかった。反応に困る。


「でも城持ちになれるならそれもアリかもね、ミラージで塔持ちになろうとしたら、よっぽど優秀じゃないと無理だものー」


 と、そこへ、


「本当にロマンチックか?」


 今まで寡黙な大男だったライガーが、急に喋りだした。


「お前は自分のしでかした罪が怖くなって、逃げ出しただけじゃないのか?」


 ええー、そういうわけじゃ……


「ちょっとライガー、止めなさいよー」

 緑ローブがライガーを小脇でつついた。


「ふん、まあ真実はいつも1つだ」


 どっちなんだよお前。


 ーー


 緑ローブ達と別れると、メイドさんが俺達の事を待っていた。

 コスプレじゃない本物のメイドさん。


 メイドさんが「お部屋にご案内致します」というので付いていく。

 案内された部屋は中々豪華な客室だ。

 ベッドも大きめのダブルが一つだ、うひょう。


 しばらく休息していると、ドアがノックされた。

 ドアを開けてやると、パーク外交官が居た。

 会わせたい人がいる、というので待っていると赤髪ショートヘアの女性が入ってきた。


「ツラギ王国第三王女ヒルダ様です、将軍職としてツラギ王国の全軍を指揮しておられます」


 と、パークが紹介する。


 王族でツラギ王国軍のトップがわざわざ会いに来たのか、それならば……


 だがヒルダ王女は手で制し、


「これはプライベートで非公式な会合だ、そう畏まらずともよい。

 明日の会議に先立って、少しばかり確認しておきたい事があるのだ」


 要するに会議前の根回しという事か。


「まず、前提条件を確認しておこう。貴殿らはゴウラ王国と戦う為にツラギ王国に協力してくれる。それで間違いないな?」


 ……ゴウラ王国が攻め込んで来るから共に防衛に当たる、と聞いておりますが。


「ゴウラがこちらへ侵攻を始めようとしておるのは事実だ。その攻撃を防衛するのが今回の作戦になる。だが戦局の推移に寄ってはゴウラ領内に進軍することもあろう。それは良いか」


 作戦の都合上なら構いません。

 我々は他国を侵略して領土を奪おうとか、そういうつもりは無いということです。


「それはこちらとしても願ったりだな。

 ではその次だ。貴殿はツラギに協力する見返りに何を望む」


 ネファラム城の存続と安全保障。

 できればツラギ王国との友好条約。


「あの城の安全は保障しよう。元々が緩衝領域内の城だ、ツラギから攻め込んで領土に加えたりなど出来ようはずもない。

 だが、友好条約は難しい。ダークエルフとそれを結んだとなると聖教会が五月蝿いからな」


 ふうむ。


「貴殿がミラージ魔術師ギルドに所属する者なら、まだ可能性はあったが」


 ミラージとは袂を分かった。もう戻る気は絶対に無い。

 我々はネファラム城で静かに暮らしたいだけなのですよ。

 それだけが望みです。


「無欲な事だな。そのわりには物々しい兵力を有しておるようだが」


 あれは純粋に防衛用の戦力ですよ。

 オークどもが、いつ奪い取りに来るか分からないのでね。


「平原北部では痛快に奴らを破ったそうだな!」


 ヒルダは楽しそうに笑みを浮かべながら、


「オークから城を奪取するときも鮮やかだったと聞く。

 さぞや名のある軍師が立案したのか?」


 いえ、私ですよ。


「貴殿が?まだ、その……歳は……何者なのかね君は」


 中身は歴史好きでRTSゲーマーの引きこもりなんですよ。

 とは、もちろん言わない。


 見ての通りのただの青年魔術師ですよ。


 その時、パーク外交官がヒルダ王女の耳元で何か囁いた。


「ほう。ミラージの見解はまた違うようだが……まあ深入りはしまい」


 ヒルダは俺の顔を見てニヤリと笑い、


「他に、何か確認しておきたい事はあるか?」


 ゴウラ王国の後ろにチャイカ連邦が居るというのは、本当でしょうか?


「……パークから聞いたか。十中八九間違いない無いだろう。すでにゴウラ領内にチャイカの部隊が密かに駐屯しているのではないか、と思われる兆候があるのだ」


 チャイカ連邦の目的はなんでしょうか?


「まだハッキリせぬが、ゴウラ王国をチャイカ連邦に取り込もうという動きもあるようだ。

 ゴウラは火山地帯でね、温泉地で有名だがレアメタルが採掘できる場所でもある。

 案外、ゴウラが戦争の為にチャイカから兵力を借りているだけかもしれぬ、レアメタルをエサにしてな」


 ネファラム城へ攻めてくる可能性はあると思いますか?


「チャイカ連邦は人族第一主義者の巣窟だ。貴殿が心配する気持ちは分かるが、ツラギと戦争しながらネファラム城まで攻撃する二正面作戦を取る可能性は低い。

 だが、将来はわからぬ。ゴウラとツラギが両方ともチャイカ連邦に飲み込まれた場合、間違いなく城は攻撃されるだろう」


 そうならないように、ツラギ王国へ強力しろと言いたいのだな、ふーむ。


 分かりました、こちらからはこれで以上です。


「よし、細かい数字は明日の会議で決めよう。

 ……我々は友好条約は無理だが、良い隣人にはなれる。そうは思わないか?」


 ええ、もちろんです。


 握手をし、別れた。


 ーー


 夜になり、明日の会議に備えてもう寝ることにした。


 俺はナップサックから骨が詰められた小瓶を取り出した。

 テーブルの上に骨を瓶からバラーっと出して魔力を込めると、リスの様な小動物のスケルトンが四つ足で立った。

 こいつは小型の警報装置の様な役目をはたしてくれる。

 骨リスとでも呼ぶか。


 上着を脱いでベッドにゴロンと横になった。

 ピアも上着を脱ぎ横になっている。


 今のところ問題なく進んでるように見えるね。


「ああ、とりあえず王都でいきなり拘束される可能性は無さそうだ」


 まだ油断できないって?


「ツラギ王国の言い分は向こうに取って随分都合の良い話だぞ。我らの力は貸して欲しいが、同盟は結べないという。体よく利用されるだけで終わらなきゃ良いが」


 最初は恩を着せる所から始める関係性もありですよ。


「だと良いが……君は直ぐ人を信じちゃうからなあ、ちゃんと見張ってないと心配になる。けど……」


 ピアは横から手を伸ばして俺の腕を掴み、意味ありげな視線を送ってきた。


 んん?


「いや、なんだか急にエイジ君が頼もしく思えてきてな」


 ええー、そ、そうですか。


「ふふっ、ミラージには魔術師に護衛士というパートナーを設けるそうだな。私は君の護衛士となろう。君の事を全力で守るよ、エイジ君」


 俺もピアを精一杯守ります。そしてネファラム城(マイホーム)の事も。


 今日は口付けだけ交わして寝た。


 ーーーーーーーーーー


 翌日、朝から作戦会議に出席した。


 会議には、ヒルダ第三王女「通称:姫将軍」と前将軍で今は参謀を務める「通称:老将軍」、緑ローブとその護衛士、俺とピア、各部隊の部隊長達、等が出席していた。


 会議は意見をぶつけ合うような物ではなく、現在の状況について全員で認識を一致させる為の物だった。

 既に防衛作戦等も定まっており、どこにどの部隊を展開させるかも大体決まっていた。


 会議も終盤に差し掛かって着た頃、会議室のドアが突然開かれ、一人の兵士が入って来た。


 伝令兵だ。しかも汗だくで疲労困憊している。ここまで全力でやって来たに違いない。

 つまりは……良くない知らせだ。


「伝令、ゴウラ王国が攻撃を開始しました!既に前衛の砦は襲撃を受けている模様!」


 会議室にどよめきが走った。

「馬鹿な!」「宣戦布告も無しにか!」


「狼狽えるな!各部隊長は出撃の準備を始めろ!整い次第、出撃を開始する!」


 ヒルダはそう指示し、部隊長達が慌ただしく退室していく中、俺達の所へやって来た。


「急な事になったが、貴殿にも出撃してもらう。構わぬな?」


 ええ、その為に来たのですから。


「ふふ、集合場所についてだが……」


 いくつか説明を受けると、ピアと共に骨馬車へ向かった。


 ずいぶんと急な事になったな。

 しかし、宣戦布告も無しにいきなり奇襲攻撃とか、やるものなのかね。


「普通の国ならやらないよ。オーク帝国ですらやらない。

 だが、チャイカ連邦ならやる。あれはそういう連中なんだ……」


 やや苦々しい声でピアはそう言った。

 やはりゴウラ王国の裏にはチャイカ連邦が潜んでいる、と言うことなのだろうか。



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