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城の中

 

 ネファラム城三階にある俺の部屋の中。


 ハイエルフの少女が、半裸の姿で俺のベッドで横になっている。


 ハイエルフ特有の透き通るような白い肌が、今はほんのりとピンク色に染まっていた。


「どうだった、ハイエルフを抱くのは。

 ダークエルフとはまた違った趣があるんじゃないかい?」


 うーん、たまにならいいけど。

 やっぱり、いつものピアの方が良いかなあ……


「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」


 ピアは右手に填めていた指輪を外し、ベッドの近くにあったサイドテーブルにコロンと置いた。


 色白いハイエルフの姿がみるみる変わり、いつもの褐色のダークエルフへ。


 ピア曰く、「たまには趣向を変えて、新たな刺激を加えてやるとマンネリ化が防げて良い」と、キュー姉が言っていた、だそうな。


 男には女に対してふたつ型がある。猟師型と農夫型である。

 と言ったのは、司馬遼太郎先生だったっけ?


 猟師型は次から次へと新しい獲物を求め、ハーレムを築きたがる。

 農夫型は一度決めた畑があれば、ずーっとその畑を耕したがるのだそうな。


 氏の分類だと、俺が当てはまるのは後者なんだろうね。


 甘えるように上から抱き付いてきたピアを、迎え入れるような体勢で受け止める。


 それじゃあ、次はダークエルフのピアを抱いてみようか。


「ああ、来てくれ……エイジ君」


 ーーーーーーーーーー


 ネファラム平原の戦いからしばらくたった。


 戦場は後からスケルトンを派遣して「お片付け」を進めておいた。

 野良アンデッドの発生を防ぐためと、戦力増強の為である。


 オークはあれ以来手を出して来なかったが、平原北部の更に北で、新たな砦を築こうとしていた。

 まるで、こちらに隙があればいつでも奪い取りに来ると言わんばかりだ。

 要注意だな。


 スケルトン達による城壁の修復はほぼ完了し、更に城の防御力を高める為に新たに堀の構築に入った。

 さすがに水を引く余裕は無いので空堀にした。


 基本的にアンデッドは作成時に強さが決まり、その後の戦闘経験や訓練などで技量が上昇したりすることは、一切無い。

 毎日何時間か訓練して戦闘技能の研鑽を積むとか、そういうことはやらなくて良いのだ。


 堀が完成したら、次はどうしよう。

 遊ばせておくのも何だし、農業でもやらせるか。

 骨屯田兵だな。


 キューはエベル男爵を通じてマジックアイテムの新たな販路を生み出していた。

 ミラージでは取り扱わない闇属性向けアイテムには一定の需要があり、売上は順調のようだ。


 ピアは館にいた頃は頻繁に外出していたが、城に来てからはほぼずっと城にいた。

 テリーやミーア相手に戦闘訓練とかをやっているのをよく見かける。

 それと俺を相手にやる夜の運動……

 オークから巻き上げた資金が潤沢にあるから、前みたいに館の維持費を必死で稼ぐ必要が無くなったのと、もしかしたら子を孕めというキューの話を本気で実行してるのかも。


 ミーアは館の頃と同じように城の家事一般を妹弟達と一緒に任されている。

 キューが新しく作った家事用ゴーレムを何体か使役しており、前よりも仕事が捗る、と喜んでいた。


 テリーは基本的に部屋に引き込もって、また蔵書の山を築きつつあるが、ミーアやキューの手伝いをすることも多いようだ。

 暇潰しに骨馬車をわざわざ自分で操って城の近くを乗り回してることもあるが。


 ルナは俺と一緒にアンデッドの新規作成。

 あと、なぜか俺の顔を見て赤くなって眼をそらしてしまう事が時々あった。

 かといって避けられている訳でもなさそうだが……


 オーク山賊が居なくなった事により、寂れていた近くの街道もポツリポツリと使う人が増えてきた。

 スケルトンの城を怖がる人はまだ多いが、元々ここは主要街道が交差する要所だった場所。

 ゆくゆくは交易所を復活させて、そこからも収入が得られるかもしれない。


 概ねネファラム城の周辺は平和だった。

 このまま、時々ピアとイチャイチャするスローライフが続けば良いのに。

 なんて考えていると、案の定次の厄介事が舞い込んできた。


 この世界は俺の夢である「悠々自適の引きこもり生活」をなかなかさせてはくれない。


 ーー


 ある日、またもやネファラム城に使者が訪れた。

 今度の使者はダークエルフではなく人族だった。


 俺とピアとで出迎え、応接室へと通した。


 キューはいつものように研究所に引きこもってるし、テリーは「俺そういうのパス」と言って部屋から出てこない。

 なんかあの二人、俺が目指してる引きこもり生活をもう実現しちゃってる感があるな。


「これはどうも、わたくしはツラギ王国の外交官パークと申します。以後お見知りおきを」


 パーク外交官は、キノコみたいな髪型をした中年の男だった。


 ツラギ王国はネファラム城の南東にある小国だ。

 そこから更にずーっと東に向かうとミラージがある。


「単刀直入に申し上げますと、我が国にお力をお貸し願いたいのです」


 ほお。


「ツラギ王国は北部にあるゴウラ王国と過去に紛争を行い、現在は停戦状態にあります。我が国の情報機関が掴んだ情報によると、ゴウラ王国は停戦を破棄して再び攻撃を開始する準備を整えているとのこと」


 ははあ、なんとなく読めてきたぞ。


「近々行われるであろうゴウラ王国の侵略に対抗するため、ネファラム城に助勢を頼みたいのです」


 うーん、人間同士のイザコザに巻き込まれたくは無いなあ。

 できれば戦争なんかに荷担せず、中立のままでいたい。

 それにゴウラ王国側の話も聞かないと。

 一方的にあなたがたの話を信じこむ訳にはいかない。


「お言葉ですが、ゴウラ王国はあなた達と対話する気はほぼ無いし、戦争が始まればここへも攻撃を始めると思われます」


 なぜそう言い切れる。


「ゴウラ王国の背後には、チャイカ連邦がついているからです」


 チャイカ連邦、の言葉が出た瞬間ピアの身体がピクッと反応した。


「ご存知のようにチャイカ連邦はダークエルフを人として認めておりません。現在も多くのダークエルフが、極東地域で奴隷として強制労働させられています」


 そんな所があるのか。

 確かに最初の街やミラージなんかは闇属性に厳しい所だったな。

 しかし、何でまた急にそいつらが出てきたの。


「情勢の変化。ナガッセが失われ、そしてネファラム城が再びダークエルフの城になった。それが原因でしょう」


 俺達のせいだって?

 ネファラム城はダークエルフ王国の領土じゃ無いぞ、納税もしてないし自由に住んでるだけだ。


「元々ナガッセからネファラム城付近一帯は、闇陣営と光陣営のどちらにも属さぬグレーゾーンとして、機能していたのです。言うなれば、戦争を起こさないための緩衝材でした」


 北方戦争前はダークエルフの領土だったらしいしな。


「ええ、終戦時の取り決めで放棄された。それが今やナガッセは焼け落ち、ネファラム城には以前のようにダークエルフが占領した。北部にはオーク帝国の新しい砦が築かれた。

 光陣営からしてみれば、闇陣営が取り決めを破って東側に勢力を拡大した様にしか見えません」


 こっちは昔住んでた場所を取り戻しただけなのに……

 というか、ダークエルフと同盟なんて結んで大丈夫なの?

 俺が言うのも何だけどさ。


「正直に申し上げますと、非常に心苦しい選択なのです。

 ですが、ゴウラ王国の軍事力に対抗するには、もうそれしか無いと。それにここはダークエルフ王国の領土ではないというのが建前です。そしてそこの城主は人族であると」


 建前じゃなくて本当にそうなんだが。

 で、俺がここの城主だって?


「ええ、数千のアンデッドを従え、ダークエルフを妃に持つ、黒衣の死霊術師(ネクロマンサー)。それがネファラム城の主だと」


 なんて禍々しそうな奴なんだ、って俺の事か。


「ですが、城に巣くっていたオークの山賊どもを退治し、捕らわれていた人々を救ったとも聞いております」


 そうか、人助けはするもんだな。


「……間違って、いますか?」


「いや、間違ってはおらぬぞ」


 ピアはそう言いながら席を移動して俺のとなりに座ると、


「彼は私の夫で、私はその妻だ。その認識で間違いは無い」


 パーク外交官に見せ付ける様に、俺の腕を横から抱き締めた。

 大胆な事をするなあ。


 ーー


 返答は直ぐには出せないので、また後日。

 というと、ゴウラ王国が攻めてくるまでもうあまり時間が無いので二、三日したらまた来ます、と言って馬車に乗ってパーク外交官は帰って行った。


 それを正門まで見送って行って、再び応接室に戻ってきた。


 またもや面倒な問題が発生したものだ。

 どうしよう……ってピアさん?いつまで俺に抱き付いているんですか?


「君は私の夫のエイジ君、私はその妻」


 熱っぽい表情でそう言う。


 俺は亭主関白になんて、なるつもりは無いですよ。


「私だってかかあ天下になるつもりはないさ。私達は対等なパートナー、そうだろう?」


 ええ。そして運命共同体。

 俺はどんな事があってもピアを守るよ。

 だから、この城に攻め込んで来る奴がいるというのなら……


 と、ピアが俺を応接室のソファに押し倒し、俺の服に手をかける。

 え、もしかしてここで今から……


「階段で私を押し倒した君が、そんなことを言うのかい?」


 えーい、このまま流されてしまえ。


 ーー


 そんな二人の姿を、応接室のドアの隙間から、熱っぽい表情で密かに見つめている小さな影があることに、この時の俺はまだ気がついていなかった。



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