平原の戦い
「中々やるじゃないかエイジ君、今度から交渉は全部君がやってくれ、私は研究所に籠るから」
と、キュー。
「でも結局戦争する事になってしまいました」
「あのまま多数決をやったら負けてたさ。
で、もちろん出ていく気なんか無いから、後はいつ終わるとも知れぬオーク帝国の侵略を、迎え撃つ日々になるだろう。
そうなるぐらいなら、平原で一発勝負の方が良い」
「その平原での戦いには勝てるのかい?」
と、ピア。
「それはやってみないと。
勝てればオークとのゴタゴタはそこで一区切りつける。
負けてしまっても出ていく気はないから、後は多数決で負けた時と同じだね」
「ふむ、アンデッド部隊の運用は全部君の双肩にかかっている。よろしく頼むよ、エイジ君」
「ええ、任せておいて下さい」
ーー
まずは兵士の頭数が必要だ。
たった千人では足りな過ぎる。
ルナを酷使してしまう事になるけど、ごめん。
と謝ったが、逆にルナは自分を頼られて嬉しそうだった。
「だって最近はピアとばっかり一緒にいて、あたしの事かまってくれないんだもん」
うーん、そうだね。
でもピアを裏切りたくないしなあ……
とにかく数を揃えるために、スケルトンだけじゃなく、魔獣からもアンデッドを作成した。
久しぶりの骨動物園復活である。
なんとかかき集めて兵数二千二百まで増やした。
戦力増強のために、キューもゴーレムの製造を始めたが、一体作るのに時間がかかるハンドメイド品なので、合計十体までしか作れなかった。
そうこうしているうちに期日が遣ってきた。
俺は二百体のスケルトンとゴーレム全部を城の守りに残し、二千体を引き連れてネファラム平原北部へと出陣した。
ーー
戦場に到着すると直ちに本陣を作り、本陣の前に二千の骨兵を五百づつの四部隊に分け横に並べて布陣させた。
本陣には俺、ルナ、テリーと観戦武官としてエベル男爵が来ていた。それと若干名の護衛スケルトン。
エベル男爵は数名の従兵と共に本陣にやって来るなりキョロキョロと周りを見渡して、
「キュー殿は何処に?」
と、聞いてきた。
城に残って防衛に付いてます。と答えると、あからさまにがっかりとしていた。
なんて分かりやすい人だ。
平原の遥か向こうにはオーク帝国の軍勢が到着しているのが見えた。
俺は骨鳥を飛ばして上空から相手の布陣を確認した。
新開発の小型水晶板に骨鳥からの視界が表示された。
オーク達はこちらに対抗する様に部隊を四つに均等に分け、同じように横に並べて布陣させていた。
双方兵数二千づつ、という取り決めだったがオークの兵数は二千より多そうだ。
二千五百ぐらいだろうか?
まあ、あいつらが約束なんか守るわけ無いよな。
エベル男爵は水晶板に興味津々のようで、食い入るように見ていたが、
「スケルトン一体とオーク戦士一体が戦った場合、オーク戦士の方が強かろう。
それがほぼ同数か、ややオーク側が多いぐらいの兵数で、こんな見通しの良い平原に並んでいる。
このまま正面から力押しで攻撃されたら、こちら側に勝ち目は無いのでは?」
「何も考えずに正面からぶつかったらそうなるでしょうね」
「では、どうするのだ。相手を包囲して殲滅するのがセオリーと思うが」
「相手より少ない兵力で包囲なんて、絶対に止めといた方が良いですよ。
まず、負けます。
よほど相手が弱兵でも無い限り、薄く伸びた戦線はあちこちで簡単に破れて突破分断され、後は各個撃破されるのが落ちでしょう」
ハンニバルはカンナエで、相手よりも精強な重装歩兵と、相手よりも多くの騎兵を持っていたから勝てたのだ。
そこを履き違えて安易に包囲戦の真似事なんて始めると、悲惨な結果に終わるだろう。
と、黒玉石に通信が入った。
偵察に出ているピアからだった。
「エイジ君、前方にいる兵力は二千よりも若干多いようだ。
さらにそのかなり先にはもう二千以上の兵力を隠して配置しているようだぞ」
「分かりました。くれぐれも気を付けて偵察を続けて下さい」
「ああ、無茶なことはしないから安心してくれ。また何かあったら連絡する」
通信は切れた。
ーー
さて、そろそろ細工を施そう。
俺は五百づつ四つに分けた部隊のうち、一番右から四百引き抜いて一番左に、右二番目から三百引き抜いて左二番目の部隊に、オーク側に気がつかれないようにコッソリと移動させた。
これで左から九百、八百、二百、百、の部隊になった。
一番左の部隊の前方部分に強化スケルトンを集中配置した。
見た目は普通のスケルトンと変わらないが、強さは段違いだ。
さらに一番左の後方部分には、四足歩行の骨犬や骨狼といった骨獣達を固めて配置した。これらはスケルトンと比べると攻撃力、防御力共にが弱いが、速く走れて機動力がある。
骨獣隊とでも呼ぼうかな。
その数は約二百頭。
こちらの部隊は基本的に全部骨だから、飯代等はほぼかからない。
向こうのオークは三千だが四千だかで来てるので、1日伸びただけでも結構な出費だろう。
腹が減っては戦が出来んからな。
よって、しびれを切らして攻撃を開始したのはやっぱり向こうからだった。
よし、戦闘開始。
ーー
雄叫びをあげながら地響きと土煙が上がるくらいの全軍横並びの全力疾走。
あい変わらずオークは単純明快だ。
こちらも前進を開始しよう。
但し、一番左の部隊は全速力。
左二番目はそれより少し遅く。
左三番目はそれよりもっと遅く。
一番右は徒歩で。
こちらの陣形は左翼側が前に出て、右翼側が後ろになる斜めに傾いた形になった。
従って、一番最初に敵とぶつかって戦いが始まるのは、一番左の最も戦闘力の高い部隊になる。
たかが骨ぐらい簡単に蹴散らせると、タカを括っていたオーク達は、意外に強くなぜか数も多いスケルトン部隊に面食らって逆に押されるような状況になった。
このままほっといても一番左は勝てるが、なるべく急いで相手を倒す必要がある。
左側を厚くした分、右側はペラペラなので、敵に当たられると不味いのだ。
一番左後方にいた骨獣隊を切り離し、そのままさらに左側を大きく旋回して敵部隊側面に回り込ませる。
正面の敵に苦戦していたところへ、側面からも骨犬達による攻撃が加わり、たちまち陣形は崩壊。
オークの一番左にいた部隊は壊滅して敗走した。
それをあまり深追いはせず、直ちに一つ右の部隊を側面攻撃。
簡単にこれも壊滅させ、さらに右。
左三番目は押され気味だったが、なんとか間に合ってこれも粉砕。
一番右は正面の敵に届く事すらなく、横から倍以上のスケルトンに攻め込まれて、あっという間に蹴散らされた。
「見事……見事だ……!」
戦況を見守っていたエベル男爵が、呻くように声を洩らす。
兵力で勝っていたはずのオーク軍は、左から順番に一つずつ壊滅させられた。
と、黒玉石にピアから通信が入る。
「オーク軍の後方に隠れていた部隊が前進を開始したぞ、その数およそ三千」
やっぱりこうなったか。
俺はスケルトン部隊を集結させ、逃げようとしていたオーク側本陣を取り囲む様に命じた。
と共に、待機させていた骨馬車にこちらの本陣にいた者を全て乗せ、オーク側本陣へと走らせる。
ーー
本陣から逃げようとしていたオーク将軍グインザを、その側近達と共にスケルトン部隊で取り囲んだ。
さすがにおよそ二千のスケルトンに囲まれては、将軍もなすすべが無い。
オーク軍の後方部隊は、まだここに到着するまでに時間がかかる。
俺はその場に骨馬車で乗り付け、馬車から降りてやや距離をとってオーク将軍と対峙した。
「約束を守れ将軍。
一回切りの戦いで、全てを決めるはずだ」
オーク将軍は鋭い眼光で俺を睨み付け、
「貴様、卑怯な真似をしただろう」
「はあ?何の話だ」
「右翼端の部隊、明らかに骨の数が多すぎる。
貴様は二千人同士でやるという取り決めを破り、その倍以上の兵数で戦ったのだ」
……なんでそうなるんだよ。
けど、負けた側からしたらそうとしか思えないかもな。
こっちみたいに上空から戦場の様子を偵察したりも出来ないだろうし。
どうしよう、この将軍にアレキサンダー大王と斜線陣について説明したって、どうせ理解できんだろうしなあ。
「いえ、ネファラム家は取り決めを守りましたぞ。
この者は確かに二千の兵でこの戦いに挑んだ。
観戦武官として、それは保証する」
馬車から降りてきたエベル男爵がそう言った。
「約束を守りたまえ将軍。ここで違える事があれば、事態はダークエルフとオーク間の争いに発展しかねない」
「そうだぞ。
……次の戦場ではミラージ相手に共に戦おうじゃないか、将軍」
「むう……!」
グインザ将軍は目を剥いて俺を睨み付けた。
この間もオークの後続部隊は刻一刻とここへ近付いている。
もし、どうしても戦闘になるならやむを得ない、ルナを昏倒させてでも切り札のスクロールを使って、アレを呼び出すしか……
「……良いだろう。今日の戦いは貴様の勝ちだ」
「オーク帝国の誉れ高き将軍、グインザ将軍の言質、確かに頂いた!」
俺は唄いだすかのようにそう言い、わざとらしく片手を上げてからスケルトン部隊を操ると、グインザの包囲を解き、俺の左右と後方へ整列させた。
流れるように規則正しく行動し、整列する二千体のスケルトン。
その整然とした動きに、グインザ将軍だけでなくエベル男爵までもがたじろいだ。
「やはり、貴様がたった一人でこの全軍を操っておったのか」
グインザのその言葉に、俺は不敵な笑みを浮かべ。
「サラバだ、将軍!」
そう言うと馬車に乗り込み、スケルトン部隊と共に戦場を後にした。
オーク後続部隊はすぐそこまで迫っていたが、グインザの前まで来ると停止した。
ーーーーーーーーーー
「あんな感じで良かったのか?テリー」
「おう、オーク上級クラスは武人気質で、ああいう感じのやり取りを好むって、本で読んでたから」
なるほど。
「しかし、お前も中々決まってたな」
「ああ、三国志とかでありそうなやり取りだったからな」
「三国?なんだそれ」
そういう本があったんだよ。
ーー
途中でピアとも合流し、ネファラム城へ凱旋した。
エベル男爵はやっとキューに会えるとソワソワしていたが、キューは元の薄汚れた白衣に寝癖頭の姿に戻ってしまっており、愕然としていた。
簡素だが戦勝パーティを開き、適当に食って飲んだ。
楽しい時間が過ぎ、完全に酔い潰れたテリーをミーアが担いで部屋まで連れていったりした。
エベル男爵はキューと談笑を交わしていたが、パーティが終わると、今日はここでおいとますると言い出した。
一日ぐらい泊まって行けばどうです。
部屋はいっぱい空いてますよ。
「いや、これから別のパーティが開かれるだろうから、私のような部外者はお邪魔虫になるのですよ」
何の事だろう。
「グインザ将軍との最後の交渉ではお世話になりました。
あなたのおかげで助かった」
「いや、なに。観戦武官として当然の行為だよ。
それにしても見事な勝利だったな。あの戦いが本格的な部隊運用としては初陣だった、というのは本当かね?実に大胆な采配だったが」
時に俺が大胆で向こう見ずとも取れる行動をするのは、この世界は実はゲームで現実では無いのではないか、という感覚が、まだうっすらと残っているからかもしれない。
「君はこれからどうするのだ、今回の勝利を利用してダークエルフ貴族の爵位でも狙うのかね?」
「まさか、そういうのはガラじゃないんですよ。
俺はピアと静かにここで暮らして行ければいいんです」
「ほう、欲の無い事だな」
ーーーーーーーーーー エベル男爵視点
ネファラム城を出発しダークエルフ王国へと帰る旅路の中、今回の顛末について思いを馳せる。
あの人族の死霊術師は静かに暮らしたいと言っていた。
だがそれは、無理な話だろう。
君は優秀に戦える存在だと世に知らしめてしまった。
誰もが君を利用しようとするだろう。
……戦いの方が、君を手放してはくれなくなるのだ。
そしてネファラム家の危うさにも彼は直結している。
ハッキリ言って、今のネファラム家を支えているのは、彼の死霊術師として個人的な才覚だ。
彼が死ぬか、あるいは見限って何処かへ行ってしまえば、あのアンデッド戦力を失い、ネファラム家は再び没落しよう。
人族の寿命はダークエルフと比べとても短い。
つまり、ネファラム家の再興期も……
だが、それよりも。
キュー殿は白衣姿も良かったなあ……
ーーーーーーーーーー エイジ視点
馬車に乗って帰っていくエベル男爵を見送ると、俺は城に戻り遅めの風呂に入った。
今頃になって心が高ぶってきた。
すました顔でアンデッドを操っていたが、あれは戦場だ。
しかも紙一重の戦いだった。
左翼攻略に手間取って、薄い右翼を突破されれば一貫の終わりだったのだ。
マウス操作でエ◯ジオブエン◯イアをやってるわけじゃ無い。
負ければ普通に死ぬ本物の戦争。
冷たい水を頭から浴びても、心の高ぶりが押さえられない。
なんだろうこれは、戦場の高揚感って奴か?
無性にピアが欲しくなった。
心の高ぶりを慰めて欲しかった。
ーー
風呂から上がり、三階にある自室に戻るため石積の階段を登って行くと、途中でピアが待ち伏せするかのように待っていた。
なんとなくソワソワしている態度。
ピアもまた、心の高ぶりを感じているのだろうか?
「エイジ君、今日はその……あっ」
だが、ピアがそう言い終わるよりも早く、俺はピアの両肩をぎゅっと掴む。
「ピア、今日……良いかい?」
「……うん、良いよ」
そのまま俺の部屋へ向かおうとするピアの身体を引き寄せ、その場で強く抱き締める。
「えっ……」
服の上からピアの身体を撫でまわし、その柔らかさを堪能する。
「こんな場所で……誰か来ちゃうよ。
すぐそこの……ベッドで……」
それさえ待つのがもどかしかった。
俺はピアの服に手をかけ、階段の上で彼女の身体を求めた。
修正しながら毎日更新は厳しいなあ……
週末とかにまとめて投稿する方がいいかな。




