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会議

 結局会議には、キューとピアと俺の三人が出席する事になった。

 テリーとミーアとルナは城にお留守番となったので、暫定アンデッド制御オーブの使い方をレクチャーしておいた。

 いない間にここが襲われる可能性だってあるからな。


 骨馬車に乗って、ダークエルフ本国へと出発した。

 ダークエルフ本国はネファラム城から出て西の方向、旧ナガッセ廃墟を抜けた更に先にあるとの事だった。

 何日間もかかる馬車の旅だ。

 何度か魔獣に襲われることはあったが、大半の時間は暇だった。

 暇潰しにダークエルフの歴史やオーク帝国との関係についてあれこれ話を聞いた。


 過去にダークエルフとオーク帝国は同盟を結んでいたが、北方戦争の敗戦後に解消されたこと。

 現在ダークエルフは獣人連合と同盟を組んでいること。

 獣人とオークは犬猿の仲だ、云々とかだった。


 前にも何処かで聞いた気がするから、おさらいだな。


 馬車は街道を進み、いつしか暗い沼地の森へと入っていた。

 昼だというのに日は届かず、陰鬱とした深い森だった。

 ピア曰く、ここまで来たらあと少しだそうだ。


 更に進むと巨大な門が見えてきた。

 幅が骨馬車十台分ぐらいありそうな巨大な門。

 いや、良く見るとあれは門じゃない。

 巨大な洞窟の入口だった。


「あれがダークエルフ王国の首都、リウゼロンの地下都市だ」


 ピアが入口を指差してそう言った。


 ーー


 地下都市の入口付近にある馬車停まりで骨馬車を降りた。

 スケルトン二体を馬車に残し、三人で入口へ向かう。


 検問でいくつか審査を受け、中へ入る事を許された。


 この地下都市は巨大な鍾乳洞の中に作られていた。

 広さだけでいえばナガッセと同じぐらいあるかもしれない。

 入口から入って右側は巨大な地底湖で、蒼色の湖が広がっている様は中々に神秘的だ。

 中は完全な暗闇で、松明や照明の類は一切無い。

 暗視能力のあるダークエルフの街なのだから当然か。


 ピアとキューの後に続いて街の奥に進んでいく。

 住人の大半はダークエルフ、時々獣人。

 人族は俺一人しかいないのかも。なんか心細い。


 ややあって街の中ほどにある宿に着き、ここへ逗留する事になった。


 会議の開催日まではもうあまり日が無く、ゆっくり観光を楽しむ暇は無さそうだ。


 まあ、遊びでここに来たわけじゃない。

 会議までにやらなくちゃいけない準備は山ほどある。


 ーー


 いよいよ会議の日になった。

 ピアもキューもフォーマルなドレスに着替え、俺もなんだかそれっぽい貴族服に着替えた。

 マジックアイテムの黒ローブにあった常時暗視の効果が無くなったので、自前で魔術を掛けた。


 ドレスに着替え髪も整えたキューは、どこから見てもセレブなお姉さんで、見違えるほどに美しくなった。


「薄汚れた白衣や寝癖頭を止めて、普段からこうしておけば良いのに。男どもがほっとかないでしょ」


「研究の邪魔になるような事態に巻き込まれたくは無いな。

 ああ、エイジ君ならいつでも構わんぞ。

 ネファラム家の繁栄の為なら、ピアではなく私が君の子を孕んでも良いのだから」


「ええっ、それは……」


 と、ピアが俺の肩を後ろからぎゅうっと掴んできて、


「さあ会議に行くぞ、エイジ君。

 早め早めの行動を心掛けなければ」


 あわわ、そんなに引っ張らなくても……


「ふふ、冗談だ。ピアからエイジ君を奪うような事はせんよ。

 それに……」


 少し寂しそうな顔で、


「私ではもう無理なんだ……」


 ーー


 王城へ登城すると、あの時の使者エベル男爵が待っていた。

 エベルはキューを見るなり明らかに態度が変わった。

 ほらね?


 エベルによると、情勢はネファラム家に取ってやや不利らしい。


 だがこちらとて、せっかく手に入れたネファラム城を、易々と手放す分けにはいかない。


 ここからは、武器を使わない戦争が始まるのだ。


 ーー


 ふと、なんとなく視線を感じ後ろへ振り返った。


 長い廊下の先に、深紅のドレスを着た少女が一人立っていた。


 まだ十歳にも満たないであろう少女。

 なぜこんな所に一人で?


「エイジ殿、こちらですぞ」


 エベル男爵に促され、先を急ぐ。


 少ししてからもう一度振り返って見たが、

 深紅の少女はもう消えていた。


 ーー


 エベル男爵に豪奢な会議室へ通され、参加者全員が揃うまで待った。


 次々と各代表者が席に着いていき、やや時間をオーバーして最後に入って来たのがオーク帝国の代表者だった。


 かなり大柄なオークで、厳めしい将軍服に精悍な面構え。

 あの山賊オーク達と本当に同種族かと思えるほど佇まいが違う。

 従兵を二人従えてのっしのっしと歩く様は、相手に威圧感を与える様に計算された動きだった。


 オークの代表者が席に付き、これで参加者全員が揃った。

 議長が会議の始まりを宣言する。


 参加者は、オーク帝国代表、獣人連合代表、アザトース教団代表、ネファラム家代表(つまり俺達)、その他ダークエルフの貴族たち九名だった。


 最初に口火を切ったのは、オーク帝国代表グインザ将軍だった。


「我が帝国の所有する城が、卑劣な者共に宣戦布告も無しに奇襲攻撃され、城を奪ったばかりか住人達も皆殺しにされた。

 明らかな条約違反だ。

 直ちに城を明け渡し、相応の賠償金を支払って頂きたい」


 将軍がそう言うと、六名ほどのダークエルフ貴族達が直ぐに賛成した。

「そうだなあ、宣戦布告もしていない」

「オーク帝国と敵対するわけにはいかない」

「城を返せばすべて丸く収まるじゃないか」

「これ以上の流血は必要ない、将軍の言うことに従いたまえ」

「どのような理由であれ戦争反対」

「金を支払って平和が買えるならそれが一番だ」


 態度を決めるのが早すぎる。

 多分、事前に根回し工作でも行われたのだろう。

 ここはいきなり一発かましてやるべきだな。


 俺は机を両手でバーーンッ!と叩き付け、すっくと立ち上がった。


「異議あり!!」


「へ?……異議?」


 突然の行動にみんなあっけに取られて俺を見た。

 キューすらも驚いていた。


「あなたの今の発言はこの条約内容と矛盾しています」


 俺は条文の書かれた書類を、手でパンパンと叩きながら指摘した。


「当人が放棄したと宣言しない限り、その所有物は当人の物。

 従ってネファラム城の持ち主はネファラム家のまま。

 あなた方オークは、勝手に人の家を占拠して違法に住み着いた無断居住者(スクワッター)だ。

 あなた方は勝手に住み着いたばかりか、城の備品も壊しまくって多大な損失をネファラム家にもたらした。

 こちら側は逆にあなた方に損害賠償を請求する!」


 ざわざわざわ、と会議室が騒がしくなった。


 ハゲ頭の議長が、木槌を叩いてみんなを黙らせる。


「静粛に、静粛に」


 静かになった所で、獣人代表が口を開いた。


「私はネファラム家代表の意見に賛成だ。

 明らかにそこの下賤なオークどもは人の家を盗んで住み着いていただけの泥棒だ。耳を貸す必要など無い」


 獣人とオークは犬猿の仲だ。

 言ってる内容は関係なく、オークが白と言えば獣人は黒、オークが黒と言えば獣人は白と必ず言う。

 彼らは絶対にオークの意見に賛成などしないから、自動的にこちら側の味方に付くと分かっていた。


 獣人がそう言うと、二名のダークエルフ貴族達が直ぐに賛成した。

「盗んどいて更に金まで要求するとは卑劣千万」

「全くだ。オークはただの犯罪者の集まりだ」


 このダークエルフ達はいわゆる獣人派なのだ。

 獣人代表が黒と言ったので、自分達も黒と言うことを決めた。


 残り一名のダークエルフは日和見主義者だろう。

 彼はどちらの味方でもなく、勝つ方の味方なのだ。

 どちらかの勝ちが確定するまで、決して自分の旗色は鮮明にしない。


「あー、先ほど条約内容と言う話が出てたが、私はそれに反対する」


 オーク派ダークエルフの一人が口を開いた。


「先の北方戦争の敗戦の際に、ダークエルフ側は領土の一部分を放棄する事を人族側に約束している。ナガッセからネファラム城一帯はその放棄領土に該当する。従って、あの城はネファラム家の領土じゃない。放棄されたただの廃城だ」


 俺は再び机をバーーンッ!と叩いて、


「異議あ……」


 と、キューが俺の袖を引っ張って、


「エイジ君、それはもう止めておけ」


「え、あ……そうですか。


 その条約で放棄されたのは、あくまでもダークエルフ王国の領土です。

 ダークエルフ個人が持つ個人宅には当てはまりません」


「どこが個人宅だ、あれは城だぞ」


「いいえ個人宅です。現に今も数人しか住んでおりません」


「大勢のスケルトンが城壁を修復していると、報告を受けているぞ」


「スケルトンはただのアンデッド、人間じゃありません。

 私が死体に戻れと命じたら、直ぐに死体に戻ります」


 俺がそう言うとダークエルフは不服そうな顔で黙り込んだ。

 代わりにオーク将軍が口を開く。


「骨どもを大勢けしかけて、オークの同胞達を皆殺しにしたのは貴様か。その事についてはどう釈明する」


「あそこにいたオークは山賊団です。

 あの山賊団はナガッセに向かう馬車や、その先のダークエルフの街まで向かう馬車まで襲い略奪していました。

 また近隣の村人を拐って奴隷にもしていました。

 そういう悪党は討伐されて当然かと」


「略奪も奴隷も、我らオークが古来より行ってきた生き方そのものだ。我らはそうやって何百年も生きてきたのだ。貴様はそれを否定する気か」


 これを本気で言ってくるんだから、コイツら凄いよな。


「ええ、否定します。

 はっきり言って迷惑だから、そういう悪逆無道な行為は止めていただきたい」


「悪逆無道だと?それこそがオークの生きざまだ。

 ならば貴様の死者を操る行為はなんだ?同じかそれ以上の悪逆無道じゃないのか」


「それは聞き捨てなりませんな」


 口を挟んだのは、今まで黙っていたアザトース教団代表だった。


「あらゆる存在は万物の王アザトースの思考により創造されし物、すべては眠るアザトースの見る夢にすぎず、アザトースが目覚めしとき消滅する。

 闇の力はアザトースの夢からの一時の恩恵に他ならない」


 この場にいる全てのダークエルフが、アザ教司祭の言葉を聞いていた。

 アザ教はダークエルフ達にとって事実上の国教だ。

 蔑ろには出来ない。


「神の恩恵とはな、真理じゃよ。

 真理を善や悪で判断してはいけない。

 判断すべきは、その恩恵で何を成したかじゃ」


 うーん、解ったような解らんような……

 これに対抗するには、別の宗教的見地を持ち出して来るしかないな。


「アザトース教団はネファラム家の言い分を支持する。

 かの者は闇の力を振るい、我らの敵を打ち払った」


 おお、なんか良く解らんが味方してくれるらしいぞ。

 これはピアが今までアザ教団の依頼を積極的にこなしてきた成果だろうな。

 アザトース万歳。いあ!いあ!あざとーす!


「司祭様がそう仰るのなら……」

「再考の余地がありますな」


 アザ教代表の言葉を受けて、オーク派のうち二名が態度保留に考えを変更したようだ。


 これでオーク派は四名+オーク将軍、ネファラム派が二名+獣人代表+アザ教代表+ネファラム家(俺達)、態度保留三名だ。

 見かけ上は拮抗しているが……


 ーー


 以下、会議は水掛け論と認識論の袋小路と言葉の揚げ足取りで延々と時間を費やしていく構図となった。


 会議は踊る、されど進まず。


 長時間に及ぶ会議で、みんなダレ始めている。

 これは不味いな、多数決でも取って決めましょうか、になる流れだ。

 少人数で多数決なんかしたらろくな結果にならない。

 事前に根回しをやった方が勝つだけだ。


 今回の場合は態度保留に途中変更した二名がオーク派に投票する公算が強い。

 投票方法が匿名性の高いものなら尚更だ。


「……そろそろ議論は出尽くしたようですな、それでは」


 終わろうとする議長の言葉を遮って、


「ああ、埒が明かないからもっと手っ取り早い方法で決めませんか?」


 俺はオーク将軍の方を見据えて言った。


「なんだ、その方法は」


「戦争でもやって決めましょう」


 俺がそう言うと会議室が一瞬でざわっとなった。


「おい待て、ダークエルフ王国とオーク帝国で戦いを始めるつもりか?」

「俺は参戦しないぞ」


「王国と帝国とで全面戦争なんてやりません。

 そんな潰しあいをしたら人族やミラージが特をするだけです」


「お前だって人族だろ」


 ヤジが飛び交うが無視して、


「同数の兵隊を出し合って、一回だけ会戦しましょう。

 勝った方が城を自分の物にする。シンプルで良い」


「貴様の骨どもが、オーク戦士に勝てると、本気で思っておるのか?」


「そう思うなら受けて下さいよ。

 オークが骨より強いと、あなた自身で証明してみせれば良い。

 ちなみに俺は既に一勝しております」


 わざと挑発する様に言ってやると、相手はすぐに乗ってきた。


「面白い!」


 オーク将軍が椅子から立ち上がった。


「場所を決めさせてやる、どこでやる」


 場所は……ネファラム平原北部!


 ーーーーーーーーーー


 結局戦争する事になってしまった。

 でもあのまま多数決で負けて終わりよりはマシだ。

 一回だけ平原で戦闘やって、要はそこで勝てば良い。


 俺達は急いで帰り支度を整えて、地下都市を出発した。

 会戦までの時間は短い、急いで戦争準備をしなければ。


「なあ、あの平原ってそういう名前だったっけ?」


 ピアに訪ねられたが、


「いえ、その場で俺が即興で決めました。

 ああいうのは自分達の名前を付けておくと、後々領有権を主張しやすくなるんですよ」



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