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使者

 今日もピアを自室に呼んで、ベッドを共にしてしまった。


 ネファラム城の三階にある新しい俺の自室。

 わざわざこういう時のためにちょっと大きめのベッドまで買ってしまった。


 ベッドの中のピアはとても従順だった。

 俺が頼み込んだらどんな恥ずかしい事でも大体やってくれた。


 俺を籠絡する、なんて言っていたけど、ピアの方が俺に籠絡されているんじゃないか?


 んん、待てよ。

 だがピアと肌を重ね合わせる度に、愛おしくて堪らなくなっていく自分がいるのも事実だ。

 もうピアの居ない生活なんて考えられない。

 やっぱり俺の方がピアに籠絡されているのでは……


 ーー


 事が終わってベッドの中で二人並んでピロートーク。

 リア充っぽくてい良いね。


「不思議なものだな、エイジ君」


「何がです?」


「最初は君を殺そうとして、逆に殺されかけて、ギリギリで命を救われて、何度か冒険を共にして、そして今では……」


 ピアはやや顔を赤らめながら、


「こうして、身体を許しあって……」


「……。」


「君と出会えて本当に良かったよ。

 君が居なければ、宝珠の獲得は多分ムリだった。

 そしてネファラム館が……あんなことになって、きっと今頃はまだ途方に暮れたままで……」


 ピア……。


「それが今ではどうだ、あの絵画にあったネファラム城を取り戻して、まさかそこに住むことが出来るようになるなんて、それこそ夢にも思わなかった」


 ピアは俺の腕にしがみつく様に腕を絡めてきて、


「全部君のおかげだよ、エイジ君。

 君が居なければ、今ごろ私は、どうなっていたか分からない」


「……それは俺も同じですよ。

 ピアに救出されなければ、今頃は聖教会に処刑されていたかも。


 それにあなたは俺に居場所を与えてくれた。

 何処にも行く場所がなくて洞窟に家を作った俺に部屋を与えてくれた。

 闇属性は人間のクズだと言われた俺に、初めて闇属性で良いと言ってくれたのは、あなただった。


 ピアに出会えなければ、今ごろ俺は、どうなっていたか分かりません」


「エイジ君……」


 俺はピアの身体を引き寄せ、少し強く抱き締めた。

 ピアは俺の胸に顔をうずめ、抱き締め返してきた。


「私は幸せだよ。幸せ過ぎて、少し怖いほどだ。

 君を失ってしまう事があるかもと考えると、怖くて不安で堪らなくなる」


「俺は居なくなったりなんてしませんよ。

 安心してください」


 そう言ってピアの頭をなでた。

 お互いに眠ってしまうまで、しばらくそうしていた。


 ーーーーーーーーーー


 ネファラム城の再建は順調に推移していた。

 何しろ千人のスケルトン(労働者)が休みもせず二十四時間体制で黙々と作業を続けるのだ、捗らないわけがない。


 アンデッドのオーブ制御についても目処が立っており、少なくとも野良アンデッドに戻ることは防げそうだった。

 これで俺はいつ死んでも大丈夫である。


 なんてことを言うと死亡フラグが立つかな。


 オーク山賊団から巻き上げた金も潤沢にあるし、当分はのんびり出来るなあ……


 なんて考えていると、ある日ネファラム城に客人が訪れた。


 ーー


 そこそこ立派な馬車とそれを取り囲む数人の護衛達。

 護衛の者達はダークエルフと獣人だった。

 俺のスケルトン達による威嚇をものともせず、屈強な獣人の一人が正門まで進み出て、ネファラム城の責任者に面会を申し込んできた。


 そういえばここの責任者って誰なんだ?

 年齢からいくとキューか?


 当のキューは新設研究所で徹夜作業の昼夜逆転生活なので、現在は爆眠中、対応にはピアが当たった。


 馬車に乗っていたのは身なりの良いダークエルフだった。

 ダークエルフ本国からの使者だという。


 正門を開き、彼らを城へ招き入れた。

 多数のスケルトン達が修復工事を行っている中を進み、城内の応接室へ。


「ずいぶん多くのスケルトンが動いているな、何人もの死霊術師(ネクロマンサー)を雇い入れたのかね?」


 使者がピアへ尋ねる。


「いや、一人だけだ」

「たった一人の死霊術師(ネクロマンサー)が、これだけの数を?まさか」


 おっと、ここは異世界転生名物の「俺、なんかやっちゃいました?」が炸裂するところかな?

 まあ、今更だし黙っておくか。


 使者は、エベル・ドロー男爵と名乗った。

 このネファラム城の今後の処遇について話し合うため、本国にネファラム家の家長が出頭するようにとの要請を伝えるために来たのだそうだ。


「処遇?ここは元からネファラム家の財産だ。

 放棄した覚えもないし、このまま我らの物として問題は無いはずだ」


 と、ピア。

 それを受けて使者のエベルは、


「原則はそうだが、北方戦争後の条約解釈によってはそうはならぬと主張する者もいる。

 オーク帝国は長年住み続けた我らに居住権があると本国へ正式に抗議をしてきたし、場合によっては戦争も辞さぬと脅してきおった」


 うわあ。

 これがテリーの言っていた貴族間のゴタゴタってやつだな。

 確かに面倒くさそう。


「穏健派の中には、オーク帝国との軋轢を避けるために城を放棄しろと言う者も少なくない」


「そんな馬鹿な!我らの城を何故放棄せねばならんのだ!」


「……申し開きは本国で開かれる会議でやってくれ。

 その会議にはオーク帝国からの代表者も招かれるようだ」


 会議の日時を指定し、いくつかの注意点を述べてから使者は帰って行った。


 ーー


「酷い話だまったく、何で返さなくっちゃいけないんだ」


 と、ピア。

 使者が帰ってからも憤慨冷めやらぬ様子だ。


「まあ、そういうことなら会議には出席せざるをえまい。本国の意向は無視できんからな」


 と、キュー。


「ところで、ネファラム家の責任者というか家長は誰になるんですか?」


「家長を選ぶ事に特に決まりは無いのだが、大抵は先代の家長が後継者を指名する事が多いな。だがウチは選ぶ前に……」


 その辺りの事情はキューも歯切れが悪いんだね。


「年長者と考えれば私だが、唯一の男性であるテリーという考え方もある」


 いかにも封建的な考え方だが、王権政治で貴族制度もありな国ならそうだろうな。

 民主主義なんて、まだ誰も思い付いてすらいない世界なんだから。


「あ、俺はそういうのパスね」


 と、テリー。


「貴族間の面倒な権力争いに巻き込まれるのは御免だよ。そういうのはキュー姉とかがやってくれ」


「ふうむ、私とて研究の時間が妨げられるのは嫌なのだが……

 エイジ君、君がやるという手もあるぞ」


「え、俺?嘘でしょ」


「嘘なものか。

 君がピアの伴侶となれば、家長となる資格は充分にある」


 でも俺、ダークエルフじゃないし。

 というか、伴侶ってことは俺はピアと、その……あわわ。


「おお、それが良いぜエイジ、そうしろよ。

 過去のダークエルフの歴史じゃ人族と婚姻した奴は少なからずいる。

 それどころかハイエルフと婚姻して、ハイエルフが家長になった事だってあるんだぜ」


 テリーの書物からの知識か。

 でもかなりのレアケースでしょそれ。


「ふむ、それがいいな。既に伴侶であった、という事にして今度の会議にも出席すれば良い」


「ちょっと待って、ちょっと待って。

 俺じゃなくてピアではどうなの?」


「わ、私は……エイジ君となら……いいよ婚姻しても」


「え……そりゃ、俺もピアと……。

 いや、そうじゃなくて、ピアが家長になるという方向は?」


「もちろん、それでも良い。

 だが、私としてもエイジ君にはピアの伴侶になってもらいたいなあ。

 君のその死霊術師(ネクロマンサー)としての力、是非ともネファラム家に取り込んでしまいたい」


「あ、ちょっと悪そうな顔してますよ」


 俺がそう指摘すると、キューはニヤリとした笑みを浮かべ、


「悪そうも何もない、ネファラム家存続の為だ。

 ピアには君の子供を孕んでもらって、産まれる子には死霊術師(ネクロマンサー)としての魔術を継承させたい」


「孕んでって……

 んん、待てよ。

 確かイカーデ博士が言ってたぞ、俺には人の因子が無いとか。

 キューの検査ではその辺分からなかったのか?」


「ほう、イカーデが何か言っていたのか?」


 俺はミラージで言われた事をかいつまんで説明した。


「過去の記憶を失った人造人間(ホムンクルス)か。

 確かにそう考えれば君の闇属性に特化されたピーキーな魔力について辻褄は合うが、ここまで人族と寸分たがわぬ人造人間(ホムンクルス)など本当に造れるのか……」


「イカーデ博士もそう言ってたなあ」


「だが、奴とは見解が別れる部分もあるぞ。

 君には人族の因子が存在する。

 人族と呼ぶにはややハイスペック過ぎるが、そうか人造人間(ホムンクルス)か……」


「ええっ、じゃあ俺今まで何度もピアに……」


「ああ、これからもドンドン励め。

 そもそも人族とダークエルフの因子が結び付いてハーフが産まれる確率はとても低いのだ。

 なるべく数をこなせ、できるだけ毎日やれ。

 君という人工的に生み出されたピーキーな闇属性の人族と、闇の眷属たる我らダークエルフとが交配した場合にどんな存在が産まれるのか、実に興味深い」


「そんな人を実験動物みたいに……

 それにピアの意向だって考えないと」


「頑張ろうな、エイジ君。私も……出来るだけ……努力するから」


 ピアは俺の腕を掴み、顔を赤らめながらそう言った。



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