部屋の中
骨馬車に揺られて往復数日間の小旅行は終わった。
JRや新幹線が恋しい、この世界はとかく移動に時間がかかる。
ネファラム館に着いたときはもう夜だった。
テリーと別れて先に風呂へ入ってから自室に入る。
まだ早いけど、今日はもう寝ちまおうかなと考えていると、
ドアがノックされた。
どうぞー開いてますよ。
入って来たのはピアだった。
いつもの革製戦闘服じゃなくて、可愛いドレス姿。珍しいな。
「やあ、エイジ君。調子はどうだい?」
何ですかそのぎこちない挨拶。
どうかしたんですか?
「え、ああ……その……」
しばしモジモジしていたが、
「えーい、単刀直入に聞こう。
私がいない間に、また白ローブの魔術師と会ってきたんだって?」
なんかちょっと怒ってる?
ええ、会って来ましたけど……
「どうだった?また、ミラージに戻れって誘われたのか?
その、君は……ミラージに戻りたいのかい?
あの綺麗なハーフエルフの魔術師と一緒に……」
ああ、またその話か。
もう何度目なんだろう。
その時、俺はちょっとだけ魔が差してしまった。
ピアを少しだけからかってみようと、思ってしまったのだ。
うーん、どうしようかなあー。
なんか今戻ると、アイテムとかいっぱい貰えるって言うしー。
戻っちゃおうかなあー。
「……!」
部屋の中に緊張が走った。
空気が変わった。
ニュータイプなら、なんだこのプレッシャーは、と言う所。
ピアが戦闘体制に移行したのが肌で感じられた。
「そうかい。君がそういうつもりなら、私にも考えがある」
ゆらり、と部屋の中央へ移動するピア。
あ、あの待って……今のはただの、冗談で……
そこまで……本気では……
「君をここにつなぎ止める為なら、私は何だってする」
え、今何でもって……
ピアが背中へ手を回した。
もしかして、いつもの短刀を隠し持っているのか?
ーー
するっ、とピアが身に纏っていたドレスが床に落ちた。
下着だけの姿になったピアが、窓から射し込む月明かりに照らされていた。
流れるような銀髪のショートヘア。
小柄で華奢だが短距離走の女性アスリートのように引き締まった褐色の身体。
そして小ぶりで柔らかそうな胸の膨らみ。
恥ずかしそうに身体を抱え込んで胸と局部を隠そうとする仕草が、寧ろ開けっ広げな全裸よりも扇情的に思えて、俺はその美しさに完全に魅了され、虜にされてしまった。
「エイジ君、ミラージなんかに、戻らないでくれよ。このままここに、居続けて欲しいんだ。もし、そうしてくれるのなら、私の身体を好きにして構わない」
え……あ……
緊張のあまり上手く声が出てこなかった。
「こんな薄い身体では、抱いてもつまらないかも知れないが、私に差し出せる物は、これが精一杯なんだよ」
自分の心臓がバクバクと鳴っているのが分かった。
俺は引き寄せられるようにフラフラとピアへ近づいて行った。
ピアの可憐なその肩が、小刻みに震えているのが見えた。
彼女もまた、緊張しているのだ。
あ、あのですね。カッコいい漫画の主人公なら
「そんなことをしてはいけない」
とか言って服を着せたりとかするんでしょうけど、俺はダメ人間だから、こんな姿を見せられたら、もう我慢出来ないですよ。
「……君が言いたい事は分かる。身体を差し出して君を引き留めようとするなど、最低な行為かもしれない。だけど、君を行かせない為なら、私は何だってやる覚悟があるんだ」
ピア……
「それに、エイジ君になら、私は何をされたって構わない……
君は私を、毎日玩具の様に滅茶苦茶に扱ってくれていいんだ。だから、行かないでくれないか……」
ああ、ダメもう限界。
玩具になんてしません。もっと大事にします!
俺はピアの細い肩を抱き締めると、唇を重ね合わせた。
ピアも俺の背中へ手を回して、抱き締め返してきた。
馬車の中でのあの出来事を思い返していた。
そうだ、あの時からずっと、これがもう一度欲しかったんだ……
そのまましばらくの間、お互いに唇と身体の感触を堪能していたが、やがてどちらからともなく名残惜しむ様に唇を離した。
二人の間で唾液が糸を引く。
と、突然ピアが俺をベッドに押し倒した。
「エイジ君安心してくれ。私はキュー姉から男を籠絡するすべを教わっている。だが、異性に対して使うのは全くの初めてだから、上手く行かなかったらすまない」
籠絡されちゃうんですか、俺。
ーー
「エイジ君……お願いだ、行かないでくれ。
お願い、行かないで……」
ええ、どこにも行きません。ピアのいる場所が俺のいる場所です。ずっと傍に居ますよ。
「ああ、嬉しいよ、エイジ君……嬉しい」
涙を流しながら、ピアは喜びに打ち震えた、
ーー
太陽の陽射しが、窓から部屋の中に入り込んでいた。
これがいわゆる朝チュンというものか。
リア充の朝だな。
結局、肉欲に溺れて誘われるまま一線を越えてしまった、という事になるのだろうか?
だが、ピアは俺に覚悟を見せてくれたのだ。
そして俺はそれを受け取った。
ならば俺がこれからやっていく事は、もう決まったという事。
まあ、もとからピアの元を去るなんて気は、全く無かったけど。
起きたのは二人同時みたいだった。
散々夜の運動をしまくったせいで身体が重い。
よろよろとふらつきながら、ようやくベッドから立ち上がった。
ピアの方はもっと辛いらしく、ベッドから出るのは無理そうだった。
おはよう、ピア。
「ああ……おはよう、エイジ君」
気だるげな表情のピアを見ると、昨晩の彼女の痴態が思い出され、またちょっとドキドキしてきた。
柔らかそうな、いや実際に柔らかかった彼女の身体を、もう一度触りたいという衝動に駈られる。
認めたく無いものだな、若さゆえの過ちというものを。
「乱暴過ぎだよ、エイジ君。
毎回こんなんじゃ……壊れちゃうよ……」
あわわわ、ごめんなさい。
次からはもっと優しくします。
「うん、うん。
……ああ、でもちょっとは……乱暴にしても良いからな」
顔を赤くして、はにかみながらピアはそう言った。
ーー
何か食べ物でも取って来ますと言い残し、ベッドの回りに脱ぎ散らかされていた服を手早く羽織ると、俺は部屋を出て一階のリビングへと向かった。
リビングにはテリーとミーアとルナがいて、パンとミルクで遅めの朝食を取っていた。
テリーは俺の顔を見るなりニヤニヤと笑い、
「ゆうべはお楽しみでしたね」
と、どこぞの宿屋のような事を言う。
「いやあ、ピア姉にあんな声出させて一晩中やってるんだもんなあ……俺もムラムラと来ちゃって思わずミーアの部屋へ行っちゃって」
「ああ、もう。そんな恥ずかしい事、人前で言わないで下さい!」
この二人そういう仲だったのか。
そんな中、ルナだけは頬っぺをぷくーっと脹らませていた。
んん、どうしたんだ?
「何でもない」
そう言うと自分の部屋に戻って行ってしまった。
ーー
パンとミルクの瓶を持って部屋へ戻ると、ピアと一緒に少しだけ食事をした。
そうしているうちに、またちょっとピアに触りたい衝動に駈られてくる。
再びベッドに潜り込み、ピアの身体に指を這わせる。
「あ……エイジ君、その……またかい?」
いいですか?
「ああ……私もまだ肌を重ねていたい気分だったんだ」
そう言うとピアは、俺の体に身を預け、もたれ掛かってきた。
結局その日は一日中ベッドで自堕落にだらだらと過ごしてしまった。




