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会合

 ナガッセへ帰る道中で、ルナは昏睡状態から目を覚ました。

 魔力を引き出し過ぎた事を詫びたが、全然構わないからこれからも魔力を使ってくれと言う。


 でも、あんな風に倒れちゃうなんて、何か身体に負担があるのでは……


「あたしの身体が弱すぎるから、大きな魔力の負荷に耐えられなかっただけ。

 特に命に別状はないから、あなたの好きに使ってくれていい。

 あたしの取り柄はそれしかない。

 その為に産まれて来たようなものなの」


 ダークエルフとハイエルフとの間に産まれた、極めて希少なハーフ。

 その事があの強大な魔力と関係しているのだろうか。


 ルナはそう言うけど、やっぱりその魔力に頼るのは、ここぞという時だけにするよ。

 君の身体が心配なんだ。


 俺がそう言うとルナは少し嬉しそうに笑って、俺に甘えてもたれかかってきた。

 そんなルナをピアはなんとなく複雑な表情で見ていた。


 ーー


 ナガッセのネファラム館に到着すると、俺は早速キューの所へ訪ねて、ソフィアから譲り受けたあの魔術スクロールを調べてもらった。

 キューの見立てでは、これは普通の魔術スクロールで、トラッカーのような罠の類は何も仕掛けられていないとの事だった。


 ソフィアは何も悪くなかったのだ。

 しかも敵対していた俺に回復魔術まで掛けて助けてくれた。

 疑ったりしてしまった自分が恥ずかしい。


 と、なると聖教会側はどうやってこちらの位置を掴んでいたのだろう。

 最深部での戦いに、ほぼ全兵力を注いでいた事を考えると、何らかの方法でこちらの位置が分かっていたとしか思えないのだが。


「私もそれが気になっていたんだ」


 ピアもそう言い、ドワーフ村で買い揃えた食糧なども見て貰ったが、トラッカーや発信器の様なものは一切出てこなかった。


「分からぬままというのはもどかしいが、あるいは敵の追跡を振り払えていなかった可能性もある」


 ピアはそう言うが、ダークエルフのシーフを出し抜ける様な連中なんているんだろうか。


「にしても、君はあいつらからこんなスクロールを貰っていたのか。

 確かにレアなマジックアイテムだが、貰えるからってホイホイついていくものじゃないぞ」


 そんな人を子供みたいに……

 というか、それピアが言います?


「ふふっ、エイジ君を繋ぎ止めておくには、相応な物が必要になるかもな」


 キューがそう言い、意味深な表情でピアを見る。

 ピアは赤くなってそっぽを向いてしまった。

 なんのやり取りなんだ?


 ーーーーーーーーーー


 翌日、ピアは宝珠をアザ教に捧げるため、ダークエルフの本拠地へと単身出発していった。


 俺は長旅で磨耗した骨馬車のメンテナンス作業をしていたのだが、急に黒玉石に通信が入った。

 誰からだろう。ピアか?


 もしもし。


「うおっほん、儂じゃよ」


 誰だ?新手のオレオレ詐欺か?

 あの、どちら様ですか。


「儂じゃよ、イカーデじゃ。ミラージの研究所以来じゃの。

 急に居なくなってしまって、驚いたぞ」


 イカーデ博士!

 どうやってこの通信を。確か闇属性持ちじゃないと使えないのでは。


「属性変換器(コンバータ)を間に噛ませておるのじゃ、装置が巨大過ぎて持ち運びは難しいが、こうして光属性持ちの儂でも使えるようになったという訳じゃ」


 どうしよう、直ぐに切った方が良いのか?


「通信切断するのは、ちょっと待ってくれ。

 確かに今のお前さんはミラージと、いや聖教会と敵対しておるが、相手との直通回線(ホットライン)を持って交渉の余地を残しておく事は、双方に取って有意義な事なのではないか?」


 それは俺だけじゃ決められませんね。

 ピアやキューと相談してからじゃないと。


「キュー?

 そうかこれを造ったのはキュー・ネファラム君か。彼女は今ナガッセにおるのか、懐かしいのう……」


 そう言えば知り合いだという話だったな。


「ところで、君と話したいという者がもう一人おるのじゃ、今代わるぞ」


 誰?、というかなんとなく想像がついた。


「エイジ……」


 やはり、ソフィア。


 ーー


「それで、君はまたもや一対一で会う約束をしたというのだな。本当に君はお人好しだなあ」


 通信の件についてキューに話すと、腕組みしながらそう言われてしまった。うーん、そうかなあ。


「ま、そのお陰でピア姉は助かったとも言えるぜ」


 と、テリー。


「私は会わない方が良いと思います。今さら和平なんて無理よ。中途半端にそんなことを続けても、お互いが嫌な思いをするだけだわ」


 と、ミーア。

 丁寧な言葉使いで、中々過激な事を言うね。


「そうだな、いっそ会うふりをして白ローブを捕まえちまうか?前回の戦いでも、あの回復魔術には苦労させられたぜ」


 ええー、それはちょっと……


「まあ、待て。

 ミラージの魔術師ギルドには大勢の魔術師が所属しているし、その下部組織の魔術学校にも大勢の生徒、つまり魔術師候補生がいるんだ。

 その女を捕まえたところで、別の光属性魔術師が出てくるだけさ」


 諭すようにキューは言う。


「聖教会は闇と光の戦いに本気かも知れないが、ミラージはほんのちょっと手を貸してるだけ。全然本気なんか出してないんだよ」


 ならばやはり、交渉の余地を残しておくべきでは。


「ふむ、だが私はね。君がミラージに取り返されてしまうんじゃないかと心配なんだ」


 それは無いですよ。

 俺は向こうに戻るつもりなんて全くありません。


「ミラージがやろうと思えば、我々を捻り潰すなんて容易い事。

 そんな取るに足らない相手と交渉をするのはね。君を取り戻す為だけに行っている事なんだ。

 つまり、君を取り戻す自信が、彼らにはある」


 ……今回の件、何か罠でもあるんでしょうか。


「イカーデは、絶対に君に危害を加えないだろうよ。

 君が研究対象であるうちは。

 あいつはそういう男だ」


 複雑な表情でキューはそう言った。


「それでも会いに行くというのなら、私は止めない。

 それで完全に敵対せずにいられるのなら、それに越したことはないからね。

 けど、十分に気を付けた方がいい。君に何かあれば、ピアも悲しむよ」


 ーー


 どうするか悩んだが、結局俺は会いに行く事にした。

 みんなには言わないでいたが、あの遺跡の戦いで回復魔術をかけてもらい助けられた事に少し負い目も感じていたのだ。


 骨馬車のメンテナンスを切り上げ、出発の準備をしていると、


「俺も一緒に行くぜ、エイジ」


 テリー……


「一対一で会う約束だろうが、道中の護衛ぐらいは居たって良いだろう。なあ?」


 ああ、一緒に行こう。正直、ちょっと不安だったんだ。


 会合場所は、ナガッセとミラージの中間点ぐらいの街だ。

 到着まで数日間を要する馬車の旅。

 スケルトンに見張りを任せられるとはいえ、たった一人じゃ不安になる。


 ーー


 ようやく目的地の街へ到着した。

 テリーに骨馬車を任せて、街の指定場所まで行く。

 しばし待っているとソフィアがやって来た。

 いや、ソフィアだけじゃなくもう一人。

 あれは女侍ことカエデか。


「勘違いするなよ、私はソフィアの護衛師としてここに来ただけだ。最初は絶対に独りで行くと言っていたソフィアに、一人旅は危険すぎると無理を言ってついていく事を認めさせたんだ」


 ふうむ。


「それにお主も一人では無いようだ」


 振り返るとテリーがこちらへ歩いて来ていた。

 隠れて様子を伺っていたらしい。


 ーー


 街のオープンカフェみたいな食堂で、四人でテーブルを囲んだ。

 なんだこりゃ、二対二の合コンか。


 最初に口火を切ったのはソフィアだった。


「あの戦いで、マリウスが死にました」


 マリウス、誰だ?


「あの赤ローブの」


 ああ、あいつそういう名前だったのか。


「マリウスは戦災孤児でした。年端もいかぬ頃にたまたま妹と共に魔術の才を認められ、戦災者救済枠で魔術学校に入り、懸命な努力をして赤ローブを与えられるまでになったのです」


 ほう。

 なんの努力もせず、いきなり強かった俺と違って苦労人だな。


「マリウスだけじゃありません。あの戦いでは大勢の人が亡くなりました」


 俺は相手の兵士を多数殺害した上に、アンデッドにして操って同士討ちさせた奴だもんな。なんて邪悪な敵魔術師なんだ。

 それを詰りに来たのか。


「もう、こんな戦いは止めましょうと言ってるんです。

 こんな事、絶対に間違ってる」


 ……で、俺にどうしろと言うんです。


「……闇の陣営に協力するのはもう止めて。

 戦いは終わりにしましょう」


 そりゃ戦いなんて俺もやりたくはない。

 でも今更ミラージには戻れませんよ。

 大勢亡くなったのなら、俺を恨んでる人も居るでしょうから。


「なら、ミラージには戻らなくていい。

 二人で何処かに駆け落ちしましょう。

 私もミラージを捨てるから、二人で戦いの無い場所へ」


 ミラージを捨てるって、どうして、そこまで、俺のために……

 一体過去の俺は彼女に何を仕出かしちゃったんだろう。


「それも一つの手だぞ、エイジ」


 横からカエデが口を挟む。


「ソフィアの君への想いは本物だ。

 駆け落ちして、ヒノモトにでも来れば良い。

 あの国なら光と闇の戦いなんかとは無縁だぞ。

 なんなら私が手引きをしてやってもいい。

 勝手知ったる私の国だ。それぐらい容易い」


「おっと、そこまで介入するというのなら、俺にも言いたいことがあるぜ、オサムライさん」


 すかさずテリーが割って入る。


「元々戦わないっていうドワーフとの盟約を破って、戦争をおっ始めたのはあんたらだぜ?今さら被害者面は虫が良すぎる話だろ。

 それにエイジは今やうちのルーキーにしてエースだ。簡単にヘッドハンティングなんかさせねーよ」


「被害者面って……どちらが良いとか悪いとかの話をしているのではありません」


「いーや、してる。いきなりお涙頂戴から話始めてるだろ?

 だいたい、あんたエイジの何なんだ?彼女?嫁さん?

 よく知らない相手からいきなり駆け落ちしようとか言われてみろ、不気味だぞ正直」


 おいおい、テリーちょっと言い過ぎだよ……


「いや、この勘違い女にはいい加減ハッキリ言ってやった方がいいぞ。

 というかエイジよ、お前もそろそろ腹を括れ。

 この女かピア姉か、どっちを選ぶんだ」


 俺はピアについて行くともう決めてるよ。

 あの日、ミラージから助け出された時からね。


「そうか、そうだよな」


 テリーはニンマリと笑って、


「それじゃこの話は終わりだ。

 残念だったな、遠路遥々お疲れさんでした」


「口の減らん奴だな貴様」


 カエデが不快感を露にしてテリーを睨み付ける。


「ソフィアの気持ちは本物だ。

 戯れ事を言っておるのではない。

 本気でエイジの身を案じているのだ。

 お主ら、このままミラージと戦い続ければ、いずれ全員死ぬぞ」

「フン!やってみろよ、なんならここでこの前の続きを始めるか?」


 二人は席から立ち上がり、お互いの武器に手を掛けた。


「待って下さい。今日は戦いに来たのではありません!」


 ソフィアも立ち上がり、二人を止める。


「……エイジ、ピアというのは、あの時のダークエルフの少女ですか?」


 ああ、そうだが。


「分かりました。今日はここまでで。

 また次の機会に会って……」


 いえ、会うのはもういいでしょう。


「えっ」


 あの黒玉石があるのなら、交渉はそれでもう十分。

 往復するだけで数日間を要するし、

 危険を侵してまで会う必要は無いでしょう。


 ーー


「残念だのう、エイジ。

 お主とソフィアと私とで、上手く進んでいけるかもしれなかったのに、どこで道を間違えたのか……」


 カエデはそう言い残し、力無くうなだれたソフィアと共に帰っていった。


 俺もテリーと共に骨馬車で帰路につく。

 なんか、あまり実りの無い会合だったな。


「エイジ、お前結構気に入られていたんだな」


 んん、そうかい?


「ああ、あの場では挑発したが、あのソフィアとかいう女は本気だったよ。

 少なくとも騙してミラージに連行しよう、という気はなさそうだった。隣のサムライさんもな」


 ……。


「だがそれらを振り切ってでも俺達の側に付いてくれたんだ、俺はお前を歓迎するぜ、エイジ。

 キュー姉も、そして……ピア姉もな」


 ああ、こちらこそよろしく頼むよ。


「ああ!」


 そう言うとテリーはニッと笑った。


 いや、会合の実りは有ったな。別の意味でだけど。



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