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遺跡の戦い

 相手を隘路に閉じ込めて、隘路から出てきた敵を半円で包囲して集中攻撃。これは理想的な防御体制だ。


 通路の向こう側には、もっと多くの兵士がいるのだろうが、狭い通路から出てこられるのは少数の兵士だけ、そこをアンデッド部隊で半円包囲して集中攻撃する。

 総兵力では劣っているが、実際に戦いに参加している兵力はこちらの方が上になるのだ。


 ピア、テリー、ミーアはボウガンで台座の陰から狙撃して攻撃を支援している。

 ルナも魔術弾(マジックミサイル)で支援している。

 俺はアンデッド部隊の包囲を維持するために、ダメージを受けたアンデッドの修復などを行っている。


 このまま防衛し続ける事は可能だろうが、やがて戦場にやってくる後続パーティに対処するためには、早々にケリを付ける必要がある。

 挟み撃ちにされてしまうからである。


 人間相手に戦うのは巣穴戦に続いて二回目だが、それでも下僕任せではなく、直接人間に敵意を持って致命傷になるかもしれない攻撃を加えることは躊躇われた。


 そりゃ頭の中で想像する事は容易い。

 だが、実際に自分の手でやるとなると……


 ギュッと俺の手を掴む者がいた。

 驚いて横を見るとルナだった。

 いい加減に覚悟を決めなさい、とその目が言っているように思えた。

 そうだった。もしかしたら俺のせいでみんなを窮地に追い込んだかもしれないのに、躊躇っている場合じゃない。

 俺は越えちゃいけないラインを、もう一段階横にずらす事を決めた。


 範囲拡大、威力増強、猛毒雲(ポイズンクラウド)


 隘路入口から通路の奥へ向けて猛毒の雲が一気に広がった。

 司祭と魔術師があわてて回復魔術を使ったが、それでも半数近くがバタバタと地に倒れた。

 ええーい、これで大量殺人鬼だというのなら、孔明も家康もアレキサンダーもナポレオンも同罪だ。


 必死に回復する敵魔術師の眉間に、誰かが放ったボウガンの矢が突き刺さり、もんどり打って倒れた。

 兵士達の間に動揺が走り、明らかに浮き足立ち始めた。

 もう二、三発猛毒雲(ポイズンクラウド)をぶち込んでやったら、相手は戦意喪失して壊走崩壊するかな。


 その時、反対側の裏口から光が洩れているのに気が付いた。

 後続パーティが、ついにここまで追い付いてきたのだ。

 このままでは挟撃を受ける。

 俺は杖を掲げ、相手がホールへ入ってくる瞬間を待ち構えた。


 人影が見えた、刹那。


 威力増強、猛毒雲(ポイズンクラウド)


 猛毒の雲が裏口付近へ広がっていく。

 レジストされた形跡はない。


「やったか?」

 と誰かが言ったときは、だいたいダメなときだ。


「ヒュー。躊躇なくいきなり攻撃してくるとは、やるねえ」


 赤ローブの声が聞こえた。

 やがて雲の中から例の五人組が姿を現した。

 女騎士、女侍、赤ローブ、青ローブ、白ローブ。

 全員ダメージを受けた様子は無い。

 レジストもされず、魔術は正確に行使されたのに、何故だ?


 全員が首飾りを身に付けていた。

 首飾りには緑色と灰色の宝石が嵌め込まれている。

 恐らく、毒ダメージ100%無効のアミュレット。

 ミラージ謹製のマジックアイテムか。


「そっちがその気なら、我らももう容赦せぬぞ。

 エイジ、お前だけは生かして連れ帰れとイカーデ博士からは言われておるが、戦場ではどうなるか分からぬからな」


 女騎士が剣を俺に向けてそう言った。


 ーー


 ピア、テリー、ミーアはボウガンから近接武器に持ち変え、俺とルナの前に出た。

 向こうは女騎士と女侍が前衛で、後衛が三色ローブだ。


 最初に戦闘に入ったのは、ピアと女騎士だった。


「エイジ君は、お前達などには渡さない」

「ふっ、それを決めるのは、貴公では無いであろう?」


 二人は戦場の左翼側で一対一(タイマン)で戦い始めた。


 女侍にはテリーとミーアが二人がかりで挑んだ。


「お前達に恨みは無いが、これも戦場で相対した者の定め、許せ」

「カッコつけんなよ、サムライさん」


 そのまま戦場の右翼側のスペースへ移動して行く。


 残された俺とルナで、赤ローブと青ローブ相手に魔術戦を始める。


「そこのエルフもどきは殺すなよ、連れ帰りたい」

「へっ、またお前の悪い癖が出たな」


 コイツら……


 ーー


 戦いは一進一退とは行かず、ジリジリと押され始めていた。


 俺とルナの魔術戦は、かなり形勢が悪かった。

 俺は毒攻撃を完全に対処されているし、ルナは元々あまり強力な魔術は使えない。

 相手の火球(ファイアボール)氷槍(アイスジャベリン)を防いだり無効化したりで手一杯だった。


 ピアと女騎士はほぼ互角だ。

 攻撃力と防御力に勝る女騎士を、ピアは機動力でカバーして互角に持ち込んでいるのだ。


 女侍とテリー&ミーアも、二対一でほぼ互角かややこちらが有利といったところだった。


 だが、このまま戦闘が長引けばこちらが不利になりそうだ。

 その要因は、やはりあの白ローブことソフィアがフリーでヒールワークを行える事が大きい。

 女騎士も女侍も、ダメージを負えばすぐに回復魔術を受けているが、こちらが前衛を回復するとなると、俺がピア達のすぐそばまで行って損傷転移(ダメージシフト)を使わねばならず、敵魔術師の対応で手一杯の状況では、そんな余裕は無い。


 実際、ピアもテリーも傷を負い始めている。

 このままでは不味い。


 正面入口の戦闘も、兵士達が混乱から立ち直り始め、アンデッド部隊の半円包囲を破ろうとしている。

 破られて多数の兵士が雪崩れ込んでくれば、こちらになすすべは無い。

 ここから戦力を引き抜いて、ピア達に回すのはムリだ。


 状況の決定的な打破が必要だ。

 その方法には何があるか?


 あの白ローブから貰った魔術スクロールがある。

 俺が過去に下僕化した奴で最も強力な奴といえば、もちろんアレだ。

 しかし、一度きりの使い捨てアイテムをここで使ってしまって良いのか。

 それに、ちゃんと使えるアイテムなんだろうか。

 トラッカーの件もあり、不信感が拭いきれない。


 後はルナの強大な魔力を借りて使う方法。

 だが、なんの魔術を使う?

 毒はどれだけ威力増強してもアミュレットで100%防がれる。

 緑色宝石と一緒に嵌められている灰色宝石を見ると、恐らく呪いも無効。


 となれば……

 ここはネクロマンサー本来の戦い方に立ち返るべきだ。

 今、下僕に出来る死骸は、正面入口に大量に転がっている。

 だが、それは……だが、だが、


 もういい!もうふっ切れ!

 俺は邪悪なネクロマンサーだ!

 越えちゃいけないラインを、さらにもう一段階横にずらす。


 ルナ、すまないが魔力を貸してくれ。


 怒気迫る俺の表情に驚きつつも、ルナはコクリと頷いた。

 右手でルナの腕を掴み、左手で杖を入口に向ける。

 また呑み込まれ無いように気を付けながら、ルナから大量の魔力を引き出し、魔術を行使する。


 範囲拡大、対象増加、威力増強、死者使い(クリエートアンデッド)


「あ!……あうっ……」


 大量の魔力をごっそり引き出され、ルナが苦しそうな喘ぎ声を洩らす。

 だが、その効果は絶大だった。


 1体の死骸から、5体の強化スケルトンを産み出す。

 それが10組で、合計50体の強化スケルトンが戦場に現れた。


 さっきまで自分の仲間だった兵士が、突然敵のスケルトンとなって襲ってくるのだ。それも分裂して50体も。

 戦場は罵声と怒声と驚愕と悲鳴が渦巻く阿鼻叫喚の坩堝となった。

「邪教徒め!」

 と、司祭が叫ぶのが聞こえた。


 俺は30体をそのまま兵士への攻撃に使い、20体をピア達への援護に向かわせた。


 突然の大量増援の来襲に、あの五人組もさすがに動揺し、一ヶ所に固まって防衛体制を取った。


 いいぞ、ルナ。君のおかげで戦況が……


 右手で掴んでいたルナの身体が、ぶらんと垂れ下がっているのに今頃気が付いた。ルナ?


 慌てて安否を確認する。

 どうやら気を失っているだけのようだった。

 ホッと胸を撫で下ろす。

 しかし便利すぎるルナの魔力だが、頼りすぎてはいけないな。

 毎回これではルナの身体が心配だ。


 俺はルナを抱き抱えると、中央の台座へ向かった。

 今のうちに宝珠を奪ってしまおう。

 そしてこんな場所とはオサラバだ。


 えーと、問題は、

『グラディウスの有名なコマンドは?』

 だったな。


 しかしこの問題、難問というか前世の記憶がなければ絶対に解けない種類の問題なのでは。


 そうだ、この問題を作った奴は前世の知識がある奴だ。

 つまり、俺以外にも転生者がこの世界には居るということになる。


 ところで、当然答えはこれだ、

『上上下下左右左右BA』


 どこぞで聞いた矩形波な8Bit音が鳴り響いた。

 うむ、やはりこれは……


 と、次の瞬間石板が眩くフラッシュし、やはりどこぞで聞いた自機やられ音が鳴り響く。


 ん?これじゃないのか?


 突然、ガーディアン達が活動を開始した。

 ガーゴイルが何体も空を飛び、台座の隣に立っていた巨人像も動き始める。


 不正解……だと……

 その時俺は、石板の側面角に別のボタンが存在していることに気が付いた。

 まさか、『上上下下LRLRBA』の方が正解なのか?


 ヤバい。とっとと宝珠を抜き取って……


 巨人像が、豪腕を振りかぶって俺をぶん殴ろうとしているのが見えた。

 俺は咄嗟にルナを庇うように抱きしめて覆い被さった。


 とんでもねえ衝撃が俺を襲った。

 殴られた、と分かった時にはもう宙を舞っていて、そのまま壁に叩き付けられた。


 骨鎧(ボーンアーマ)が張られていなければ即死だったろう。

 それでも受けたダメージは相当なもので、全身が痛すぎて腕も動かせない。

 どこからか分からないが血もだいぶ流れている。

 ルナは無事なんだろうか、頼む死なないでくれ……


 突然、俺の身体が光に包まれた。

 怪我が完治し、ダメージも回復して行く。

 これは、回復魔術……


 誰が?どこから?


 遠く離れた場所で、ソフィアが杖を掲げているのが見えた。

 驚愕と心配とが入り交じったその表情。


 ……君が俺を助けてくれたのか。


 戦場は敵と味方とガーディアンとが入り乱れる大混乱に陥っていて、遠く離れたソフィアの姿もかき消されるように見えなくなった。


 俺はルナを抱き抱えたまま、壁に背をもたれさせながら立ち上がり、ホールの大乱闘を半ば呆然と見つめていた。

 もはやこうなっては戦術も何も無い。

 ただひたすらの消耗戦だ。


 ややあって、ピアがテリーとミーアを伴ってこちらへ走って来るのが見えた。

 手には宝珠を持っている。


「ここにいたのか、心配したよ。

 ルナは無事なのか?

 宝珠も手に入れたし、早くここから脱出しよう」


 全員傷だらけだった。

 俺は声も無く頷くと、下僕を何体か動かして裏口への脱出ルートを確保させた。

 気絶したルナを抱き抱えたまま、みんなと共に裏口へ向かう。


「待たねえか、おい!」


 赤ローブが裏口付近で待ち構え、魔術を行使しようとしていた。

 が、横から飛んで来たガーゴイルに蹴飛ばされ、混戦の中へ消えていった。

 あいつ大丈夫かな。


 ーー


 裏口から脱出し、そのまま森を抜けて街道へ向かった。

 骨馬車を発進させ、先回りで街道まで走らせる。

 突然無人の骨馬車が走り出してドワーフ達面食らったろうな。


 街道へ出ると待たせていた馬車に乗り、一路ナガッセへ。


 宝珠は手に入れた。

 メンバーも誰一人として欠けてない。

 完全勝利と言っても良いだろう。


 だが俺にとっては、どこか苦い思いのする勝利だった。


 ドワーフの村から十分離れた事を確認すると、遠く離れたあの遺跡で未だに戦いを続けていた下僕達を全て死体に戻した。

 もうこれ以上死人を増やさなくていい。


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