遺跡探索
ここの遺跡は半分埋まった状態で、長年に渡って放置されていたようで、ほぼダンジョン化していた。
ドワーフは鉱石の出ない穴なんぞにはまるで興味が無いようで、全くの手付かずであったようだ。
地上から入れる遺跡ダンジョンへの入口は無数にあり、聖教会側は既にいくつかの場所から探索を開始している。
聖教会は100人以上の部隊をこの地へ送り込んでおり、さながら遺跡発掘の調査隊であるかのようだ。
俺達みたいな一攫千金を求めるたった5人の冒険者パーティ紛いなんかとは規模が違う。
貧富の格差はいかんともし難いな。
100対5、同じ事をやっていても勝ち目は無い。
しかもこっちは出遅れている。
だがピアには勝算があるようだ。
「向こうは手当たり次第に、しらみ潰しで調査を行っているようだが、こっちにはこれがある」
宿屋の一室でピアが一枚の巻物を広げた。
「この遺跡の地図だ。
ダンジョン化する以前のものだが、最深部へと至る道もすべて記されている」
アザ教から譲り受けた、地図の複製品だそうだ。
聖教会側は持っていない情報。
これは大きい。
しかしアザ教、よくこんな物持ってたね。
「元々古代アザトース教団の遺跡なんだよ、アザトースら旧支配者は星辰が正しかった頃はこの世を支配していたが、今は正しくなくなって封印させられたとかなんとか、まあ詳しい話は熱心な信徒じゃない俺にはよく分からんが」
テリーがそう言った。
「その辺の真偽については色々言われてるから、私も分からんよ」
と、ピアが続け、
「とにかく、地図があるのはこちらだけだ。
最深部の位置が解っていて、しかも最短距離で行けるんだ、これで奴らを出し抜ける」
なるほど、前回の時もこれがあったから先に宝珠を取れたんだな。
「そういうこと。
奴らにバレないうちに裏口から侵入して、宝珠を貰ってしまおう。
サッと入ってサッと出ていく。
そのまま村からも出ていければ、あっという間に任務完了さ」
ーーーーーーーー
ドワーフの村で携帯食料などの備品を買い揃えて準備を整えると、俺達は遺跡の裏口へ向かった。
遺跡の裏口は村からしばし離れた森の中にある。
こちらの動向を伺うために、聖教会は何人かのシーフを俺達に張り付かせ監視していたが、全員ピア&テリー姉弟に気絶させられるか巻かれるかした。
ダークエルフのシーフに勝てるような人族のシーフなど、そうはいまい。
だが、森へ向かったという情報は向こうに洩れてしまうだろうから、ここからは時間との戦いでもある。
数時間ほど歩き、裏口に到着した。
裏口は森の奥の岩場に隠されるように存在していた。
小休憩ののち、中へ入る。
パーティ編成は、ピア&テリー姉弟が前衛、真ん中に俺とルナ、後衛にはミーアが付いた。
ミーアの得物は小型ボウガンだが、接近戦用に金属製のカギ爪も装備している。
前衛シーフ2、中衛魔術師2、後衛レンジャー1といったところか。
入って最初の部屋にいたのは大蝙蝠四匹だった。
空を飛び回り、時折急降下で攻撃してくる相手だが、ミーアのボウガンと俺とルナの魔術弾で難なく撃破できた。
早速四匹とも下僕化し、一匹はここに見張りとして残し、三匹はピア&テリー姉弟のさらに前へ配置して、偵察要員とした。
どんどん下僕化していった方が良いですかね?
「ああ。戦力が多いことに越したことはない」
その後もダンジョンは、蛇、サソリ、蜘蛛、といった取るに足らない敵ばかりで、攻略は問題なく進んだ。
次々と下僕化していき、前衛を全部下僕に任せられるようになると、ピアとテリーもボウガンに武器を持ち変えた。
下僕数が二十匹を越えると、ボウガンすら撃つ必要は無くなった。
下僕で敵を倒し、倒した敵を下僕化して戦力増強。
以下それのループである。
「戦わないのは楽で良いが、腕が鈍ってしまいそうだな」
と、テリーが軽口を叩く。
こうしてみると、ネクロマンサーというのはあんまりパーティプレイに向いてないクラスだよな。
なんというか一人で完結してしまっているところがあって、ソロ向けのクラスな気がする。
下僕をあまり作らず、支援魔法だけに徹すれば、他のメンバーが暇にならなくて済むのかも知れないけど、わざわざ作らないのもなあ。
ーー
下僕数は四十匹を突破。
もはやダンジョンは俺の下僕で渋滞を作るような有り様だ。
先頭の方は誰がどの敵と戦っているのかも、よく分からなくなってきた。
時折、地面に転がっている敵の死骸を下僕化し、渋滞の列に加える。
これは不味いな。
下僕に戦闘を全部任せれば、早々にダンジョンを攻略出来るかと考えていたが、渋滞のせいで逆に攻略に遅れを来たしかねない状況だ。
ちょっと下僕増やすのは止めておきましょうか?
「そうだな。ここまで暇なダンジョン攻略は初めてだよ」
ダンジョンにはトラップなども仕掛けられていたが、下僕が勝手に踏んで発動させたりするので、探す必要もほぼ無い。
一応ピアは警戒を続けてはいるが……
ーー
渋滞によるノロノロ運転のまま進んで行くダンジョン攻略だったが、
あ。
「どうした?」
最初の部屋にいた下僕蝙蝠が、何者かに倒されたようです。
「奴らにもう裏口を察知されたか」
誰に倒されたのか、まではよく分かりませんが、そうかもしれない。
「追い付かれる前に先へ急ごう」
そうしたいところだが、渋滞のせいでゆっくりとしか進めない。
俺は下僕化の際に威力強化で戦闘力を高めた個体を作成し、所々に放置したりなどした。
ピアとテリーも、既に発動してしまった罠で再設置可能なものがあれば、仕掛け直したりしている。
これで後続パーティの進軍速度が落ちれば良いのだが。
ーー
その後もノロノロ運転は続く。
後続パーティの戦闘力はかなり高いらしく、残してきた下僕達は次々と倒されている。このままでは追い付かれそうだ。
渋滞を乗り越えて、自分達が先頭に立てばもう少し早く進めたかもしれないが、今となっては不可能だ。
追い越し車線すらも埋まっている高速道路のような状況だ。
作戦ミスったかなあ……
ピアは地図を広げて、残りの距離を確認する。
何処かで後続パーティを迎え撃つか、それとも最深部まで突き進むか。
もめ事は起こすな、とドワーフには言われているが、こんなダンジョン内の目の行き届かぬ場所では、何が起きてもわかりゃしないだろう。
「どうやら、こちらが最深部にたどり着くのが先になりそうだが、ギリギリだな」
ピアの見立てを信じ、攻略を先に進める。
足止めに残す下僕達に、通路の壁を崩落させて道を塞がせる事までして時間稼ぎを行った。
後続パーティはそれすらも乗り越えてこちらへ迫ってくる。
急に渋滞の流れがスムーズになった。
徒歩より遅かった歩みが、徐々にスピードを上げて行き、今では遺跡内を走り抜けるまでの速さへ。
渋滞の先頭が、どこか広い場所へ出たんだな。と俺は察した。
「まもなく最深部だ!」
ピアの声を聞きながら全員で走り続け、最後の門を潜り抜ける。
ーー
そこはちょっとしたコンサートホール並の広さの空間だった。
左右に何本も装飾の施された円柱が立ち並び、見上げるような高さの天井にまで続いている。
かなり遠くにある反対側の壁には、ここよりも大きな入口が開いていた。
あれが本来の入口で、俺達が入ってきた方が裏口なのだろう。
ホールの中心には大きな台座があり、丸い宝石のような物と石板が嵌め込まれている。
それらを守るように2体の巨大石像が立っていた。
よく見ると、円柱の合間にもガーゴイル像のような物が何体かあるようだ。
俺達はそこへ向かい、石板の前まで移動する。
「これが第二の宝珠で間違いないだろう。
周りの巨人とガーゴイルがここのガーディアンだ。
石板の謎解きに失敗すると、あの時のドラゴンゾンビのように襲いかかってくる」
このガーディアンは、アンデッドじゃないから下僕には出来ないか、残念。
そういえば、この石像どことなく前世のモアイ像の様な顔をしているな。
「この石板が難問でな。前回も誰も解らなかった」
そんなに難しいのか、どれどれ。
『グラディウスの有名なコマンドは?』
うん?
なんだろう、このそこはかとない違和感。
「誰か解るか?」
ピアが聞いたが、全員が首をかしげる。
「剣の種類にグラディウスってのはあるぜ、やや短めで両刃になってるタイプの奴だ」
と、テリー。
「その後に有名なコマンドと続いていますね。
グラディウスを装備品として採用している、有名な特殊部隊の名前、ということでしょうか?」
と、ミーア。
「その可能性は高いが……各国の特殊部隊、隠密部隊でそういうのは聞いたことが無いな」
と、ピア。
いや、これは、まさか……でも……
そういえば、この石板についている突起物やボタンらしき物にも見覚えが。
「分かるのかい?」
多分、ですが。
答えは『上上下下左右左右BA』です。
「ええっ?この問題文から、何でそんな突拍子もない答えが導き出されるんだい?」
それは……
突如、ホール内が眩しい証明に照らされた。
ダークエルフも猫獣人も夜目が効き、俺も黒ローブの効果で暗視があるので、誰も今まで明かりを必要としなかったのだ。
ついに後続パーティが追い付いたのか、と思ったが侵入者が来たのは反対側だった。
正面の入口から、いくつもの光源の魔術に照らされながら、大勢の人間が入ってきた。
司祭服の者が一名、ローブ姿の魔術師が二名、その他武装した兵士達が十名、いや二十名?まだまだ後続があるようだ。
「邪悪なダークエルフどもめ、神聖な宝珠を汚す気か!」
司祭が叫んだ。酷い言い草だな。
ピアが叫び返す。
「ここでのもめ事は、ドワーフとの取り決めにより禁止されているはずだ。
破れば双方とも出ていく事になるぞ!」
「ああ、出ていこうではないか。
貴様らを倒し、宝珠を手に入れた上でな!」
ダメだこりゃ。
ほんと宗教家って奴は、普段優しそうな説法をしている癖に、いざ敵対するとなると情け容赦が無い。
前世の歴史でもそういうことは多々あったのだ。
俺は下僕達に命令を下し、入口付近に固まっていた兵士達を取り囲ませた、その数三十匹ほど。
アンデッド部隊の出現に、兵士達は騒然とした。
武器を構え、戦闘体制で対峙する。
しかしこの人数、まるでこちらの居場所が分かっていたかのような周到さだ。
後続パーティの出現もやけに早かった。なぜ分かったんだ?
ふと、あの時、白ローブから貰った魔術スクロールの存在が気になった。
探索直前に急に相手から貰えたアイテム。
あれに何らかの追跡装置が仕掛けられていたのでは?
いやいや、そんな証拠はどこにも無い。
だが、その可能性が無いわけでも……
「エイジ君、来るぞ!」
ピアに呼び掛けられ、ハッと我に返った。
「かかれっ!邪教徒どもをみな殺しにしろ!」
司祭が叫ぶと、おおっー!という掛け声と共に兵士達がアンデッド部隊へ攻撃を開始した。
戦いは始まった。
もう殺し合いは避けられない。




