第二の宝珠
ある日、ピアがやや興奮気味に館の住人全員を召集した。
アザトース教団から神託があり、ついに第二の宝珠のありかが判明したらしい。
場所は大陸南部にある山岳地帯。
そこにある古代文明の遺跡の中だそうだが、あの辺りはドワーフ族のテリトリーになるらしい。
ドワーフ族はたまにナガッセでも見かける事がある。
背の低いずんぐりむっくりした姿で、全身凄い筋肉。
髭もじゃの顔で武器は両手斧という、いかにもゲームに出てきそうなドワーフの姿をしていた。
この世界というのは、そういうテンプレに関しては実に基本に忠実だ。
エルフもいかにもゲームに出てくるエルフという姿形をしているしな。
ドワーフは独自の勢力圏を持っており、聖教会にもアザ教にも属していない。
北方戦争の際にも中立を保ったそうだ。
ドワーフは自分達の所有する鉱山を半ば神格化しており、よそ者がそこへ近づく事を極端に嫌う傾向がある。
彼らは、朝起きたら鉱山へ行って働き、夜に帰ってきて酒を飲んで寝る、という労働者の生活スタイルなので、鉱山の良し悪しがドワーフに取っての生命線。
どこの馬の骨とも解らぬよそ者に、鉱山を荒らされたくはないのだ。
南部山岳地帯にも良質な鉱山が多数あり、ほぼドワーフの独占状態。
今回の遺跡周辺にも鉱山があり、当初は立ち入る事さえ拒まれたが、アザ教側から何度か交渉が持ちかけられ、なんとか宝珠探索の間だけは入ることを許された。
ただし、もめ事が起これば直ぐに出ていってもらう、とも釘を刺された。
聖教会側もドワーフと交渉が行われた形跡があり、第一の宝珠の時と同様に、早い者勝ちの奪い合いになるだろう、というのがピアの見立てだった。
「今回は戦争にはならない。
もめ事が起きれば双方出ていくしか無くなるからな。
だが、聖教会が取り決めを守るかどうか、注意は必要だ」
ピアがそう締め括った。
ーー
すぐに出発へ向けての準備が進められた。
今回のパーティメンバーは、俺、ピア、テリー、ミーア、ルナの五名になった。
キューは館を守るためにお留守番。
ルナは身体回復後の初めての遠出になる。
遠征へ向けての移動には、キューと俺とで協力して開発した新しい乗り物が用意された。
四頭の骨馬が牽引する馬車、通称骨馬車である。
骨馬には馬用の鎧が着せられ、遠目には骨だとわかり難いように細工がされている。
戦闘になることも想定し、車体には対魔装甲も施してある。
ローブを着たスケルトン2体も常備され、御者や荷物運びなどの仕事をやってくれる。
二十四時間文句も言わずにずーっと働いてくれる便利な乗り物だ。
食費も要らない給料も要らない、要るのは俺の魔力だけ。
前世日本では、ロボットとAIに仕事が奪われるという話があったが、この世界ではスケルトンに仕事が奪われるのだ。
そういえばロボットとスケルトンってなんか外見も似てるね。
ーー
準備が整い、キューとミーアの姉弟達に見送られ、骨馬車で出発した。
目的地の遺跡に一番近いドワーフの村までは、かなりの日数を要する。
俺達は適当に雑談して時間を潰したり、危険な場所では周囲を警戒しながら進んだりした。
骨馬車が近づくと大抵の人間は驚いて道を開けた。
ミラージ周辺でこんなのが走っていたら、間違いなく攻撃を受けるだろうが、遠く離れたこの地ではまあ大丈夫。
それでも念のため、人が多い場所ではスケルトンに変わってテリーが御者を勤めたりはした。
ルナはあの一件以来俺にすっかりなついてしまって、移動中もほぼ俺のそばにずっといた。
時折、俺に背中を預けてきて、とろんとした目をしていることもあった。
「属性酔いが心地好いの。まるで全身撫でられてるみたい」
夢見心地でルナはそう言った。
属性酔いというと、あの雨の日のピアとの出来事を思い出すが、あれ以来ピアからそういう素振りは全く無かった。
普段通りの態度のままなので、あの出来事は一夜の夢だったのかしらと思うようになった。
だが、あの柔らかかったピアの身体と唇の感触は、今でも忘れずに覚えている。
ーーーーーーーー
何日もかけてようやくドワーフの村に到着した。
キューの作った骨馬車はとても丈夫で、道中故障らしい故障もほとんど無かった。
さすがはキューの作った秘密道具だ。
そのうち水陸両用馬車ぐらい作ってくれるかも。
馬車停めには既に何台もの先客が停めてあった。
みんな聖教会の紋章が描かれている。
かなりの大所帯でここに来ているようだ。
アザ教側もこれぐらいの規模で乗り込んで来れば良いのに、なぜやらないんだろう。
「アザ教、というか今のダークエルフは穏健派が主流でな、面と向かって人族と戦いたく無い、ってのが多いんだよ。
まあ、そのお陰でウチのような没落貴族に、仕事が回ってきてる訳でもあるが」
テリーが皮肉っぽくそう言った。
ーー
骨馬車を停めて、逗留の準備をしていると、背後から声をかけられた。
「おやおや、禍々しい馬車が到着したと聞いて来てみれば、いつぞやの脱走者君がいるではないか」
振り返ると、ある意味懐かしい面々がそろっていた。
あの時の女騎士を筆頭に、女侍、赤ローブ、青ローブ、そして白ローブ。
みんな挑発するようなふてぶてしい顔の中、白ローブことソフィアだけは浮かない表情だった。
「解らぬものだな。
ミラージに残るより、そっちの方が良かったのか?
あのまま残っておれば、治安の悪いナガッセなんかより、もっと良い暮らしが出来たろうに。
そもそも、たった5人でミラージに挑むつもりか?」
俺がナガッセにいる事をもう掴んでいるのか。
聖教会の情報網も中々だな。
「あら、そう言って見下していた相手に、前回宝珠を奪われたのは、誰でしたっけ?」
ピアが俺の前に進み出て、女騎士に対峙する。
「ほう、言うではないか。あの巣穴の奥で盗掘に勤しんでいたのはお前たちか。
エイジよ、お前は我々ではなくこのダークエルフを選んだのか?」
そこへ赤ローブが割って入り、
「お前、女の趣味悪すぎだろ。こんなちっこい奴の何処が良いんだ?」
「小さくて悪かったな、この短命」
「た、短命だと?それはエイジも同じだろうが」
「あら、……エイジ君は短命には終わらんよ」
こちらを見て、意味深な笑みを浮かべるピア。
え、俺何も聞いてないですけど。
「ま、お前がそいつを選ぶってんなら俺は」
そう言いながら赤ローブは、チラリと白ローブことソフィアの方を向いた。なんだよ……。
と、そこへ
「そこのエルフもどきには見覚えがあるな」
青ローブの鬼畜眼鏡が、ルナを指差しつつそう言った。
よく見ると、こいつエルフだな。
「前はもっとやつれておったようだが、興味深い」
青ローブに睨まれると、ルナは俺の後ろにササッと隠れてしまった。
「あの変態伯爵の家で死んだと思っていたが、逃げおおせていたのか。
そっちは脱走者ばかりが、よくよく集まる場所なのだな」
こいつルナの過去について何か知ってるのか?
しかしトゲのある言い方だな。
何か言い返してやろう、と思ったところへ、
「争い事を起こすようなら、双方出ていってもらうぞ。そういう取り決めのはずじゃ」
高齢のドワーフが、何人もの護衛を引き連れてやって来た。
いかにもこの村の長です、といった風情だな。
「人の土地で勝手に宗教戦争など始めるな。迷惑じゃ」
「これは戦争ではなく論争です。
まあ、我々はもう退散しますよ、長どの」
女騎士はそう言い、去って行こうとしたが、そこへ白ローブが、
「エイジ、後で話があります。できれば二人きりで」
どうするか悩んだが、俺は分かったと答えた。
うーん、全員の視線が俺に当たって痛い。
ーー
ドワーフに呼ばれ、村にある酒場の一室へ案内されて行ってみると、白ローブことソフィアが先に座って待っていた。
夜になれば賑やかになるここも、昼のうちは静かで、今はソフィアと貸し切り状態だ。
「どうして行ってしまったのですか、あのままミラージに残ればよかったのに……」
悲しそうな表情でそう言われてしまうと、まるで自分が悪い事をしたように思えてきてしまう。
相手が優しそうな美少女ならなおさらだ。
あのまま残っていたら、聖教会の司祭に殺されてしまいそうでしたよ。
それにピアとは、先に仲間になる約束をしていたからね。
「ミラージが一枚岩じゃないのは認めます。
でも魔術師ギルドに属してしまえば、聖教会も簡単には手が出せない」
なら簡単じゃない方法で手を出して来るんじゃないですか。
あなたにも不信感がある。俺の過去について、知っているのに教えてくれない。
「それは……」
そう言うと、唐突にソフィアはナップサックから一枚の魔術スクロールを取り出した。
闇属性の魔術、死者召喚。
俺の知らない魔術だな。
アンデッド関連の魔術なのに知らないとは珍しい。
「これは闇属性の高位魔術の一つ、死者召喚のスクロールです。
魔力消費量は多いですが、過去に下僕としたアンデッドを呼び出して、また下僕にすることが出きる魔術です」
ほう。
「これを見て、何か思い出しませんか、エイジ」
……いや、特に何も……。
本当に何も無い。初めて見るスクロールだ。
「そう、ですか……」
ソフィアは落胆したようだった。
「これは差し上げます」
んん?マジックアイテムで俺を釣ろうというのか?
そんなマジックアイテムの一つや二つで俺は転んだりなんか……するかも知れない。
良いんですか?あなたの敵を強化することになりますよ。
「敵って……私はエイジと戦いたくは無い」
そりゃ俺も戦いは避けたいが、このまま宝珠の取り合いを続けていれば、再び戦いになることは必至だ。
ピアの依頼を手伝って行くと決めた以上、もう戦いからは逃れられない。
「解りました。今日のところはここまでで……
でも、私はまだ諦めませんから。
いずれまた話し合いを」
ソフィアの目は真剣だ。
本当にいつかは話し合いで決着がつくと考えているのだろうか?
つまり、俺が折れてミラージの側へ寝返ると?
ーー
ソフィアを店に残し、一人外へ出ると、やや離れたところでピアが待っているのが見えた。
手持ち無沙汰で、所在なげにしている。
話し合いが終わるまで、待っていてくれたのだろう。
俺は歩いてピアの方へ向かった。
「話は終わったのか、
いったい彼女は何者なんだ?」
俺はミラージでの出来事をかい摘まんで話した。
要するにあの光属性魔術師は、俺を引き抜きに来たんです。
「それで……その、エイジ君は、どうしたいんだい?」
やや不安げな表情で俺を見るピア。
ええー、いやだなあ。
俺、まだそんなに信用されていないんですかー。
「そ、そういう意味じゃないんだ。
ただ、あんな綺麗な人に君がついて行ってしまって、それで」
慌てふためくピアの姿というのは、中々珍しい。
今さらミラージになんて戻りませんよ。
ピアに助け出されたあの時に、俺はもうどちらに付くか決めたんです。
俺がそう言うとピアはホッとした表情になり。
「なら早くそう言ってくれよ、もう」
そして店の入口をチラリと見て、
「さあ、行こう。急いで遺跡探索への準備をするんだ。
初動で向こうに負けてるんだから、直ぐに掛かるぞ」
俺の手を掴むと、引きずるような勢いでピアは先へ進んで行く。
振り替えって店の入口を見ると、白ローブがこちらの様子を伺っているのが見えた。




