ネファラム家の人々 テリー編
「エイジさん。そろそろお昼ご飯できるんで、テリーを呼んできてくれませんか?」
エプロンドレスにお玉片手で黒髪ストレートのネコミミ少女にそんなことを言われちゃったら、
誰もが二つ返事で「はーい」と答えるだろう。
俺もそうして館二階のテリーの部屋へ向かう。
ドアをノックすると、
「開いてるよー」
ドアを開けて中を見たら驚いた。
部屋中本だらけ、本棚に収まりきらず床にまで積み上げられた本が塔を何本も作っている。
何だこりゃ本のワンダーランドか。
以前聞いたことがある。
ネットもゲーム機も無かった頃の引きこもりは、本の山に埋もれて生活していたと。
願はくは本の下にて秋死なむ。
そうか、お前は同志だったのか。
ーー
リビングに全員揃って昼飯を食べた。
キューは徹夜明けで部屋で爆眠、ピアは外出してていなかったので、
俺、テリー、ルナ、ミーア、ミーアの姉弟たちで全員である。
食べ終わってみんな解散していく中、俺はリビングに飾られていた一枚の絵が気になった。
小高い丘に築かれた、城の絵画。
「そいつはネファラム城、とかネファラム砦とか言われてた建物だよ。
城というには小さすぎ、砦と呼ぶには大きすぎな、微妙な大きさの建物だったのさ」
テリーがそう言った。
ネファラム、ということはこの家の城なのか?
「かつてネファラム家は、ダークエルフの中でもそこそこの影響力を持つ、名家だったのさ。
全盛期にはその城を拠点にして、周りに荘園もいくつか持っていたらしいぜ。
だが北方戦争の折に、その城は人族とエルフの連合軍に攻められて陥落。
領地も失って、没落してしまったのさ。
俺の親の代には財産と呼べるような物は、この館ぐらいしか無くなった」
そうだったのか……
そう言えば、テリー達の親はどうしたんだ?
「……今、ネファラム家で生き残ってるのは、俺達三人だけさ」
あまり言いたくない事なのだろうか、歯切れが悪かった。
そういう事は根掘り葉掘り聞くまい。
「ピア姉が、必死に走り回ってるのは、ネファラム家をもう一度復興させたいという願いがあるからさ」
ピアはほとんど館にいないよな。
何か復興させる手立てでもあるのかね。
「いや、ピア姉も本当は自分一人の力ぐらいじゃどうにもならないって事ぐらい、理解しているよ。
それでも、動かずにはいられないんだろうな。
その気持ちは解るが、俺は貴族のゴタゴタに巻き込まれるのはもうごめんだ。
キュー姉も開発と研究が我が人生ってタイプの人で、復興には興味が無いみたいだがな」
テリーはぐるりとリビングを見渡した。
もう俺たち以外は部屋から出ていってしまっているのを確認すると、やや小声になって話を続けた。
「この家の収入は、ピア姉が取ってくる依頼と、キュー姉が細々と売ってるマジックアイテムの売り上げで、なんとか維持費ギリギリってとこだ」
そうか、ここもまたカツカツなのか。
「キュー姉は弟の俺が言うのも何だが、あの技術力は本物だ。
ちゃんとした設備が整ったところならば、もっと色々やれるんだろうが……」
そう言えば昔はイカーデと同じ施設で働いてたとか言ってたな。
「ピア姉はアザ教からの依頼を積極的に受けてる。
まだ名家だった頃のつながりが、アザ教とはあるんだ」
アザ教?初めて聞くな。
「アザトース教団、略してアザ教だ。
別の名前でなら聞いたことがあるんじゃないか?
聖教会の連中が、邪教の蔑称で呼んでるのがそれだ」
それは聞いたことがある。
ミラージで聖教会の司祭から、お前は邪教徒だから処刑する、とか言われて脅されたよ。
「それはあながち嘘でもない。
闇属性を持つ者はすべてアザ教の信徒、というのが教えの一つだからな」
うーん……
ではピアはアザ教の信者なの?
「ダークエルフは産まれた瞬間にアザトースに捧げられるから、全員が信徒だよ。
だが、俺もピア姉も熱心な信者というわけでは無い。
アザ教にはいつか来る闇と光の最終戦争っていう考え方があってな、その戦争へ向けての準備とされる依頼というか神託みたいなものが度々啓示される。
ピア姉はそういうのを積極的にこなして、アザ教に取り入ってネファラム家の復興を後押ししてもらおうと考えているのさ」
闇と光の戦争……どこかで似たような話を聞いたような。
白ローブが言ってたか?
「聖教会も戦争の準備をしてるって話だからな。
けど、仮に北方戦争並みの戦争がまた始まったとしたら、ダークエルフ側の勝算はかなり薄いぜ。
人類側との国力が違い過ぎる。もはや4倍近く差があるからな。オーク帝国や獣人連合全部と手を組んだとしても、まだ負けてる。
だが、オークと獣人は犬猿の中だから、手を組むなんてこと自体が無理だろうな。
そもそも、北方戦争に巻き込まれて大きく国力を減らす事になった原因がオークなんかと手を組んだ事だと思うが」
戦争ばっかだな。
平和へ向けての話し合いとかは無いのか?
「今のダークエルフは穏健派が主流だから、なるべく戦争回避へ向けて動いてると思うぜ?
まあ、戦争になったら敗北必至だろうから、やりたく無いってとこだろうけど」
ふうむ。
「あと、北方戦争後には、争いを辞めてみんなで仲良く暮らしましょう、的なお題目を掲げる連中がワンサカ湧いてきたらしいぜ。
実現できそうもない、夢物語か雲を掴む話のような耳障りの良い事ばっか言っててさ、本気にして色々やったとこはだいたい挫折して、もっと酷いことになった。
ここ、ナガッセもその一つだ。何が自由都市だ、まったく。
前はもっと住み心地が良い街だったんだぜ……」
地獄への道は、善意が敷き詰められている。
前世でもよくある話だなあ。
にしても、テリーって結構詳しいね。
さすが本を読みまくってるだけの事はある。
「まあな。
さてと、それじゃあ部屋に戻るとするか、失礼!」
テリーは自室に帰って行った。
俺の最終目標である、悠々自適な引きこもり生活のためには、戦争なんて起きてもらっちゃ困るのだ。
もっとこう、世界平和へ向けて……
なーんて俺一人がなんかやったところで、世界情勢に影響なんか無いわな。やれやれだ。




