とにかく明るい地縛霊さん
地縛霊。
この世への未練とかそういうので、死亡した土地や建物から離れられないでいる霊。この世への未練を残して死んでしまったため、悪霊となっているケースが極めて多い。
かつてから俺は、幽霊というものを信じてこなかった。
科学というものが蔓延ったこの世界で、幽霊という存在はあまりにも非科学的だ。だから、かつては見た後にはトイレに行けなくなった『呪いの投稿ビデオ』だって今じゃ全然怖くない。
そして、そんな『呪いの投稿ビデオ』を乗り越えた俺からしたら、こんな『本当にあった怖い話』なんてチープでしかなくて片腹痛い。
「きゃああああ!」
「うるっさいな、少しは落ち着いて見ろよ」
ほうら見たことか。
この同居人に対する落ち着いた対応。これこそ、大人の対応。まったくこの女、たかだか幽霊が怖いだなんて子供っぽくて仕方がないぜ。
「でもでも……ほうらやっぱり! いるいる! 後ろにいるパターンだきゃあああ!」
女は、叫んだ。
思わず耳を押さえるくらいの大きな声で叫んだ。
喧しいことこの上ない。
たかだか幽霊くらいで。
まったくやれやれ。
この程度で怖がるだなんて、情けない女だ。
「悠馬君は幽霊、怖くないんですか?」
「当たり前だろ。そんなもの」
女に馬鹿にするように言った。
「そもそもだ。今テレビで流れているそれはあくまでドラマ。再現ドラマなんだよ。投稿者の体験だなんて話も眉唾物だし、演出もお決まりのパターン。全然これっぽっちも怖くない」
「それ、幽霊が怖いって言うよりは、オカルトドラマに慣れただけですよね」
「まあ、そうとも言うな」
女はケラケラと笑った。妙に耳障りな笑い声で、俺は少し立ち眩みのような不快感を覚えた。
「それよりも花梨。もう少し静かにしてくれ」
「どうしてです?」
「近所迷惑だからだ」
「いやいや、あたしの声なんて全然向こうには聞こえていないでしょう?」
「そんなはずがないだろう。一人暮らしの片岡さん家から、時々テレビの音と女の笑い声が聞こえるって、度々このアパートの住民から苦情を頂いている」
「え、そうだったんですか? それはごめんなさい。少し気を付けます」
「ああ、テレビはなるべく小さい音で、離れてみような」
「なんですか、それ。某アニメの不祥事でビデオとかに書かれるようになった文句みたいじゃないですか」
「おう、それを狙った」
再び、花梨はケラケラ笑った。うむ。やはり彼女の笑い声は、体に毒だ。
「それよりも、だ。そろそろテレビ変えていいか? 俺、スポーツニュースみたいんだけど」
「えー、さっき中継見てたじゃないですか! あたしこの番組、先週から楽しみにしてたんですよ!? 佐藤〇君恰好良いから好きなんですよ!」
「佐藤〇君はさっき出ただろ。そもそもここの家主は俺だ。テレビのチャンネルの占有権は俺にある」
有無を言わさず、俺はチャンネルを変えた。
「あっ! あーっ! ちょっとちょっと、悠馬君。チャンネル戻してください! ゆーうーまーくーん!」
花梨が俺の体を揺さぶった。体に触れられたわけでもないのに、視界だけがグワングワンと揺れに揺れた。
「……うっぷ」
急激な吐き気に、俺は襲われた。
「今だ!」
そう言って、花梨はチャンネルを再びさっきの番組に戻した。
「えへへ。やっぱりこの時期にこの番組は欠かせませんよねー」
「だとしても……俺を呪うのは止めろ。吐き気が止まらなくなっちゃっただろ」
「ふーんだっ。チャンネルを勝手に変える悠馬君が悪いんでしょ?」
悪びれた様子もなく、俺の同居人の月島花梨は言ってきた。
それに少しだけ……いいや、大層腹を立てながら、俺は彼女に当てられて吐きそうな体を休ませた。
この同居人のことを、実は俺はまだあまり深くは知らない。
偶然、今から一年ほど前、都内の一LDK八畳の物件が不動産屋で格安で売りに出されていたのが、出会いのきっかけだった。
あの時、好条件の部屋を見つけて、さっさと契約しようと慌てていた俺に対して、不動産屋の人間が乗り気でなかった時点で気付くべきだった。
「早く成仏しろよ」
「嫌でーす」
月島花梨は、俺の前にこの部屋に住んでいた住人だ。
まだ高校生だった彼女がここに住んでいたのは、実に今から十年前。四年ほどここで暮らした。
そして、この部屋はそれからしばらくの間、不動産屋の広告に並ぶことはなかった。
どうやら、匂いが落ちなかったからだそうだ。
どういう匂いなのか、先日嬉々として花梨は語ってくれたが、おかげで俺は彼女が自決に選んだリビングにいる時、たまにふと身の毛がよだつようになってしまった。
彼女は、地縛霊だ。
この世に未練を残して、自らが息絶えた場所に体が朽ちようと、魂だけで留まる、そんな悪名高き……いいや、悪霊高き地縛霊だった。
地縛霊。
悪霊ということもあって、彼女は身の毛もよだつくらい恐ろしい。
家主の俺が好きなテレビを見ようとすると呪ってくるくらい、彼女は非常に恐ろしく、危険な存在なのだった。
そりゃあ、オカルト再現ドラマなんかでは恐怖を抱かなくなる程度に、恐ろしい存在なのだ。
だけど彼女は、時々彼女が悪霊であることも忘れるくらい、笑顔が多くて明るい、まるで太陽のような少女だった。
* * *
「ご両親に会わせろだぁ?」
悪霊花梨との同居生活が馴染んできた頃、花梨は突然そんなことを言い出した。表情はいつにもまして真剣だった。
「はい。明日行きましょう」
俺は思わずため息を吐いた。何を言い出すのだろう。この悪霊は。
「そんなことよりもお前、先週末泊まりに来た綾瀬にポルターガイスト現象かましただろ」
「な! そんなことしてませんよ!」
「嘘をつくな。週明けの昨日、先輩あの部屋出た方がいいですよってすげえ心配されたぞ。どうしたのか聞き出せば、あの部屋は呪われているだの。ティッシュの箱が空を飛んでいたとか、突然テレビが点いたとか、そんなことばっかり言われた。何が辛いって、この部屋本当に呪われているから、そんなことないよって言葉が嘘になることなんだからな!」
「……し、してないですよ、そんなこと」
わかりやすく目を逸らして、一層小さな声で花梨は続けた。
「ちょっと脅かそうと思っただけです」
「いや完全にそれじゃん」
何嘘ついているの、この悪霊。
「ふーんだっ。悠馬君、女の趣味が悪いんですよ!」
「は? 綾瀬は女だけど、それが一体なんだってんだよ」
「この朴念仁! 会社の一つ上の先輩の家に宅飲みに押しかける女が、女豹じゃないわけないでしょ!? あたしは悠馬君の貞操を守ってあげたんですよ」
「悪霊に管理される貞操ってなんだよ。ていうか、別に俺と綾瀬は男女の関係じゃないぞ」
「犯人は皆最初否定するんですよ」
「いや、仮に男女の関係だとして、それは何の罪に問われるんだよ」
「悪霊侮辱罪です」
「随分とピンポイントな罪状があるんだな、この国には」
「あるわけないじゃないですか、馬鹿なんですね、悠馬君」
なんで怒られたのだろう……?
まあ、いいや。大体わかった。
「つまり花梨は、俺と綾瀬の関係が発展するのが面白くなくて、阻害した、と」
「はい。そうです」
「でもさ、お前に俺と綾瀬のこと、まったく関係なくね?」
「はあ、やれやれまったく……。悠馬君」
「おう」
「その通り過ぎて笑えます」
花梨はケラケラと笑い出した。久しぶりにこの女に対して、苛立ちを覚えた。
……そういえばこいつ、明るいけど悪霊だったわ。
「なんで邪魔した?」
「いやはや、あたし的に面白くなかったからです」
「お前、度が過ぎた最低野郎だな」
「悪霊ですからね」
いや、自分の立場棚に上げるなよ。
なんだかこのまま話すのもあほらしくなってきた俺は、当初花梨から振られた話を思い出した。
「で、ご両親に会わせろだっけ?」
「ああ、そうですそうです。そうでした」
……そういえば。
いつか花梨と出会った当初、まだ俺が悪霊の花梨に怯えていたあの頃、俺は花梨の家庭構造を教えてもらったことがあった。
花梨は一人っ子の家庭で育ち、彼女が存命していた頃は、まだご両親は存命だったと思われる、とのことだったな。確か。
どうしてかあやふやな言い方だったが、確かそれにも訳があった。
それは彼女が親の反対を押し切って、高校生にして一人で上京し来た過去があったから。
彼女は、かつて高校生にしてアイドルを目指し、上京してきた夢多き女だった。しかしその夢が叶うことはなく、親ともほぼ絶縁状態の関係になってしまったことが理由で、一人寂しく命を絶つ決意を固め、自決したと言っていた。
今では事故物件のこの部屋だが、当時はまだ値の張る部屋だったはず。だから、彼女の名前は知る人なら知っている名前ではあったのだろうが……生憎俺は、アイドル関連の話には明るくなかった。
「ちなみに場所はどこだ?」
「神奈川の厚木です」
「意外と近いな。もっと遠いと思ってた」
「どうして?」
「だってあんた、神奈川って東京の隣県だぞ? それなら上京せずとも通えたんじゃないのか?」
「悠馬君、考えが甘いですよ」
「悪霊に言われると腹立つな」
「いいですか? アイドルの仕事って、ロケによっては早朝とかも多いし、移動手段が多い都心付近に住むに越したことはないんですよ。特にあたし、晩成はかなり売れてきていましたから。学校へも通えない日もチラホラあったくらいです」
「へえ、そうなんだ」
「はい。ほら、あたし可愛いですから! アハハハハ!」
「喧しい」
自惚れも大概にしろ、と言ってやりたくなったが、彼女は大概自惚れていない顔つきをしているので、あまり大きな声で否定は出来なかった。
「……まあ一先ず、わかった。厚木だったら行ってやるよ。あの辺の空気、俺は好きだ」
「へえ、駅前は風俗店が一杯ありましたけど……そうですか。悠馬君、性病には気を付けてくださいね」
「お前、本当にろくでなしだな」
「悪霊なので」
「悪霊であることを免罪符にするな」
景気よく突っ込みを入れて、俺はため息を吐いた。
「ただ、明日は駄目だ。今週末な」
「えー。どうしてですか? いいじゃないですか。用事なんてないでしょ?」
「あるわ。明日も仕事だっての」
「ぶーぶー。また明日もあの綾瀬って女に会わなきゃいけないと思うと、気が滅入りますね」
「じゃあ、付いて……ああいや、憑いて来なければいいじゃないか」
「だって、部屋に一人でいるのも暇じゃないですか」
「アクティブな悪霊だな、この野郎」
本当、有機物に触れなくて、俺以外の人からは見えないこと以外は、彼女はまるで生きている人にしか見えなかった。
「一日くらい、いいじゃないですか」
「よかあない」
「どうして?」
「いいか? 俺がもしサボって、職場から見捨てられるとするだろ?」
「はい」
「そうすると、家賃が払えなくなる」
「はいはい」
「そうすると、この部屋にも入れなくなる」
「はいはいはい」
「お前とも一緒にいれなくなるわけだ」
「悠馬君、それは一大事ですね。身が骨になるまで働き詰めてください」
「この悪霊め……! 少しは労え」
「アハハ」
悪霊は、人の不幸が蜜の味だったのだろうか、大声で笑い出した。頭が痛かった。
「まあわかりました。それじゃあ今週の土曜ですね」
「おう、案内頼むぞ、悪霊」
俺の悪態に、悪霊は苦笑していた。
「わかりましたよ、社畜さん」
* * *
山手線に乗って、小田急線への乗り換え改札の前。
どうせだからとロマンスカーに乗って本厚木駅を目指そうと思った俺は、間違えて大人二席分の券を購入してしまっていた。
五百円くらいを損したことに少しだけ落ち込んだが、ケラケラ笑っている悪霊への恨みが増した時、なんだかそんなことが酷くどうでも良くなって、俺の隣の席に座るように悪霊へ指示して、俺はロマンスカーに乗り込んだ。
花梨は、乗り物酔いがかつてから酷いから窓際の席に座らせてくれ、と俺に直訴してきた。悪霊のくせに乗り物酔いとは意味不明だな、と思ったが、そんなことを気にするのも徐々に億劫になって、俺は彼女に窓際の席を譲った。
下北沢の地下線路を過ぎて、再び太陽を拝んだ頃、俺は昨晩の残業の影響で猛烈な眠気に襲われていた。彼女のせいで、俺はいつもより早起きして、彼女の両親捜しの旅に繰り出していた。
「町田辺りになったら起こします。寝てていいですよ」
悪霊は、悪霊のくせに気が利く奴だった。
「悪いな」
「新宿出た瞬間にビールのロング缶なんて飲むからです」
「ごめんな」
「いいですよ。あたしは悪霊ですので」
「意味わからん」
「気にしなくていいってことですよ」
少しだけ酔いの回った頭で考えて、俺は苦笑して眠りについた。
町田付近で起こされた時、俺は初め酔いで頭が痛いのか、呪いで頭が痛いのか、区別がつかなかった。
厚木には昼前に辿り着いた。
駅前のチェーン店の天丼屋に入ると、朝ご飯を食べていないせいか、十五分くらいで商品を平らげていた。
「悠馬君は美味しそうにご飯を食べますよね」
「そうか?」
「はい。あたし、いつも時間に追われてご飯食べていたから、少し羨ましいと思いました」
「あんたもなんか食うか? 社畜マンだから、多少の融通は利くぞ」
「悠馬君以外には食品が宙を浮いたように見えるので、大丈夫ですよ」
何が大丈夫なのかはわからなかったが、俺は遠慮する花梨の言葉に乗ることにした。
そこからは、神奈川中央交通のバスに乗り込んで、宮ケ瀬ダムの方へと進んでいくバスへと乗り込んだ。
大学時代に車を持っている友人の助手席に乗って、遠足に来ていた小学生に交じってダムの見学をした時のことを思い出していた。
まさかこうして、再びここに向かう機会があるとは思ってもいなかった。
神奈川中央交通の運転の荒いバスに揺られて、悪霊の指示したバス停でバスから降りた。
殺風景な場所だった。周囲を見回せば、山、山、山。そんな殺風景な場所だった。
「何もない場所に住んでいたんだな」
「何もないように見えますか?」
「まあな」
「ふふふ」
花梨は、旧知を懐かしむように、優しい笑みを浮かべていた。
「ここには、たくさん良い物がありますよ」
それはここをよく知る彼女だからこそ、出てきた感想なのだろうと思った。
花梨の自宅は、バス停から十分程度歩いた場所にあった。帰りのバスの時間を事前に調べておいて、俺達は野道を歩いた。
しばらくすると、一軒ポツンとした場所に家を見つけた。
花梨曰く、あれが彼女の実家らしい。
「そういえば、さ」
「なんですか?」
「……俺、なんて言ってお前の実家にお邪魔しようか」
「うーん。そうですねえ」
花梨は何も考えていなかったようで、腕を組んで唸った。
「そうだ」
「妙案思い付いたか?」
「さすがに、いくら絶縁状態とはいえ、お父さんお母さんがあたしの死を知らないことはないと思うんですよね」
「まあ、そうだろうなあ」
「だから、あたしの恋人を名乗ってみたらどうでしょう」
「いや、絶対駄目だろう」
「なんでですか?」
「死んだ娘の恋人が突然目の前に現れたら、普通どう思う?」
「お前があの子を殺したんだろーって思いますね!」
「確信犯じゃねえか、この悪霊!」
まったく。
なんてろくでなしな悪霊に憑りつかれてしまったんだ、俺は。
「……あ、お母さん」
そんな呆れを覚えていると、花梨が突然前方を指さした。
花梨のお母さんらしき人物は、花を抱えて家を出るところだった。
「お前、命日は?」
「冬です。少なくともこの時期ではないですね。首を吊って、足の先からどんどん冷たくなった時、寒さで悴んでいるのか、最初わからなかったので」
「……そっか」
で、あれば……。
「付いて行ってみましょう」
「おう」
花梨に促されるまま、俺達は彼女の母親の後を付けた。しばらく歩いて、着いた場所は墓地だった。
花梨の母親は、桶に水を汲んで、花を抱えて、忙しない恰好をして歩いていた。
「ウチの墓です」
花梨の母親が足を止めた墓で、花梨が言った。
花梨の母親は、墓に飾られた花を変えて、水で墓を清めて、手を合わせて帰っていった。
「……行きましょう」
言われるがまま、彼女の墓の前に立った。
「父の名前です」
花梨は、墓石に書かれた名前を見て言った。俺も覗けば、他には彼女自身の名前も刻まれていた。
「……そっか」
何て言っていいのか、俺はわからなかった。
「お父さん、死んだんですね」
「そうみたいだな」
「お父さん、最後まであたしのこと邪魔してきたんですよ……」
「邪魔?」
「はい」
花梨は静かに頷いた。
「あたしに、実家に戻って来いって」
「……そっか」
「……ざまあみろって、思いました」
俺は何も言えなかった。
「あたしの邪魔をしたから。あたしの夢を否定したから……きっとバチが当たったんです」
「……そんなこと」
「あるんですよ」
花梨は、ゆっくりと墓に近寄った。
「ずっと疎ましかった。口数も少ないし、何考えているかわからないし……いつも、あたしのことを甘い甘いって、そんなことばかり言う親でした」
「……花梨」
「その通りだったんですね、本当」
「え?」
「甘い子供でした、あたし。全部が上手くいくと思ってた。全部が全部。自分が失敗するはずがないって。失敗しても誰かが助けてくれるって、そう思っていました。
……甘かったんです、あたし。
でもそんなあたしの甘さを否定するような人は少なかった。お父さんだけだった。あたしを否定してくれるのは。
だから、あたしはどうしようもなくなったんです。
死ぬしかなくなってしまったんです」
死ぬしか、ない。
そこまで追い込まれた時、彼女は多分……初めて疎ましかった父親の真意にでも気付いたのだろう。
「謝ろうと思ってきたんです、本当は」
「そっか」
「でも……これじゃあ、謝れませんね」
ようやくこちらを振り返った花梨は……。
「成仏するまで、お預けです」
どこか、儚げだった。
「……花梨は」
「え?」
「お前は、いつ成仏するんだ?」
花梨はしばらく、呆けていた。
ようやく考えでもまとまったのか、唐突に彼女は微笑んだ。
「それは、まだまだ先ですねっ」
「……そっか」
「はい」
花梨は空を見上げた。
まるで、旅立っていった父に対する思いを馳せるように。
「一先ず、次したいことを考えようと思います」
「そっか」
「はいっ」
ふと、花梨と目が合った。透き通るような、吸い込まれるような錯覚を覚える瞳だった。
「それまで付き合ってもらいますからね、悠馬君っ!」
快活に微笑む花梨に、俺はただ苦笑した。
どうやらまだまだ、このとにかく明るい地縛霊との縁は断ち切れないらしい。
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