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湯けむり

作者: 塩見 多一郎

 湯けむり立ち、岩がごつごつぐるりを囲む、広い天然露天風呂温泉にゆっくりつかっていい気分でおりますと、さっと風が吹いて湯けむりの向こうに、10才くらいの少女がつかっておるのが見えまして、目で訴えてくるに、のぼせて立ち上がれないから助けて欲しい、と感じましたので、湯の中をざぶざぶ歩いて近づいて見ますと、見た感じより発育がよかったので少し驚きまして、それでも真っ赤な顔でのぼせて動けそうになく可哀想だったので、胸など見ないように目をそらしながら、ひょい、ざばぁ、と抱え上げて助けようとしましたが、その子が岩のように重くてうんともすんとも持ち上がりませんで、ふと見ますと、それは人でも少女でもなく温泉に転がる子供大の岩でありまして、こりゃ参ったこんなものは持ち上がるまいと思った時、風がまた吹いて湯けむりが一斉に飛び散ったところ、見えて来ましたのが、温泉の底や岩の隙間に沈んでいる、人の死体、死体、死体、苦しそうに口をあけて死んでいる者や、ふやけて半分溶けている者まで、恐ろしくなってふと思い出したのは、この天然温泉の効用は、養分がたっぷりで少しつかるだけでその養分が体に染み込み、元気になるという、なるほど死体から溶け出た養分でたっぷりなのだこの温泉は、そして注意書きとして、つかり過ぎて湯けむりを吸い続けると幻覚を見る恐れがあります、とあったことを思い出しかけた時、ふと見るとまた、目の前で少女がのぼせて赤い顔で湯に沈んで行くので、このまま溺れて温泉の養分になっては可哀想だと思い、必死に抱え上げようとしましたが体がぬるぬるすべって指がかかりませんので、体の下の方にしっかり腕を回して持ち上げようとしましたが、すべるし重いしで往生しておりますと、それはやっぱり人ではなくコケでぬるぬるの重い岩でありまして、自分の手が岩の下に挟まり、顔が完全に湯につかってしまい、溺死の体勢にはいってものすごく苦しんでいるところで、目が覚めました。

 終わり

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