初めての召喚
最近自分好みの小説がないなーと思い
自分で書いてみました。
ここは『エーテル召喚士養成学校』と呼ばれる未来の召喚士を目指す少年少女たちのための育成機関。
この世界の人間たちは誰もが召喚獣との生活を共にしており、非常に身近な存在である。
人間は召喚獣たちの力を借りて、普段の家事や仕事をしている。
そして、そんな彼らの中でも優れた才能を持つと評価された者のみが通うことを許されるのが『エーテル召喚士養成学校』であり、ここを卒業したならばその先の将来は約束されているようなものと言われる程のエリートの集まりである。
卒業したエリートたちは、上級冒険者として外に蔓延る魔物たちを討伐したり、或いは名のある商人や貴族に雇ってもらい専属の召喚士となる事もあるという。
これらの事から入学を希望する者が後を絶たず、毎年の受験者はとてつもない程の倍率を誇っていた。
この話は、そんなエリート街道まっしぐらの『エーテル召喚士養成学校』に通う1人の少年にフィーチャーするお話。
普段の授業態度や成績から周りからは劣等生と蔑まれているルト。ただし、見た目だけは少女と見紛う程の中性的な容姿で、女子生徒たちからは密かに人気のある生徒であった。
その事もあり、特に男子生徒からは「劣等生のくせに……!」と疎まれる事が多く、ちょっかいを掛けられることもしばしばある。
しかし、そんな彼にただ1人だけ周りの評価など関係なしに気軽にルトへ絡む男子生徒がいる。その名もスピアと言い、彼だけはルト自身も友人と思えるくらいには仲の良い関係であった。
「おう、ルト。今日も相変わらず面倒くさそうな雰囲気だしてるな」
「おはようスピア。うん、本当はまだまだ寝てたいんだけど、ユラ先生がうるさいから」
この日も、相変わらず朝の挨拶と他愛のない話に興じる2人。しばらく話し込んでいると学校のチャイムが教室内に響く。それと同時にドアが開き1人の女の子が入ってくる。
「おはようみんな! 今日は……うん、ちゃんとルト君も時間通りに来れてるね! 先生嬉しいよ!」
朝からハイテンションなこの人が先程ルトが言っていた、ユラ先生という女性の教師だ。
まだ若く、生徒たちとの距離も近い彼女は皆に人気者であり、誰にでも分け隔てなく接するまさに天使のような存在である。そんな彼女に、特に目をかけてもらっているのごルト。
他の男子生徒からすれば女子生徒だけでなく、我らが天使まで奪うとは何事か! と、ファンクラブと名乗る人たちから校内で襲撃を受けた事もあるルト。まぁ、それはとある方法で解決したのだが、それはまた別の話。
「はい! と言うことで、今日は前々から言っていたように1年生の皆さんには初めての召喚を行ってもらいます。ワーパチパチ!」
今日も朝からフルスロットルなユナ先生は置いておいて、ここで少し召喚士というものについて、補足をする。
召喚士というのは、名前の通り自分が使役したい魔獣を召喚陣から呼び出し、その場で契約を果たす。その契約した魔獣を好きな時に呼び出して、戦闘や問題を解決するというのが召喚士という。
そして、何も召喚士というのはこの学校を卒業した者でなければなれないという訳では決してない。冒頭にも説明した通り、この世界の人間は召喚獣たちとの共生をはかり、様々な事でその力の片鱗を借りてきた。
12歳の時に子供たちはそれぞれの地域に設置されている、個人の才能を測ることのできる水晶を通して、基準値を満たした者で、『エーテル召喚士養成学校』への入学を希望する者は、受験を許可される。
そして、その基準に満たなかった、受験に落ちてしまった、受けていないという人も、15歳になれば各地域の召喚士ギルドの役員が見守る前であれば召喚獣を召喚できるのだ。
しかし、やはり才能があり、またきちんとした高等教育を受けてきた学校の生徒が召喚するのは軒並み優秀な召喚獣が多い。
そして、今日はそんな待ちに待った召喚獣を呼び出す授業がある。ここで、初めてのパートナーが出来て、これからの生活を共にしていくのだ。
生徒たちは皆がはやくはやくと、先生に急かす。
そんな生徒たちに微笑を浮かべながら、ユラ先生はルト含めたB組の生徒たちを連れて召喚陣のある特別な部屋へと足を運んでいく。
♢♢♢
「はい、着きましたね! ここが召喚の間ですよ」
ユラ先生の引率で召喚の間というらしい部屋へと通された生徒たちは、周りを物珍しそうに眺めている。
「はい、皆さんこちらに注目。召喚をする前にまず説明をします。ここにあるのが、召喚獣を呼び出すために必要な召喚陣です。この上に立って、皆さんは陣の向こうにいる存在へと想いを伝えるのです」
先程までほんわかとした雰囲気だったユラ先生が、今は教師然とした顔をして真面目に説明をしている。
「心の中で皆さんの想いを語りかけてください。そうすれば、皆さんのことを気に入ってくれた召喚獣が応じてくれます」
ユラ先生の説明を真剣に聞く生徒たち。
どうやら、いざ召喚をするとなると緊張しているようだ。
「それでは、ターニャさんからやってみましょう。さぁ、こちらへ」
「は、はい!」
ユラ先生に呼ばれて、召喚陣の周りで並んでいた生徒の中から1人の女子生徒が出てくる。
「心を落ち着かせてやれば大丈夫よ。急に暴発するなんてことはないんだから」
「わかりました。やってみます」
そう言ってターニャは、ユラ先生の説明に従って召喚陣の中心に立つと、目を閉じ両手を重ねて握りしめ集中する。
するとしばらくして、召喚陣が煌びやかに輝き出す。
それを見て驚いた生徒たちは、一瞬声を上げるがすぐに先生が「大丈夫」と手で制する。
やがて輝きは更に増していき、ターニャの目の前と光の粒子が集束していく。その幻想的な光景に、ルトも含め生徒たちは感嘆とする。
そして光は流動するように波打ち、何かの形へと成されていく。その光もやみ、姿を現したのは小さくて可愛らしい橙色のネコであった。
「か、可愛いぃ〜!!」
召喚に応じてくれたネコを一目見てすぐに抱き着くターニャ。
「ターニャおめでとうございます! この子は炎猫と言い、大きくなれば非常に頼もしい存在になってくれますよ!」
「ユラ先生ありがとうございます! そう言えば、呼び出した召喚獣には名前を付けても大丈夫なんですか?」
炎猫にだらんとした表情のまま頬擦りをしているターニャが、ユラ先生に質問する。
「この場で名前を決めて大丈夫ですよ! 生涯を共にするパートナーなのですから、名前はあって然るべきです」
「わかりました! じゃあ……あなたの名前はフィルよ!」
「ニャァ~」
召喚士のターニャの命名に、理解を示したフィルが返答と取れる形で鳴き声をあげる。
「よし、それじゃあドシドシ行きましょうか!」
ユラ先生の言葉に、今度は我先にと挙手をする生徒で溢れかえる。
そうして、ようやくルトの出番がやってくる。
面倒くさがり屋な彼は、最後でいいからと他の生徒に順番を譲り待っていたのだ。
「最後はルト君ね」
「やっと来たか……。眠くなってきちゃったよ」
そう口にしながらも、心の中ではドキドキを隠せないでいるルト。珍しく無愛想な彼の表情が明るく見えるくらいには、楽しみにしていたようだ。
「さてと、俺のパートナーはどんなやつかな?」
そう呟いて、他の生徒たちと同じように想いを募らせる。
しばらくして、例のように召喚陣が輝き出す。
しかし、そこまでの流れは一緒だったのであるが、急に召喚陣がグルグルと周りだし更には一回り大きな召喚陣がルトの頭上に現れたかと思うと、それがゆっくりと下にさがり彼の体を通過していく。
「こ、これは……! 二重召喚!? それもかなり高等な!!」
ユラ先生の驚愕も傍目に、ルトの周りに新たな小さい召喚陣がいくつも現れる。
「いや、これは最高等の召喚陣! 一体、何が呼び出されるというの!?」
そして、周りの召喚陣から発せられる光の粒子がルトの前に集まりだし、2つの『人型』を成していく。
それらの形が定まった後、光が薄れてその姿が顕になる。
「マスター、召喚に応じ馳せ参じました。私は、貴方様の要求と魔力によって成された創作獣。聖と闇の力をこの身に宿す白魔と呼ばれる存在です」
1人目は、この世のあらゆる者が目を奪われてしまう程の造形美を持つ白髪の女性。その肌にはシミなど一つもなく、穢れなど一切感じない。非常に整った容姿をしており、スラッとした肢体にスタイルも抜群。しかし、召しているその服装は黒が基調のゴシックドレスであり、その背中からは禍々しい漆黒の翼が六対あった。
「大将の召集に応じて駆けつけたっす! アタシは饕餮と呼ばれる四凶の存在! あらゆる物、魔、事象を食い尽くしてやるっすよ!」
2人目もこれまた女性。今度は先程の白魔と名乗った女性とは違って明るい綺麗な女性。短めの黒髪に、そのこめかみの辺りからは角が生えている。服装も非常に派手で露出が激しい。そのせいで胸部にある凶器がこれでもかと言うほどに強調されており、周りの男子生徒の目は釘付けになっている。
「ひ、人型の召喚獣なんて初めて見た……! しかもそれが2体同時になんて」
「そこの人間、私たちをそこらの召喚獣なんかと同じにして貰っては困ります」
「そうっすよ!優れたマスターから、優れた召喚獣が呼び出されるのは当たり前のことっすからね」
そう言われて、ユラ先生は圧倒的な2人?の威圧感に耐えかねて、口を閉ざしてしまう。
「君たちが、僕のパートナーか」
「ぱ、パートナーだなんていきなりそのような! ……しかし、マスターがどうしてもと仰るのであれば私は今ここで」
「はいはい、そこまでっすよ。さすがにこんな公衆の面前で変なことはできないっす」
白魔を饕餮が諌める。
「マスター、是非アタシたちに名前をつけて頂ければと」
「私たちが貴方様の下僕なのだという証を」
2人が膝を折って頭を垂れる。
「そこまで畏まらなくても大丈夫だよ。……うん、そうだな。白魔、君にはティナという名前を送ろう」
「そのような素敵な名前を頂戴し、光栄の極みでございます」
ティナと名づけられた白魔は、何故か恍惚の表情を浮かべながら感謝の言葉を口に出す。
「そして饕餮。君にはイリスという名前を送るよ」
「イリス……! アタシの名前はイリスっすね」
イリスと名づけられた饕餮は、主人から名前を貰ったという喜びを隠しきれない顔でしっかりと自身の幸福を噛み締めていた。
「……そうか。君たちみたいな存在が召喚されるということはそろそろ近づいているのか」
「はい、マスター。私たちの世界でも今は皆が危機感を持っております」
「そろそろ、面倒くさがり屋というのも卒業したらどうっすか?」
「ん? あー、そんなことまでわかっちゃうんだ? 仕方ないよね、まぁ少しの間だけでも休憩出来たって考えればさ」
皆を置いてけぼりにして3人だけで会話が進んでいく。
するとようやく授業終了を報せるチャイムが鳴る。
「丁度終わったみたいだ。2人とも、知ってること全部教えてもらうよ?」
「はい、仰せのままに」
「まかせてほしいっす!」
そう言ってティナとイリスを伴ったルトは、早々に召喚の間を後にするのであった。
物理的にも皆を置いてけぼりにして。