4 どうやら私は魔法が使え無いらしい・・・。前編
「・・・朝か。」
私は大人しく家に帰った。
70時間というタイムリットの中、すぐにでも修行がしたかったが、「一度休んだ方がいい」とヴランが提案しそのまま魔女が唱えた転移魔法というやつで家の前まで送ってもらった。
その後、電話でレナの親父さんに「レナが友達の家に泊まる」と嘘の連絡をし、そのままベットに倒れこんだ。
いろいろあったせいか昨晩はよく眠れた・・・こんなにぐっすり眠れたのは何ヶ月ぶりだろうか。
時刻は午前6時___タイムリットは59時間
ヴランは8時に向かいにくるらしい。
さっさと起床し、洗面所で顔を洗って台所に着く。
幼い頃に両親を亡くして現在は兄と二人暮らし、こうして毎朝朝食を作るのは昔から私の役割で
もう慣れた習慣だった。
簡単に目玉焼きと焼きベーコンを作り、二階にある兄の部屋に行く。
何故兄の部屋に行くのかというと、そこにいるあいつは一人で起きられいほど朝に弱いのだ。
いちいち妹が起こさないと起きれない高校生は如何なものか?
「起きろクソ兄貴。」
兄の布団を無理やり引っぺがし、いつも通り腰のあたりに蹴りを入れる。
「がぁぁぁあああああ!!!!?」
あれ?何時もだったら、そんな大声出すほどの威力は出さないハズ。
あ・・・しまった。
私、魔族になったんだっけ・・・ヴランが言うに魔力が無くても
魔族はちょっとした力でも人間の何倍かの筋力があると言っていたっけ。
「が・・・はぁ、つ、強すぎるぞ、い、妹よ。」
「ま・・・まぁまぁ起きれたからいいじゃね?飯できてるぞ、はよ来い。」
「っぐ・・・なぁ妹よ、兄をもう少し労ってくれないか?」
涙目になっている兄・・・なんかスマン。
「っておおおおいい!!涼子!!なんだその髪色は!?」
「あ?あー。」
そういえばそうだった。
ヴランから貰った魔力封印の指輪の力で腕と耳は元には戻ったが髪色は何故か戻らなかった。
染めようにもカラーリング剤なんて家には無かったから、そのままにしていた。
・・・さて、なんて言い訳をするか。
「イメチェン?」
「それがイメチェンなら大成功だよ!!銀髪って・・・銀髪って!!」
兄が号泣する。
うわ・・・たかが髪色でそんなに泣くか?普通。
「るせーな、どんな色にしたって私の勝手だろ?」
「そう・・・だが、銀は派手すぎるぞ!黒に戻せ今すぐに!!」
「いや、めんどくさい。」
「お兄ちゃんはな・・・黒髮の純潔派が好きなんだ、そう黒髪の!
そしてメガネで委員長で、そっと俺にこう囁くんだ。放課後、私と残りなさい・・・って、そして始まる放課後のいけない時間。ああ!」
「きもい。」
きもい。
「あふん、その冷たい目線・・・家族から向けられるのはちょっとキツイな。」
「キモ兄貴は飯抜きな。」
こんな気色の悪い奴に食わせる飯はない。
「あぁ、そんな殺生な!ごめんなさい!謝るから!!」
兄が私の足にすがる。
キモ・・・。
邪魔くさいからとりあえず兄に朝食を食べる権利を与え、食卓に着き食事をとる。
ある程度食べ進んだた後、私はある疑問が思い浮かぶ。
___それは両親のことだ。
「な、なぁ兄貴」
「なんだー?黒髪にする気になったかー。」
スルーする。
「私たちの親って・・・その、人間だよな?」
「・・・・・・レナに影響されたか?」
んな!?
た、確かに少し厨二くさい質問だったが・・・。
「ちげーよ!ただの事実確認だ!!」
昨夜、自分に人狼族の血が流れているとを知り、両親のことが気になった。
ヴランは何故か濁し、ちゃんと質問に答えようとしなかったため、
唯一の肉親である兄が何か知っているのではないかと考えた。
兄はスポーツは好きだが運動はできる方では無いので、果たして私と同じ人狼族の血が
流れているのか疑問を持つ。
両親と一番長く居たのは兄だ、私よりも家族との思い出が鮮明に残っているハズ・・・何か知っていないか?
「俺たちは人間だろ?だったら親も人間だ、当たり前だろ。」
「そ・・・そうか。」
兄は嘘を嫌う・・・どうやら兄は何も知らないらしい。
「どうした?親父とお袋のことが気になるのか?」
「まぁ、そうだな。私二人のことはあまり覚えてないし。」
唯一覚えているのは両親の顔だけ。
どんなことを話し、なにをしてくれたかは靄がかかってはっきり覚えていない。
そんなことを考えながら食事を終え皿洗いをしているとチャイムが鳴る。
今の時刻は8時前・・・もしかして。
「ん?誰だこんな時間に。」
テレビを見ながら学校へ行く身支度をしていた兄が玄関に向かう。
数秒後兄が当然大声を出しながら私の元に来る。
「りょりょりょ涼子!!来い!!」
バタバタとうるさい足音を立てながら私の腕を掴み、そのまま玄関まで引っ張られる。
「なにすんだ!」
「こここここここいつは!お前の!なんなんだ!!」
玄関にいる人物を指差す兄。
やっぱりか。
「はぁいリョーコ。」
ヴランがいた。
昨日の怪人の様な姿とは打って変わって、赤いワイシャツに高級そうなグレーのスーツに身を包みんでいた。
人間に化けているのであろうかリザードマンの特徴は一切無く、頬にあった鱗は綺麗さっぱり無くなり
爬虫類のような瞳もただの碧眼になっていた。
・・・・・・というか全体的の見た目がもう完全に都会のホストのようだった。
突然そんな奴が家に来たら誰でもびっくりするだろう。
「あー、その、あれだ。」
さて、なんて説明しよう。
レナの僕です・・・とは言えなく。
リザードマンです・・・とも言えない。
どうしたもんか。
「まさか!リョーコの援交相手か!?」
「っば!!」
このアホは何を考えている!?
援交なんてするわけねーだろーが!!
「そんな、リョーコが援交していたなんて・・・お前が涼子を傷物にしたのかー!!!』
「っちょ!?馬鹿兄貴!?」
馬鹿は何を思ったのかヴランに殴りかかる。
ヴランはそれをゆらりと躱し、背後に周り馬鹿に抱きついて見せた。
「のわ!?」
そしてなんやら淫ら手つきで兄の体を触り始める。
いや、ヴランもヴランでなにをしてんだ。
「貴方が『戌飼秋夜』君ね・・・以外にいい体しているじゃない?
結構引き締まってて、変わった香りもするし・・・不思議ね。」
兄の耳元で舌鼓をする。
「んお!?」
馬鹿は変な声を出しながら、ヴランの腕を振りほどき一気に距離を置いたた。
「運動部かしら?それに顔も結構好みのタイプ・・・。どう?今度一緒に食事でもしない?」
「ええええええ遠慮します!!なんだこいつは!お前の彼氏の好みはどうなっているんだ!?」
「彼氏じゃねーよ!!」
っくっそ、ヴランとのの関係が特殊すぎて説明できねぇ。
このままだとこの馬鹿が暴走して何を考えだすかわからない。
「私と、そいつは、その、なんだ。」
なにか・・・なにか良い言い訳はないか!
「リョーコとは秘密の関係なのお兄さん。」
・・・・・・そうだけど、そうじゃねーよ!!!
「お、お義兄さんだと!?認めんぞ!!こんな年上オネエに兄貴呼ばわりされてたまるか!」
あぁ、どんどん馬鹿兄貴の勘違いが加速していく。
「いい加減、だまれクソ兄貴!!。」
こうなったら物理でなんとかする。
「がぁぁぁああああああああああ!!」
弁慶の泣き所目掛けて、威力が上がった蹴りを入れ馬鹿をダウンさせる、
その隙に部屋に戻り、ジャージに着替え、準備した荷物を抱え家を出ようとする。
「ど、どこに行くんだ?」
「こいつと出かけるんだよ。」
「彼氏じゃねーか!」
「だからちっげえーよ!!!」
「学校はどうすんだ!?」
そういえば今日普通に平日だった。
「しばらく休む。」
「はぁ!?」
馬鹿にかまっている暇は無いし、とりあえず玄関で待たせているヴランの元へ行く。
「荷物、着替えだけでいいか?」
「食料もあったほうがいいわ。」
「そうか、コンビニに寄らせてくれ。」
「こんびに?」
あ、こいつコンビニのこと知らないな?
「き・・・着替えだとコンビニ・・・っは!!ま、まさか!!
しちゃうのか・・・おとなのかいだんをのぼるのか、おれよりさきに・・・・あああああ!!!。」
馬鹿が顔を抑えながら悲鳴をあげる。
何故、そう考えるのかなこの馬鹿。
「馬鹿はほっといてさっさと行くぞ。」
私は急いで靴を履き、玄関を出る。
「電話してお兄さん。」
「するかお前なんかに!!」
「ヴラン!!」
ヴランの腕を強く引っ張り無理やり外に出す。
これ以上ややこしくさせてたまるか!!
「はぁ・・・なにやってるんだお前。」
「大きなため息ね。」
「誰の所為だと思っている・・・まぁ何パーセントは自分の所為でもあるか・・・。」
ちゃんと言い訳を考えなかった私も悪い・・・。
「触ってみて分かったわ・・・
お兄さんは、人狼族の力は目覚めてなさそうね・・・。」
え、兄に触ったのは調べるためだったか。
「人狼の血は流れているのか?」
「一応ね・・・でも、かなり薄い。」
そう言うとヴランは家の扉を見つめた。
「本当・・・不思議で・・・不気味ね」
「不気味って・・・少し失礼じゃ無いか?」
まぁ否定はし無いけど。
とりあえずとぼとぼ歩いていると一台の赤いクルーザーバイクが家の前に止まっていた。
座席には二人分のヘルメットがある。
「って、バイクで来たのかよ。」
「転移魔法は聖者たちに感知されちゃうから、そう何回もは使えないの。」
ヴランはバイクにまたがり、ヘルメットを私に向けて投げる。
「ほら、乗りなさい。」
「魔族でも免許取れるんだな。」
「めんきょ?なにかしらめんきょって?」
「お前無免許運転かよ!!」
じ、事故らないよな?大丈夫よな?
「大丈夫よ!昔ねワイバーンに乗ってたことあるから。」
「バイクとワイバーンを一緒にすんなよ!!」
とりえず交通ルールーを守ってくれていたので事故は起こらなかった。コンビニにも寄ってくれた。
バイクで山道に入り、一時間ほど走ると昨日の屋敷が見えてきた。
以外に遠くにあったことに驚く。
そしてそのまま屋敷の横にあった細い道を通り抜け、開けだ場所にバイクは泊まる。
「さぁ、ついたわ。」
「修行って、なにをすんだ?」
バイクを降り、ヘルメットを外しながらヴランに質問をする。
「そうね、まずは魔力について軽く勉強する必要があるわ・・・。」
後輪のサイドにあるツーリングバックから二つ何かを取り出した。
一つは黒いノート、もう一つは印刷物を冊子にしたものだ。
「なんだこれ?」
私に渡されたのは黒いノートだった。
「教科書よ。」
教科書?ノートを開くと見慣れた筆跡があった。
「・・・ってこれレナの厨二ノートじゃねーか!!」
数あるレナの設定集の一つ・・・なんでヴランが持ってるんだ!!
「流石レナージュ様・・・昔学習したことを今でもきっちり覚えていたとは、嬉しい限りね。」
「記憶封印はどうしたんだよ!?」
ザルすぎるだろ記憶封印!!
「まあまあ、このノート魔族語や魔呪文語をこちらの世界の言葉に翻訳しているから
教材としては優秀なの。」
そうなのか・・・でもレナの厨二ノートを使って勉強するとは・・・むずむずする。
「教科書の5ページを開いてちょうだい。」
「教科書じゃなくてノートだけどな。」
軽く突っ込みを入れ、言われた通りのページを開く。
「まず一つ質問するわ。『魔力』ってなんだと思う?」
「魔法を使うためのエネルギーみたいなもんだろ?」
私の中のイメージで答える。
「確かに魔法を使うにも魔力はいるわ・・・でも役割はそれだけではないの。」
ヴランは近くに落ちてた野球ボールくらいの石を持ち上げ私に向かって投げつける。
「!?」
石は右腕に当たり、普通だったら痣ができるほどの強さだったが、不思議と痛くはなかった。
「痛・・・くはない。なんでだ?」
「2行目を読んで。」
「なになに・・・『魔力を消費することによってある程度のダメージを無力化することができる』?」
「そう、魔族はダメージを魔力で緩和する肉体的性質を持っているの。。」
「マジかよ、魔力って便利だな。」
ゲーム的に言うとHP=MPってことか。
「でも、気をつけなさい・・・急所を突かれると耐えても魔力を一気に消費することになるし、
聖法力を使った攻撃は緩和できないの。」
「聖法力って?」
「聖者が使う魔力みたいなものよ。」
私は昨日の厨二男のことを思い浮かべる。
「聖法力は魔族の弱点である『光』の属性を生み出す性質を持っていてね。
聖術や聖呪文といった『光の攻撃』はダイレクトにダメージを負うの・・・あなたも経験済みでしょ?」
そうだ、光の鎖と光弾を食らった時のあの激痛は鮮明に覚えている。
内側から焼かれるような感覚・・・二度と味わいたくない。
「彼らと戦う時はこの性質を過信しない方がいいわ。
次は『スキル』についてね・・・次のページ一行目を読んで。」
「『『スキル』とは二種類あり、自分の魔力を攻撃に転換する『攻撃スキル』と
肉体を強化したり、相手の攻撃を無力化したりする『能力スキル』が存在する。
魔法は種族で得意不得意が大幅に分かれているため。魔法を扱うのが苦手な魔族はこの二つの『スキル』を駆使して戦う。』」
「ちなみに、人狼族は魔法がほとんど使えないわ、だから魔法を教えるのは今回は無しよ。」
マジかよ!?
魔法を習うつもりで来たのだが、使えないのかよ!!
「え、まじ?じゃあこの玉は?」
私は昨日厨二男に喰らわせた(結局効かなかったが)『光弾』を作ってヴランに見せる。
「魔弾ね。
超初級の攻撃スキルで魔法ではないわ。
魔法は魔力の扱いの他、術式とか魔法陣とか色々と習得しなければならない事が多いし『魔力出力』の得意不得意は肉体構造が関係してくるから、苦手な種族がいるのはそのせいよ。」
「つまり人狼の肉体は魔法を扱うに向いていないと?」
「そのとうり。」
マジか…
魔法の習得は諦めるか・・・。
そういえば、あの厨二男・・・ヴランと戦っていたとき『スキル』という単語を口にしていたな。
たしか『見切り』だったか。
「そういえば、厨二男の攻撃を避けてたのもスキルか?」
「鋭いわね!その通『能力スキル』よ。
あれはその中の・・・あった!21ページ4項目目、みきりスキル、かしら?多分これよ。」
「多分てって」
「まだ、この世界の言語に慣れてないのよ。」
そうなのか?その割にはペラペラ喋っているけど・・・
まぁいいか、とりあえず4項目目を読み上げる。
「なになに『見切り』・・・敵の攻撃を読むことができる。
LVによって読みの精度が高まる・・・LVって?」
「魔法やスキルは五段階のLV・・・魔族語は『ルヴェロ』って言うけど
それに強さが割り振られていてね、同じスキルでもLVが高ければ高いほど強力で高性能なものが発動できるの。
魔法になるけど、たとえば・・・。」
ブランは空気を軽く吸い込む。
「『フー・カバカラサ・ブールアイ《LV1》』!!
口から青い炎が出るが、それほど火力は出なかった。
なんかヨガファイヤーみたいだな・・・。
「これがLV1の魔法で・・・。」
今度は空気を深く吸い込み後ろを向く。
「『フー・カバカラサ・ブールキャロ』!!」
先ほどとは比べ物にはならないほど高火力の炎が吹かれ、辺り一面青い炎が包む。
といかこのままだと山火事になりそうな勢いだったため、心配で若干顔が引きつる。
「お、おお・・・。」
「これがLV4よ。」
ヴランがドヤ顔で私に言う。
炎は・・・大丈夫だ消えてる。
LV4でこの威力だからLV5だと、トンデモないことになりそうだな。
「LV5は出ないのか?」
「LV5となると、魔力消費量も多いし、そう安易には出せないわ。」
まぁそうだろ。
バンバンと強力な魔法が連続で打てるはずないか。
「最後にこれは最も重要なことよ、ページを戻って13ページ一行目を読んで。」
「『『魔力源』とは
名前の通り魔力を生成したり、蓄積したりと、魔族にとって重大な機能を有している、いわば魔族の心臓に当たる機関。魔力源の性能の高さが、魔族の強さを大きく左右する。』」
「そう、魔力源を強化することはとっても重要なことなの。」
「強化ってどうやるんだ?」
「昨日ワタシが貴女に渡した光の玉を覚えているかしら?。」
私は頷く
厨二男の戦いを終えたヴランが私に投げたビー玉サイズの玉のことだろう。
「あれは『ウル』と呼ばれるモノよ、同ページ真ん中くらいのところを読んで。」
「『『ウル』とは
魔力源を強化させる性質を持ったエネルギー体。
ウルを会得することによって魔力源の出力、蓄積量、生成速度を高めることができる。』
・・・・つまりそのウルってやつをいっぱい手に入れれば強くなれる・・・と言うことか?」
「平たく言えばそうよ。」
「ウルってどうやって手に入れるんだ?
レナのノートには入手方法が書いていないな・・・。」
どのページを開いても『ウル』について書かれているのは私が読み上げた箇所しか存在しなかった。
ヴランは冊子を閉じ、握りしめるジェスチャーをする。
「殺すのよ。」
「ころ・・・す?」
近くにを飛んでいたバッタを躊躇もなしにヴランは思いっきり踏み潰した。
そして足をどけると、そこには無残に潰されたバッタと青い光の玉が一つ浮いていた。
「そう、『ウル』とは『命の塊』・・・
殺した生き物が魔力の波動を受けることによって散った命がエネルギー体として集結し、それが『ウル』となるの。どんな生き物でも魔力を含んだ攻撃で殺せば『ウル』を会得することはできるわ・・・
まぁこの世界の生物では生成される量は微々たるものだけど・・・聖者は違う。
聖者は生命力が高いからウルの生成量も多いわ。奴らを殺せば自然と強くなるわ。」
「殺す・・・。」
聖者・・・つまり人間を殺さなければ強くなれない・・・と言うこと。
そうだ、そうだった。
レナを守るため強くなることにずっと視点を置たため気づかなかった。
私は人を殺さなければならなかったのだ・・・その事実に私は動揺する。
私は今まで普通に生きていきた・・・人間として。
人狼族の血が流れていようと、自分が人間であることを認知している。人道を通っている。
「わ、私には無理だ・・・人を殺すのは。」
だから私は人を人間を殺せ無い。
「そいつがレナージュ様を殺そうとしている奴でも?」
「そ、それは・・・。」
聖者はレナを狙っている。殺そうとしている。
それは分かっている!
彼女を守るために彼らを殺すことは必至だ。仕方がないことだ。
「・・・・・・。」
でも私の中のモラルがその行為を否定している。
「ごめんなさい、意地悪な質問をしたわね。」
ヴランが私の肩に手を置く。
「そうね、聖者も人間も・・・殺したくないわよね?
でも、これだけは覚えといて・・・彼らはレナージュ様を殺そうとしている・・・それだけは忘れないで。」
「そんなことは分かっている!!・・・でも、私は・・・私は!」
迷う。
レナが聖者に襲われている場面に居合わせた時、果たし私は聖者を_人間を殺せるのだろうか。
「安心しなさい・・・。ウルを会得しなくても魔力源は鍛えられるの。
次のページ一行目『魔力源は魔力を使うことでも鍛えることができ、さらに自分の感情に感化されやすく場合によっては通常以上の性能を発揮することがある・・・。』つまり、魔力を使い続ければ自然と強くなる
ということよ。」
「そうか・・・。」
「でも・・・相手は殺戮者、慈悲は無用。よく考えることね。」
人を殺す覚悟をしろ。
そう遠回しにヴランは言っているのであろう・・・。
「さて、座学は終わり、実技と行きましょうか。」
ヴランは私の肩から手を離し、両手を叩く。
「何をするんだ?」
「『スキル』の習得と『魔力源』の強化よ・・・並行してやるわ。」
その二つが重要なのはわかったが具体的にどうするのだろうか。
「スキルの習得方法にはいろいろあるけど、今回は伝授という方法をとるわ。」
「伝授?」
「言葉の通りよ。
ワタシが習得してるスキルを貴女に教える。これが一番早いわ。」
そう言うとヴランは再びバイクのツーリングバックから一冊の厚い本を取り出した。
表紙には何やら謎の言語が書かれており、タイトルは読めなかった。
適当に本を開き一枚白紙のページを破り取るとそれ私の額にかざす。
「『ソエ・セイ』」
「な、なんだ?」
ヴランが何か唱えると白紙だったページに文字が浮かび上がる。そしてそれを私に見せる。
「これが今の貴女の実力よ。」
「・・・・・・いや読めんよ。」
何か書かれているのはわかるが、知らない言語。
あいにく魔界語は習って無い。
「『魔族語』だしね。ちょっとまってて。」
そう言うとヴランは別の白紙を取りだし、胸ポケットに入れていた万年筆でページを見ながら白紙に
何かを書く。そしてそれを私に渡す。
「・・・なんだこれ?。」
ギリギリ読める日本語で書かれた紙にはRPGゲームでよくありそうなステータスが書かれていた。
リョーコ・イヌカイ 適正属性:風・?
MP:B ST:B
スキル『』『』『』魔法『魔弾LV1(無)』
しかし書かれているものが少なく、一体何を伝えたいのかわからなかった。
「下に三つくらい空白があるでしょ?そこに自分が取得している『スキル』が書かれるの
三つ空白があると言うことは、現段階で三つスキルが習得できるということよ。」
「あぁ、なるほどそう言うことか。」
本当ゲームみたいだな。
しかし、適正属性ってなんだ?
「適正属性って?私は風属性ってことか?」
「スキルにも属性があってね、『風』に属するスキルが得意ってこと。」
「つまり私は風の攻撃ができるってことか!!」
まじかよRPGぽくなってきた!!
風を飛ばして敵を切る『エアカッター』とか『鎌鼬』とか!かっこいい攻撃ができるのだろうな!
「残念だけど『風』に属するスキルの殆どがは『能力スキル』よ、あなたが今思い浮かべてる事はできないわ。」
「え!?どいうこと!?」
「LV3以上のスキルは『炎』『水』『氷』『風』『雷』『土』6つの属性を持っていてね
攻撃の『炎』『氷』『雷』と能力の『水』『風』『土』と割り振られているわ・・・
つまり『風』とは・・・『速さ』を指す言葉なの。」
「えっと・・・つまり風を自由自在に操れないってこと?」
「ええ、一個人では不可能よ。・・・まぁ風を操る武器はあったけど
攻撃用では無かったわね。」
「まじかよ。」
「でもね風は操れないけど
風になることができるわ。」
「つまり『風』に属するスキルは『素早さ』を上げる能力を持っているってことか・・・。」
「その通り!」
風属性といえば風を操るイメージがあったから、違いに驚く。
「まぁ、今から教えるLV1のスキルはは基本全部『無』の属性だから
この内容は強くなってから詳しくやりましょう。」
つまり風なるのはお預けってことか。
「さて、今から能力スキル『見切り』『俊足』と攻撃スキル『残撃』を習得しましょうか。
この三つがあれば、雑魚聖者程度にやられることはないわ。」
よくわからないスキルだが、ヴランが選んだとうことはと重要なスキルなのだろう。
私はレナのノートを近くにあったベンチに置いて、ヴランと向き合う。
「わかった。頼む。」
「じゃあ、始めるわ。」
ヴランは左手の中指に嵌めている指輪を右手のひらに当て、錠前を解除するように捻る。
すると彼の全身に赤い結晶が纏われ昨日と同じ怪人のような姿に変わる・・・。
そしてそのまま、私めがけて飛び蹴りを繰り出した。
「っちょ!?」
間一髪に避ける・・・が何かが砕ける音が辺りに轟く。
そっと後ろを向きヴランの足元を見ると地面が割れ、右足が地面に埋まっている状態だった。
おま!?とんでもない威力で蹴ってきたぞあいつ!!!
「え、戦うのか!?」
「言ったじゃない。
魔力源を鍛えるには魔力を使うしかない・・・それに、戦いの中でスキルは習得するものよ?」
右足を引っこ抜きながら私の方を向く。
「ええ!?なんかこう、魔法で習得するとかじゃないの?」
よくゲームとかである、技のマシン的なもので簡単に覚える、あれを想像していたが
どうやら違うらしい。
「そんな楽な方法あるわけないじゃない!あったらワタシの人生苦労しないわ!!!」
すごい力説された・・・過去に何かあったのか?
「・・・な、なんかスマン。」
とりあえず謝る
「行くわよ!!」
ヴランは再び駆け出す。
私は急いで、ヴランと同じように左手中指に嵌めた魔力封印の指輪を右手の手のひらに当て、捻る。
そうすることによって、魔力が解放され私の姿は昨日と同じ人狼族の姿へと変わる。
五感が研ぎ澄まされ、相手の攻撃がどこから来るのかわかる・・・。
右拳を突き出し私に殴りかかるヴラン。
右ステップで避けることに成功するが、回避先を読まれたのか今度は回し蹴りが飛んでくる。
「『レゾラス』!!」
謎の武器が出た呪文を口に出すと昨日と同じ骨のような刀が現れ、咄嗟にそれを盾代わりにし蹴りを
受け止める。
「っく!!!」
しかし相手の蹴りの威力が高く、私は刀ごと吹き飛ばされそのまま地面に滑り落ちる。
クソ!手加減なんてしてないなあいつ!!
「人狼族の五感の鋭さを利用したのね、それが基本となり・・・ん?レゾラス?
貴女レゾラスって言ったのかしら?」
ヴランは何故か動きを止める。
「あ、ああ。」
「その刀。」
「あ?」
どうやら私が出した刀が気になったようだ。
「ちょっと見せてもらっていいかしら?」
私は刀を渡す。
「これは・・・。」
ヴランが人差指に小さな魔法陣を展開し、刀身をそっとなぞり始める。
「そういえばこの刀ってなんだ?」
「教科書18ページ下から3行目。」
また教科書かよ。
私はベンチに置いたレナのノートを取りに行き、再びページを開きその項目を読みあげた。
「『ある程度、強力になった魔力源は魔力を帯びたあらゆる武器を収納することが可能になる。』」
「そう、収納量には個人差があるけど・・・貴女のようなヒヨッコにはまずできない技よ。まさか・・・。」
ヒヨッコで悪かったな。
「これに魔力を流してみてちょうだい。」
私は刀を受け取り言われた通りに内側から湧き出る力・・・『魔力』を刀に流す。
すると刀身全体から甲高い金属音が響き始め、そのまま銀色に輝き出す。
「お・・・・おぉ・・・光った。」
「光ったわね。」
ヴランはその輝きを観察するとあることに気づいたようだ。
「・・・不思議ね。」
どういう意味だ?
「これはおそらく魔剣の類だと思うけど・・・なにか特殊な能力が有る訳でも無いのよね。」
「え、じゃあこの光は何?」
「ただ切れ味を上げているだけよ、特別なことじゃない。」
ええええ、なんかめっちゃ強うそうな感じがしていたが・・・見掛け倒しだったのか。
「ほ、他には?」
「頑丈。」
「・・・それだけ?」
「それだけよ。」
少し、いや、かなりガッカリする・・・。
「魔王武器だと思っていたけど違ったようね。」
なんやら、厨二くさい単語が出たぞ!?
私は再びノートを開く。
「これに関しては載っていないと思うわ。」
「そうなのか?」
「魔王武器とは、十二幹部のみに与えられる歴代魔王の力を宿した12個の武器のことよ。
一つ一つ、強力な『スキル』を持っていて、いわば魔族界の切り札的存在だったの。
でも、そのほとんどが聖者に奪われたか戦時中に消失、破壊されたかどっちかなの。
あなたの持っているそれが消失した魔王武器だと考えたけど・・・特に能力の無い普通の魔剣だったわね。」
魔王武器だったら良かったのにとため息を漏らすヴラン。
「なんだかスマンな。」
「まぁいいわ、魔王武器の説明もしたし、魔王武器を使って修行しましょうか。」
「は!!?」
「『レゾナス・エンデラズ・ルド』!!」
両腕に展開されたのは爪付きのガントレット・・・昨日のヴランが使っていた特殊な能力を持ったアレだ。
「いい方法を思いついたのよ。この方法を使えばすぐに強くなれるわ。まぁ・・・・
死ぬ思いをするけど。」
ガントレットの爪が伸び、ヴランが構える。
殺る気満々だこいつ・・・。
「そいつが、魔王武器か。」
「そう、魔王武器・・・『八代断罪の爪「バルバロン」』よ。」
瞬間、ヴランは予告もなしに一気に私に接近し爪で攻撃をする。
一度は刀で受けたが、その後背後に回り込まれ・・・
両足を切り落とされた。
「っがぁぁぁああああああ!!!」
激痛が襲う。
両足は吹っ飛び、断面から血が噴き出し、私は痛みで地面に倒れる。
「がぁ・・・足がぁ・・・・・・ってあれ?」
痛みが一瞬で引いた。足を切られたはずなのに・・・。
しかし足を見ると両足は何事もなかったように存在し、血も出ていない。
「一体・・・何をした?」
確かに足を切られた感覚がしたぞ。
「それは、脳が見せた幻よ・・・ワタシはただこの爪で足の痛覚神経を刺激だけ。」
「はは・・・・なんだそれ。」
これも魔王武器の能力なのか・・・。
「魔力源は感情に感化されやすいって書いてあったわよね?
つまり、痛みや、興奮を与えれば、自然と魔力源が活性化、強化されて、力が身につくということよ・・・
まぁかなり荒い方法だと自覚しているけど、今はこの方法しかなさそうね。」
「・・・マジかよ。」
つまり、何度も痛い目にあうということ。
それはさすがに・・・嫌だな。
「ごめんなさい。本当ならもっと丁寧にやりたかったけど・・・時間がないの。」
そうだな・・・時間が無い。
私はレナのを助けるために強くならなければなかった。それもなるべく早く。
「無理そうかしら?」
「・・・いいや、やってくれ。こんなところで泣き喚く時間は無いんだろ?
私は弱い・・・だから・・・こうでもしない限り絶対に強くはなれない!!」
私は力ずよく地面に立ち、刀を構える。
「いい目ねリョーコ・・・分かった、続けるわ。」
ヴランは爪を立てた。
_____タイムリミットは後56時間。