STEP1 Frozen Flare 9
それが今回の依頼の相手ということか。
愛美は、意味もなく胸を張って答えた。
「知ってるに決まってるじゃないですか。私はこれでも現役女子高生なんですよ。クラスにね、インディーズ時代からハまってる子がいて、新曲だなんだって騒いでますよ」
「私は、音楽には興味がないんだ」
紫苑はクラッシックオンリー。東大寺も、現役高校生らしく流行りの音楽には敏感だ。
決めたがる綾瀬のこと、格好つけてジャズでも聞くのかと思えば、そうでもないらしい。
「若い子に人気があるみたいですよ」
愛美は、自分もその若い子の範中に入ることは、無視した言い方をした。
本人も、あまり興味のないことなのだろう。
案外何事もなく三崎高校に通ったままで、普通の女子高生を続けていたとしたら、ハまっていた可能性はある。
ただ、一年かそこらの間に、色々なことがあり過ぎたのだ。
愛美にとっての世界は、確かに変質した。
もちろん変わらないものもある。
ただ、愛美は知ってしまったのだ。ただ、それだけのこと。
綾瀬は、安っぽいプレイヤーから伸びたイヤフォンを、耳に差し込んだ。
再生ボタンを押す。
愛美は窺うように綾瀬を見る。
ラジオや有線で流れているのを愛美も聞いたことぐらいはあるだろうが、曲とタイトルは一致していなかった。
メンバー全員の名前とプロフィールが言えるかと言えば、それだってあやふやなものだ。
まあ元々、流行りものには左右されない愛美だったから、クラスメイトが騒いでいたところで、鷹揚に構えていたことだろう。
学校に行っていれば、必要不必要に関わらず、嫌でも色々な話題が耳に入ってくるものだ。
綾瀬は、はっきりと分かるぐらい眉を顰める。
「おじさんには無理じゃないですか?」
愛美は、聞こえよがしに言ってしまってから、しまったと思った。
しかし綾瀬は、少し聞いただけで、頭が痛くなると言って停止ボタンを押してしまう。
「新曲だそうだ」
綾瀬は、愛美に聞いてみるかとは言わなかった。別に、愛美も大して興味がある訳ではない。
愛美は、ふうんと頷いただけだったが、綾瀬は何か難しい顔をしていた。
最近の若者は、とか、これが流行りの音楽なのか、とか思っているのだろうか。
Frozen Flareは、今年デビューしたてのバンドだ。
五人組の、男の子ばかりのグループだった。
確かボーカルの子は、愛美と同じ十七才らしい。と言うことは、まだ高校生なのだろう。
芸名はザキと言うのは知っているが、本名までは知らない。




