STEP1 Frozen Flare 63
銃など持っていない筈だ。
声だけ聞くと、いっていても二十過ぎといったところに思えた。
ナイフだけなら、愛美でも相手はできるだろう。しかし派手に立ち回りながら、ザキの身を守るなどという芸当は、愛美は長門ではないのだからできそうにもない。
さっさと背を向けてザキが逃げ出してくれればいいと思ったが、自尊心からかザキはそれ以上は動こうとしなかった。
「何だよ。お前ら。俺が誰か分かっててこんなことすんのかよ」
近付いてきた男の一人が、ザキのジャケットの胸倉を掴んだ。愛美がその手に自分の手を置いて、止めに入る。
「何するんですか」
その途端、
「邪魔すんな」
と言われて、その腕で突き飛ばされた。
愛美は弾かれて、アスファルトに叩き付けられる。
「痛ぅ」
眼鏡が外れて、壁にぶつかった。
腸が煮え繰り返るような怒りを覚えながらも、愛美はすぐには立ち上がれなかった。
「一人じゃ弱いから、数を頼むって訳」
ザキの強がったような、いつもの憎たらしい声が響く。
「調子に乗るのもいい加減にしとけよ。ザキ君」
ザキの呻き声が聞こえたかと思うと、静かになった。
腹を蹴り付けられて気を失ったザキが倒れる時に、壁に頭を打ち付けた音が鈍く響いた。
「顔だけにしとけ」
「顔さえ見れなくなりゃ、あとは落ちるだけさ」
男達は笑っていた。
笑いながら、気を失ったザキの髪の毛を持って、引きずり起こすようにしている。
何人かの男達の手の中には、ナイフの白い輝きが光っていた。
顔を傷物にするつもりか。
愛美は、男達に気付かれないよう静かにその場に身体を起こしていた。誰も愛美の動きには気付いていない。
「あなた達なぜそんなことをするの? 返答によっては、こっちにも考えがあるわよ」
愛美は右手の拳を握り締め、そしてまた開いた。
返答によっては、ただでは済ませない。
地面に擦った額がヒリヒリとした。濡れた感じがすることから、血が出ていることが分かる。
「関係ない奴は、黙ってろ」
怒鳴り声に重なるように、静かな低い声が響く。
「関係は大ありだ。ボディガードなんでな」
――長門さん!
男達の背後に、それこそ影のように現れた長門は、無駄のない動きで側にいた一人の男の手頚を打ってナイフをはたき落とした。
男は、呻いてその場に膝をつく。
途端に男達は浮き足立つが、長門は今度は別の男の足を払った。
反撃があるかと思えば、男達は潮が引くように逃げ出す。長門は呆気にとられて追うのを忘れたのか、何か思惑があったのか、追おうとはしなかった。




