STEP1 Frozen Flare 57
「嘘じゃねーよ。お前を殺すのだって、簡単なもんだぜ」
ザキの手が、愛美の喉にかけられた。
手の大きさは愛美と同じぐらいだが、やはり骨ばった感じのする男の子の手だ。愛美は振り払うでもなく、ただザキの手に自分の手を載せただけだった。
「嘘だ。人を殺したことのある人間の目じゃないもの。他人の血で手を汚したことのある人間は、そんな目はしてないわよ」
惨い死に様をしていた母と弟。父は、愛美の目の前で悲惨な死を遂げた。
愛美の腕の中で死んだ者、救えなかった命、そしてこの手で奪った命たち。
何も知らなかった頃のようには、愛美は笑えない。
人を憎み、人を殺し、自分を憎み。そして、それでも死にきれない自分という人間。
ザキは怒ったように、反対に愛美の手を振り払った。
「見てきたよーなこと言うなよ。それともお前の親とかが、人殺しな訳? ああ、あの長門がボディガードで、人殺しちゃったりしてるんだ」
嘲るような顔をしながらも、ザキは愛美の顔を見なかった。
ザキの言葉使いなどに、怒りは湧かない。愛美は、静かに自分の内面と向き合っていた。
長門の目。
暗い底なしの闇のようだ。
長門もまた、非日常という闇の中に生きている。いつか光は長門に、そして愛美の前にさしてくるのだろうか。
「長門さんは、プロの殺し屋よ。私は、沢山の人間の命を奪って、それでものうのうと生きている腐った人間よ」
愛美の言葉の調子があまりにも重い為に、ザキは気が付けばマジマジと愛美を見つめている。
刺々しさの失われた顔には、僅かな怯えのようなものが見られた。
〈馴れた手も 濡れた瞳も 飢えた心も 渇いた接吻も いつかは消えるから〉
憎しみも、痛みも、哀しみも、いつかは消えるだろうか。
愛美はニヤッと笑うと、ザキに顔を近付けるようにして片目を瞑って見せる。
「信じた?」
ザキは明らかに不機嫌そうな顔になると、
「馬っ鹿じゃねぇ」
と横を向いて、吐き捨てた。
愛美は、ちょっと肩を竦める。
(可愛くないの)
FM Tステーション PM4:23
(DJ)――明日のライブの意気込みや、ファンのみんなに、最後にメンバー全員から一言ずつ。ザキ君からどうぞ。
(ザキ)――初体験でイカせてやる。
(ヨータ)――フォローの必要なことばっかり言うなよ(笑)困ってるって。
(ザキ)――一言で言うとしたらそうなるんだよ。
(ウミハル)――足りない言葉を補うと、初めてのコンサートで、気持ちよくさせてあげようと。
(ザキ)――あんま変わんねー。




