STEP1 Frozen Flare 5
うまが合った者、合わなかった者。
その彼ら、彼女らも、今では私とはかけ離れた人生を歩んでいる。
解散してソロとなったものの売れずに消えた者、音楽はやめてタレントになって人気を博している者、レコード会社を移籍して本格的な音楽活動を行っている者。
私は、これまでの経過を追って話した。
男は私の話が終わるのを待って、
「あなたがマネージメントをされている、アーティストのボディガードですね」
一言で片付けた。
私は言いたかったことを一つも言えずに、黙り込んでしまう。
男は手慣れた作業の一つとでもいうように、私が何か言う前に言葉を覆い被せた。
いかにもやり手の実業家といった感じで、非の打ち所がない。
「契約期間が曖昧ですので、一応十日締めということで」
私は出されたコーヒーに口をつけて、おずおずと切り出しに掛かる。
ようやく口を開くことができたが、私が聞きたいのはこんなことではなかった。いや、聞く必要はあるのだが。
「支払いの方は?」
紹介者のことと軽い説明と自己紹介以外で、私が初めて発する言葉だ。
「口座番号をお知らせします」
さらりと言われて私は、開きかけた口をまた閉じた。
いや、そうではなく。
問題は、幾らぐらいとられるのかということだ。
普段のボディガードの相場なら、知れている。
しかし、このSGAは一風変わった〈何でも屋〉だという触れ込みだ。
この件で、一体どれだけかかるものか分からない。
会社側としては、痛いところである。
それにしても、SGAとは何の略だろう。私がすぐに思いつくのは、セイフティーガード会社ぐらいのものだ。
儲かる仕事ではあるのだろう。
男が身につけているスーツも目の玉の飛び出るような値段で、私などは一生かかっても袖を通す機会はなさそうに見えた。
袖口から覗くスイス時計は、二百万は下らないものだ。
気掛かりはあるにはあったが、そういうところだけは目についた。
仕事柄、若くして成功した人間には良くお目にかかるが、この男の場合はそれらの人間とはどこか違って見える。
男の持つ雰囲気が培われたのは、成金になる上での努力とは別物だったことだろう。人とは違う苦労を知っている人間のように、私には思えた。
どっちにしろ、金持ちは金持ち。派手な業界ではあるが、私のような下の人間には縁のないことだ。
男は、私の気持ちを見通したかのように、暫く間を開けておもむろにきり出す。
「二四時間態勢のガードで」と前置きして、日給を告げる。
「高いとみるか安いとみるか」
相場より、ほんの少し高い程度だ。




