STEP1 Frozen Flare 44
「おい、結構重いな」
長門は言いながら、ザキを地面に降ろした。
「当たり前だろう。女じゃねぇんだから」
ザキはそう言いながらも、声が上ずっていた。
何が起こったのか、分かってきたのかもしれない。
「急に突っ込んできた」
長門は、明日の天気でも話しているような口調で言った。
「怪我はないみたいね」
愛美は、素早く二人の身体をチェックする。
辺りには、逃げ込めるような路地もない。上に逃げたのではなければ、車に引っ掛けられていただろう。 大怪我どころではない、下手をすれば死んでいた。
長門の反射神経は、驚嘆に値する。
身を守ろうとする動きは、本能か脊髄反射かと言った素早さだ。頭ではなく、身体で動くのか。それこそ、骨の髄まで叩き込まれているのかも知れない。
愛美を追いかけてきた店員が、釣りと買物袋を差し出してくる。
「大丈夫ですか。事故?」
店員は、不安半分興奮半分といった面持ちをしている。
ザキと話がしてみたかったようだが、ザキは知らん顔で横を向いていた。
「大丈夫みたい。済みません」
釣りと買物袋を受けとって、無言の二人をフォローするように、愛美はペコリと頭を下げた。
店員は残念そうにしながらも、長い間持ち場を空ける訳にはいかない為に、店に戻っていった。
店員がいなくなったのを見届けて、ザキが横を向いていた顔を元に戻した。そして、
「今の車」
と言いながら、車が走り去った方向を睨みつけた。
「何ですか、知ってる人のに似てたんですか?」
勢い込んで尋ねた愛美だが、ザキの言葉に気勢を失った。
「シヴァの車に似てるなって思ってたら、これだもんな」
嘘を言っているようではなかった。
(まさかシヴァが?)
怒ったようにズンズンと歩き出すザキから、数歩離れて歩き出した長門を追いかけ、愛美は囁いた。
「ナンバー見た?」
答えは、NOだった。外してあったらしい。
通りすがりの無謀運転道交違反者か、人をはねようと意図的に用意してきたのかは分からない。
ザキは、デビュー直後からマンションで独り暮らしをしている。
他のメンバーは、シヴァは実家から大学に通っていて、ウミハルは通学の便の為に独り暮らしを始めているが、ヨータとライも実家で暮らしている。
大学生のウミハルは別として、ザキの親は心配じゃないのだろうか。
十七という微妙な年齢や、高校を中退していること、真っ当とされる勤め人でもないミュージシャンなどという仕事をやっていることも、不安の種となり得るだろう。
親として、心配するのは当然のことと思える。




