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STEP1 Frozen Flare 42

 普通の人は、そこまで気付かないのかも知れない。

 長門のような鈍感な人間だっているだろう。


 愛美は、SGAで仕事を熟す内に言葉の持つ力と言うものを意識するようになった為だろうか、ザキの歌に込められたマイナスイメージを敏感に感じとってしまったのだろう。


 外に向けて発散されている内はいい。しかしその力が、内に向かってしまったら。ザキは間違いなく駄目になってしまう。


「何か、嫌な予感がする」



 その後、打ち合わせ及びリハーサルは、順調に進んだらしい。

 愛美は、殆どスタジオ内に入ることはなく、仕出し弁当や飲み物の手配に奔走していた。


 ザキの歌を聞くと、またおかしな気分になるものと思っていたが、あの最新シングルである『皆殺しのJungle』という曲以外は、別に平気であった。

 やはり、あの歌詞と歌声が重なると駄目なのだろう。


 他の曲でも何らかの力を感じることから、ザキが歌に込める思いのようなものが、歌声によって増長するのではないかと思われた。


 普通の人にとっては、それが歌の持つ力、またはザキの歌唱力として映るのかもしれない。


 確かに、力のあるアーティストなのだろう。

 一つの才能と言ってもいい。


 しかし、思いが強ければ強いほど、聞く者にも何らかの影響が出てくるのではないか。

 それがプラスならば、一向に構わないのだ。


 愛美は、ザキの歌声を聞いた時の訳の分からない不安を思い出すと、胸が掻き乱されてしょうがなかった。



 その日の全ての仕事を終えて、ザキ達がスタジオを後にしたのは、午後十時を回ってからだった。

 里見が、ザキを車で家まで送り届けるのに、長門とともに愛美も乗り込んだ。


 愛美が料理ができないことは分かった筈だが、ザキは愛美もくるものと決めてかかっているようだった。

 長門は、ザキの家に泊まり込むことになっているが、愛美はどうしたものだろう。


 家に帰ったのを見届けて、それから帰ろうか。


 ザキの住んでいる事務所が用意したワンルームマンションは、利便の悪い所にあるようだ。家賃の都合か、はたまた遊ばせない為か。


 まあ、駅までタクシーを呼んで、あとは電車で帰ろう。


 家に帰ったら、一時頃になるかも知れなかった。

 ここからなら家まで帰るよりも、綾瀬のマンションの方が近い。そっちに転がり込もうか。

 

 どっちにしろ、明日は学校に行く暇はない。


 しかしザキのことだ、終電が出たあとで、愛美を追い出す気かも知れない。


(こいつならやりかねない)



 夜食が食べたいと言っているが、冷蔵庫はほぼ空だと言うので、愛美だけでも途中で見つけたコンビニで降ろしてもらうことにした。

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