STEP1 Frozen Flare 4
私も見ていたが、確かに突き落とされたとしか思えない不自然な落ち方をした。
一つ間違えば大怪我か、もしくは死亡していた可能性だってある。
ただ、何か拭いきれない部分があった。ただのボディガードで、果たして務まるのか。
そう思っていたところで、古馴染みのテレビのディレクターから聞いた話を思い出したのだ。
ちょっと変わった何でも屋があると。
この件を上に伝えた時、やはり紹介されたのは普段使う会社とは別なところだった。
SGA。
ディレクターから聞いたのも、確かそんな名前だった。ちょっと変わった何でも屋だと。
マンションの一室だが、扉を開けても玄関にはなっていなかった。
靴を脱がずにそのまま上がるアメリカンタイプらしいが、私は少し途惑う。
会社ならそれは普通だが、部屋の造りはどこかプライベートルームのようでもあって違和感があったのだ。
部屋は、応接室とも社長室ともとれる。
部屋にいたスーツ姿の男が、デスクに座ったままの姿勢で私を迎えた。
どうぞとソファに勧められる。
絨毯を敷き詰めた床も、落ち着いた調度品も、客に安堵感を与えるよりも、どこかしら相手を拒絶しているようで、私などは尻の座りが悪かった。
サングラスをかけた男は、私と殆ど変わらない、せいぜい三十そこそこに見えた。
秘書にしてはカジュアルな装いの女が、インスタントではないコーヒーを出す。
テーブルに置いていた私の名刺を、さりげなく男のついている磨き抜かれたマホガニーのデスクに載せた。名刺の受け取り方は仰々しいのもルーティンワーク化されているのも、雑すぎるのも嫌なものだが、彼女のは好感が持てた。
「里見克彦さん。プロダクションの方ですか?」
私は、秘書らしき娘が軽く頭を下げて部屋を出ていく様子を、目で追っていた。
秘書らしくはないが、なかなか教育だけは行き届いているらしい。
既に名乗ってはいたが、男の言葉に慌てて私は視線をデスクに向けて頷いた。
私は大学卒業後、何度か職を変えたのち、今のレコード会社に落ち着いた。
マネージャー業も、現在抱えているアーティストを含めれば、十組以上になる。
音楽性よりも、顔で売っているアイドル系ミュージシャンのマネージメントを任されているのだから、移り変わりが激しいのは仕方がない。
流行に乗って一時期騒がれ、一曲ビッグヒットを出してそれで終わってしまうバンドよりも、信念をもって音楽をやっているような、息の長いアーティストの成長を見守ってみたいものだと、最近とみに思うようになった。
もう年なのかも知れない。
今まで、仕事をしてきたミュージシャンとも色々あった。