表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
369/399

STEP4 最後の女神 100

 愛美はキミノの期待に応える為にも、真っ直に文香の顔を見つめた。

「母様、ありがとう」


 顔色一つ変えずに文香は、その言葉を聞いた。

 文香にどのような影響を与えるかは、どうでも良いのだ。


 愛美がその言葉を言うことが終止符であり、愛美の負けを認めることであった。


「どれだけ間違っていても、あなたにキミノさんは愛されていたんだからね。恨んだりしていないと言っていたわ。執着が生み出したものは、それと気付いた時に消えるもの。キミノさんも、闇へと還っていける」


 愛美は席から立ち上がりつつ、キミノの方を見る。

 キミノは、愛美に軽く頷いて見せた。


 愛美はキミノから視線を外し、代わりにずっと立ち尽くしていた執事の榊原を見る。榊原は、チェス盤から目を逸らさなかった。


「さっきの言葉で、一つとり消しておくことがあるわ」

 チラッと愛美は文香の顔を見ると、軽く肩を竦めた。


「あなたの死を悼む人は、一人いることは確かね。それが誰かは、自分で聞いて確かめればいい」


 藤椅子に座る文香は、やけに小さく見えた。グッと老け込んだようにも見える。


 愛美の言葉に、心を動かされた様子はなかった。


 もうやることは全て終えたと、愛美は実感していた。

 残されたのは、この場から立ち去ることだけだ。


「この解決、満足いったかどうかはともかく、これで終わったのは間違いないわ。それじゃ、もう二度と会わずに済むことを祈ってます」


 前半は自分に言い聞かせるように、後半は心からそう思って言った。

 できることなら、二度とお目にかかりたくはない。


 愛美はそのまま歩きかけて、最後に言い忘れた言葉を思い出した。


 相変わらず榊原は、木儡人形のようにチェス盤を見つめたままだ。


 愛美は榊原をジッと見つめ、少しだけ微笑んだ。

 心からの笑みというよりは、どこか悲しげな笑みになってしまったのは仕方がない。


「この屋敷にかけられていた呪いは、もう解けたから」


 愛美のその言葉に、榊原はビクッと顔を上げて愛美を見た。

 小さく、愛美は頷く。


 そして愛美は、もう二度と振り向かずに歩き出した。




「行ってしまったわ」

 部屋から愛美が消えたあと、文香はそうポツリと呟いた。


「お行きなさい。あなたの思うようにしてちょうだい。私とあなたに残された時間はたっぷりあるもの。また、二人だけになってしまったのだから」


 文香は力なく顔を上げて、榊原に僅かに微笑んで見せた。


 榊原は何か言おうと口を開きかけたが結局それはやめて、ただ深々と頭を下げただけだ。そして、足早に部屋を出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ