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STEP4 最後の女神 99

 自分のことは案外見えないものであるし、人から言われても簡単に納得もできないものだ。

 

 心から納得しない限り、執着があることを認めることはできない。認めない限り、執着を消すこともできなかった。


 文香は君乃に対して心の奥底で執着していたからこそキミノは生まれてしまったが、文香が自分の執着を認めない為に、キミノの姿を見ることもできないのだ。


 問題は、どう文香に執着を認めさせるかだった。


 それは、成功したと言えるだろう。


「君乃は、この屋敷にいるの?」

 文香は、疲労感を漂わせながらそう言った。


「ええ」

 愛美は、釘を刺す。


「二度も同じことを言うつもりはないわよ」


 愛美の言葉の全てには、裏があった。

 多分、文香にしか分からないであろう、事実に基づいた意味がこめられていた。


 文香は、その為に追い詰められたのだ。


 チェスの動きとの相乗効果で、結果、文香は敗北した。

 しかし、本当に文香は敗北したのだろうか。


 愛美の視界の端に、テディベアの姿が映っている。


 この前の夜に会った時、キミノは話が終わった途端、消えてしまった。


 ぬいぐるみだけが残されるかと思ったが、そうはならなかった。

 愛美は確かに、テディベアに触れた筈だ。


 それも執着が生み出した、実際は形のないものだったのだ。


 きっとあのテディベアと同じ物が、二階のあの部屋にたった今も置かれているのだろう。

 多分、ベンチチェストの上に。


 ただ愛美は、それをあとで確かめようとは思わなかった。


 確かめずとも、事実は事実だ。


「そう。私の所為なのね」

 文香は、深い溜め息を吐いた。


 やはり、頭のいい人だ。

 愛美の言葉は、文香にしっかり伝わっていたようである。


 頭で分かっていても、心はそうはいかなかった。

 だからこそ、執着というものが生まれるのだ。


 文香は、張り詰めたものをなくした様子で、

「君乃は何か言ってた?」

 と、聞いてきた。


 どんな恨み事を言われても受け止めようと思っているような、どこか諦めにも似た口振りだ。

 愛美にとってその言葉は、チェックメイトと同じような響きを持っていた。


 キミノの視線が痛いくらいだ。


 愛美は、自分の敗北を悟った。


「伝えて欲しいことがあるって。言っとくけど、私の言葉じゃないわよ。私は、死んでもあなたに、こんなことは言いたくないんだから」


 愛美はそう前置きして、決心を固めた。


 できれば言いたくなかった。

 言わずに済むならどれほどいいか。


 しかしこれこそが依頼を解決する鍵であり、愛美の敗北を決定的にするものであった。

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