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STEP4 最後の女神 95

「え、ええ。私が選んだ人生ですもの」

 文香は、ようやく勢いをとり戻した。


 ポーンの4を二つ進めて文香のビショップをとったものの、そのポーンをポーンの4でとられてしまった。


 もう歩兵如きには、愛美は構っていない。


 捨て駒にも、おびき寄せる為の餌にだって使う。


 今、重要なことは、敵将の首をとることだ。

 その為になら、手段は選んでいられない。


 愛美がすべきことは一つだ。

 綾瀬に指し示されなくても、答えなら決まっていた。


「何事も自分の思い通りにいかないと、許せない」


 がら空きになったキングを攻める為に、愛美はルークを奥まで進めた。


「別に、そのようなことは……」

 文香は言葉を詰まらせたあと、キャッスリングと言った。


 ルークとキングの間に駒がなくなり、一度もそのルークとキングを動かしていない場合のみ、キャッスリング(王の入城)と言って、ルークとキングを一時いちどきに動かすことができる。


 ルークは元クイーンの場所に、キングは元ビショップの場所に移動になった。


 今の戦況を実況するならば、ちょうどこんな具合になるだろう。


 白軍の騎馬兵一隊、王と女王の近衛騎士団と前線部隊が一隊、そして3、5、8の歩兵隊が、最初の位置から動いていない。


 もう一つの前線部隊は、相手の敵陣奥深くまで切り込んでいる。

 術師の部隊が二つ、敵陣の手前で並んでいた。


 相手方は歩兵隊が二つ動いていないだけで、部隊は殆ど壊滅しあと歩兵隊が二つ戦場に出ているだけである。


 王の近衛騎士隊を、前線部隊が何とか守っている状態だ。


 この状態からの反撃は、どこまで可能だろう。


 女神は今、白軍に微笑んでいるようだ。

 愛美は、それを逃さなかった。


「心から、あなたの死を悼む人間はいると思うか」

「………………」

 文香は、返答をしなかった。


 白い頬が、蒼白に近くなっている。

 膝の上に置いた左手が、固く握り締められていた。


 攻めるだけでは能がない。

 引き際を見定めるのも、指揮官の器だろう。


 愛美は、前線部隊を下がらせた。(ルークを4つ戻す)

 赤軍は、歩兵隊の六番を一つ進めた。


「自分の周囲にいる人間は、あなたが選んだからこそ、この場にいることができると思っている」

 文香は昂然と頭を上げると、傲慢に愛美を見下ろした。


「それが、どうか?」

 文香の口元に浮かぶあの笑みは、もう一破片ひとかけらも残されていなかった。


 文香の心が揺れれば揺れるほど、愛美は落ち着いていく。


 ビショップを二つ進めて、キャッスリングで移動したルークを潰した。文香はキングで、そのビショップを叩く。

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