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STEP4 最後の女神 83

 自分の思い通りの肩書きを、人に押しつけることを何とも思っていない。

 愛美や美奈、榊原に対する扱いがそれだ。


 きっと子供のことも、枠の中に押し込めてきたに違いない。


 蝶よ花よと洋服やオモチャも欲しがるまでもなく与え、お人形のように仕立て上げていたのだろう。


 病気だったと言っていたから、君乃は屋敷のあの部屋に閉じ込められていたも同じだったに違いない。


 カゴの中の鳥だ。

 空を夢見ることすらもかなわない。


 十八才。これからまだまだ色々なことがあっただろう。


 苦しみも悲しみも喜びも。


 広い世界を知らずに、あの部屋の中でお嬢様として傅かれて過ごした人生も、何も知らなかった分、幸せだったのかも知れない。


 文香も言っていたではないか。


 親子ほども年の離れた夫を愛せたのかという愛美の問いに、それ以外に知らないのだからと。


 しかし、君乃はどう思っていたのだろう。


 空があることすら知らなかったのか、空を夢見ることはあったのか。


 この屋敷以外の広い世界を覗き見る機会があれば、自分が屋敷に縛り付けられていることに気付いた筈だ。


 しかし、外の世界に羽ばたいていくことを文香が許す筈がない。


 その時、母を恨んだだろうか。


 母という言葉にだけ、キミノは反応した。

――カアサマヲ、タスケテアゲテ。


 先ほどと同じ言葉を、キミノは繰り返した。


 感情もない無機的な黒い瞳が、切々と訴えかけてくるようだ。


 愛美は、キミノの瞳を見つめ返す。

『何から?』


――アノヘヤト、ワタシカラ。

『あの部屋って、あなたの部屋のこと?』


 キミノは、コクンと頷いた。


 テディベアの愛らしい仕草も、愛美の寄せた眉根を解くことはできない。


『あなた、自分が何物か分かっているの?』


 幽霊だろうと、別の誰かの思いにしても、存在してはいけないものであることに変わりはない。


 このキミノも、一つの闇の形ではあった。


 闇は、呼ばなければ現れない。

 人の心が、闇を呼ぶのだ。


 しかし、闇を求めてしまう人の心を、善悪で判断するのはどうかとも思う。


 闇自体は、善悪を超越した在るだけの存在だけだからだ。


 人は弱い。

 それと同じぐらい強くもある。


 闇が生まれたのは闇の所為ではないが、それでも形となった闇は存在を許されなかった。


 闇を求めてしまう人の心と同じぐらい、闇もまた悲しいものではないか。


 しかし、闇は闇。

 存在してはいけないのだ。


 ただ、こうしてキミノを見ていると、宮里貫久のことが思い出された。


 求めるが故に、闇は形をとる。


――ココニイチャ、イケナイ。

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