STEP4 最後の女神 63
それだけの毎日が、当たり前の顔をして繰り返される。
1+1=2になるのと同じぐらい簡単なことだ。
仕事となるとそうはいかない。
1+1が2にならないこともしょっちゅうだ。
「とうとう俺らも三年か。愛美ちゃんも、最後はちょっとやばかったんやろ? 出席日数足りんくて」
その時のことを思い出すと、ズキズキと愛美のこめかみが痛み出す。
一時は、本当にどうなるかと思ったが。
「泣き落として、出席日数が足りない代わりに、進級試験受けさせてもらった」
泣き落としたと言うより、開き直って居直った感じの方が強い。
こっちは、人の何倍も働いて、学校に行っていない分を補う為に努力だってしていた。
これで留年なんてことになったら、愛美は学校を辞めていたかも知れない。
学校も辞めずに、何とか進級もできたが、そう先は長くないかも知れなかった。
始業式の日から含めて、既に三日、学校を休んでいる。
明日から全日授業が始まるが、今のところ、仕事がいつ終わるかという見通しは立っていなかった。
「ええなぁ、可愛い女の子は、そう言うとこお得やな。俺なんか、試験受けても無駄やから、進級だけしたらはええわみたいなこと言われたで」
そっちの方が楽だと思ったが、愛美は口には出さずにいた。
口には出さずとも、東大寺相手である。筒抜けである可能性はあった。
「でも良かった。二人とも無事、進級できて」
心から愛美は、そう言った。
東大寺も、ほんまやなと、しみじみとした相槌を愛美に寄越す。
中学浪人プラス一年留年している東大寺は、来年卒業できたとして、二十歳になっていた。
これで卒業が延びたりすれば、目も当てられない。
本人の感慨は、一潮だろう。
別に、卒業が決まった訳ではないのだが。
「巴は九月からアメリカか。そうやって、SGAとも疎遠になっていくんやろな」
東大寺も、巴の渡米の話を聞いていたのだ。
情報源は綾瀬だろうか。
SGAとも疎遠になっていくという東大寺の言葉に、愛美はむきになって反応した。
「そんなことない」
そんなことない。そんなことない筈だ。
巴は、休暇になったら日本に帰ってくると言っていた。
しかし、向こうの方がずっと居心地がよかったら。
そうしたら巴は、愛美や東大寺やSGAのことも忘れて、もう戻ってこない?
「愛美ちゃんは進学やろ?」
唐突に、東大寺がそう聞いてきた。
愛美は、曖昧な顔で頷く。
「あ、うん、一応。大学か短大かは決めてないんだけどね」
三年になったということは、受験生だ。
卒業後の進路も、漠然とではあるが、考え始めなければいけない。




