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STEP4 最後の女神 50

 愛美は老女を見下ろしながら、気の強そうな笑みを見せた。


「私、強いんです。踏まれても踏まれても、一所懸命に生きてる雑草だから」


 老女は、カップに口をつけて紅茶を飲んだあと、テーブルに戻した。


「私はさだめし、温室育ちと言うことかしら?」


 腕を組みながら、愛美を見上げる老女の唇には、相変わらず笑みが刻まれている。


 温室という言葉が、愛美に一つのイメージを呼び起こした。


 愛美の表情が、グンと大人びたものになる。


「小さいカゴの中で丁寧に守られて、いつか温室から出る日がくるなんて思ってもいなかった。散ることを拒んで、自らドライフラワーとなってしまった。私、そう言う人を知っているわ」


 愛美の視線は、老女をすり抜けてもっと別なものを見ていた。


 アンティーク趣味の校舎。華やかに笑いさざめく少女達の群れ。悪魔に魂を売った、美しく聡明で傲慢な少女。


 みだりに悪魔など喚び出した罰として、ある少女は、永遠の魂の責め苦を味わっていることだろう。


 この老女も、いつか罰が下されるのだろうか。


 この老女の苦しむ姿を、想像できるだけの想像力の持ち合わせは、愛美にはなかった。


 老女は、まだ微笑んでいる。

「花は散るものよ」


 愛美は、チラリと老女を睨みやった。

「そうよ。癪だけど、私もその意見に賛成ね。それでも、できるだけ長くってもらいたいとは思うわ。今は、いつ散るのかしら」


 愛美の目が、再び遠くを見る。


 老女は、

「一番美しい時に」

 と、言った。


 愛美は、軽く溜め息を吐くと、老女に視線を戻した。

「じゃ、あなたは時をたがえた姥桜ね」


「ホホホ、あなた若いに似合わず面白い言葉を知ってるのね」


 幾つになっても色気があるのはいいことなのか、何なのか。


「司馬遼太郎とか、池波正太郎なんか読むなんて、あんたは本当に女子高生かって、友人にはよく言われますね。日本史好きなんです」


 明日は、始業式だ。

 次の日には、実力テストが控えている。


 三日目が入学式で、四日目から通常の授業となる。


 今いっぱい杯ぐらいなら、学校を休んでも大丈夫だろう。それ以上となるといろいろと面倒だ。


「お話し相手としても、合格ですわね」

 老女はそう言って、再びカップを手にとった。


 おかけなさいとは言われなかったので、愛美はずっと立ったままでいる。


 愛美の中に、既にこの老女のイメージというものは出来つつあった。


 この老女を思う時、愛美の頭に浮かぶのは、このサンルームでお茶を飲んでいるか、本を読んでいるか、それとも刺繍でもしている姿だけだ。


 綾瀬と同じで、それ以外の時間、どのように生活をしているのか望むことができない。

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