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STEP4 最後の女神 35

 自分の娘の死すらこの女は、ただの通過点だと思っているのだろうか。

 それとも、月日が痛みを鈍磨させ、忘れさせてしまったのだろうか。


 過去の出来事とあっさり言えるだけの年月とは、どれほどのものだろう。


 この女は、本当に人間なのだろうか。

 

 人間の皮をかぶった獣――いや。獣には、獣の理がある。


 この女は何なのだろう?


 他人の人生を弄び、死に至らせ、それを楽しみにして生きている。


 人間とは斯様かようなものなのか。

 この女が特別なのではなく、人間とは所詮、醜いだけのものなのか。


「あなたなんでしょ」

 愛美の言葉は唐突過ぎて、老女には伝わらなかった。


 老女は首を傾げて、何かと問うように微笑んだ。

「私達の偽物なんかを、当て馬に持ってきたのは」


 老女は、ああと言うように愛美の言葉に笑った。


「他のみなさんは、暫く大人しくしているつもりみたいですわ。せっかくいいオモチャが手に入ったと言うのにね。まだまだなっていませんわ。私が、あのクラブに顔を出せるようになった頃など、まだ明治生まれの方が頑張っておりましたから、それはそれは豪気なものでしたよ。今の方は、戦中生まれと言いましても、あまり頑張りが利かないようですわね」


 老女はソーサーごとカップを持ち上げると、紅茶に口をつけた。


 亀の甲より年の功。


 年齢が出す深みや重みは、この老女の三分の一にも満たない時間しか生きていない愛美には出せないものだ。


 しかし、加齢だけが人間を作る訳ではない。


 時間は同じように人間の上を過ぎていくが、受け止めて、年輪として刻んでいくのは自分自身だ。


 年齢だけではないものを、愛美はSGAと出合って以来、積み上げてこられたと思っている。

 それでも古狐相手では、愛美の存在など空しいばかりだ。


「神様になったつもりでいい気になって、結局自分も死ぬのよ。そんな最低なことをやってきておいて、まっとうな死に方ができると思ってる訳? 悪いことをしてきた人間は、結局自分の影に怯えることになるのよ。自分が今まで殺してきた人間のように、悲惨な最期を遂げるのじゃないかって。そこで後悔したって遅いのよ。あなた方のような人間に、安らかな死が訪れるとは思わないで欲しいわね。所詮、自分の手も汚したことのないような人達に、人を殺す際の追い詰められた気持ちも、自分の手を汚してでも止めなければいけないという悲壮な思いも分からないでしょうが」


 悪人が子供や孫に囲まれて大往生を遂げ、善人が部屋で首を括って何ケ月も誰にも気付かれない。

 そんなことが世の中には幾らでもあった。

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