STEP1 Frozen Flare 30
わざと愛美を怒らせようとしているのか。
長門は味方の窮地にも、我関せずという顔をしていた。
この男もむかつくのだ。
わざとやっているのではないだろう。きっと長門は、何も考えてないのだ。長門の場合は、素のままの応対が、非常に愛美の癇に障るだけのことである。
わざとと、わざとではないことには大きな違いがあった。どっちにしろ、腹が立つことに変わりはないが。
そんなザキが、バンドで歌う曲の作詞を全面手掛けている。
〈信じたいんだ未来を まだ信じてもいいだろう(略)僕らの明日を〉
歌詞とあの性格が、どうも愛美の中で一致しない。全く、どの面さげてと言いたくなる。
リーダーであるシヴァが作曲担当。
Flozen Flareとしてメジャーデビューを果たしてから、出したシングルは二枚。
バンド名と同タイトルのデビューシングルと、『Believe』の二曲だ。カップリング曲と合わせて四曲が、世の中に出ていることになる。
オリコンチャートでも、かなり上位にランクインしていた筈だが、聞き込んでいる訳ではない。
選ぶほどの選択肢はなかった。多分ラジオや何かで聞いたかして、サビぐらいは覚えがあるかも知れない。
知っている『Believe』にしろ、以前カラオケで東大寺バージョンで聞いたのと、さっきBGMで流れていたのを、軽く聞いただけだった。
こうなりゃ、もうやけだ。とことん馬鹿になってやれ。
「ええっとぉ、ビリーブかなぁ」
できるだけ、フツーの女の子のように馬鹿そうに言った。
よし、この手でいこう。何を言われても、えーとか、分かんなーいとか言って済ましてしまおう。
仕事だ。仕事。
「ああゆう感じの曲が好きなんだ」
ヨータは何か考えるようにして、握ったままだった愛美の手も離してしまった。
何か悪いことを言っただろうか。
ヨータはドラム担当で、もう一人ベースのウミハルとともに編曲を手掛けているとあった。自分が編曲した曲ではなかったのだろうか。
帰りにシングル買って、家で聞こう。
顔を上げると、一人の少年と目があった。まだ学ランを着ている。
「ライ君、服、服」
峰に言われて、最年少のライは着替えを済ませていないことに気付いたらしい。
ヨータの弟で、まだ十六才だ。
無言のまま、ライは愛美にペコリと頭を下げた。
感じは悪くない。ライは、衣装へ着替えに足早に立ち去った。
黒髪で前髪も眉の上で切り揃えられており、真面目そうな学生といった感じである。兄のヨータとは、正反対のキャラクターのようだ。




