STEP1 Frozen Flare 3
都内。パークヒルマンション。pm 5:10
指定された時間の二十分前に、そのマンションについた。
思ったよりも仕事が早く片付いたのだ。
どこかで時間を潰そうかと思ったが、スマホで検索しても近くに喫茶店は見当たらなかったこともあって、私はそのまま裏道に入り、見過ごしそうになるジェラルミンのエレベーターのボタンを押した。
エレベーターは直通で、最上階にだけ上がれるようになっている。
着いた先でエレベーターの箱を降りると、ちょっとした広さのホールがあり、観葉植物の鉢が置かれていた。
開口部である扉は一つだけ。
インターフォンに向かって来意を告げた私に、男の声で返答があった。
時間が早いことを詫びた私に、お入り下さいと丁寧に声は言う。
私は、誘われるまま扉を開けて奥へと進み、指示を受けた扉をノックした。先ほどと同じ男の声で返事があり、私は扉を開けてやや緊張気味に失礼しますと言った。
普通の事務所とは違うと聞いていたが、想像以上に、そこは非日常的な空間だった。
トラブルの解決屋と言うのは、私のような業界に身を置く人間にはとても便利で、なおかつ世話になることも往々にしてあるものだ。
自分自身が必要とするのではなく、仕事柄、こう言う会社に足を運ぶのも初めてではない。
海外遠征やマスコミ対策で、アーティストにボディガードをつけることはある。しかし今度の場合は、どうもおかしな具合だ。
過激なファンや訳の分からないクレーマーからの抗議や、嫌がらせなど多々あるのがこの業界の常。
古典的手ではカミソリレターだが、アイドルへのストーカー事件のあれこれを思い浮かべられる人も多いだろう。
私が現在マネージメントを受け持っているアイドルは、ここ数ケ月、立て続けに事故にあっていた。
厳しくチェックした筈の、ファンレターに混ざっていたカッターナイフの刃で、深く指を傷付けたのが始まりだったように思う。
暫くギターが弾けなかったという、アクシデントに繋がったのだ。
衣装に針が刺してあったり、コーヒーメーカーが壊れていて火傷をしたりと、それはごく些細な出来事の積み重ねであった。
本人は不安を洩らすこともなく、私もちょっとした偶然だろうぐらいに考えていた。
それにしては、私の中のしこりのようなものは、日に日に大きくなるばかりだった。
決定的だったのは、ライブのリハーサル中に、舞台から落ちたことだったろう。
彼は、突き落とされたと言った。