STEP4 最後の女神 30
この藤堂院文香という老女こそがクラブリスキーの首塊であると、会場で出会った時、愛美は一目で看破したようなものだ。
いつかこの老女と対決する時が来るだろうとも思ったが、セントガーディアンの偽物の件で、その気持ちはすっかり萎えてしまった。
リスキーのパーティー会場でかけた脅しが、愛美のできる全てだ。
それが効かないような相手に、愛美は対抗する方法を知らない。
それなのに綾瀬は。
愛美の能力も、気持ちもお見通しだろうに、なぜここに寄越したのだろう。
愛美にしかできない、愛美である必要があるのだろうか。
別に愛美は、犯罪を起こせと言われたわけではない。あくまで、この屋敷に起こる怪事の原因を調査して欲しいと言われただけだ。
リスキーのメンバーの犯罪の片棒を担ぐのは死んでもごめんだし、それ以外でもリスキーのメンバーに関わるのは、愛美ならごめんだった。
それを綾瀬は、やれと言うのだ。
綾瀬が訪ねたリスキーのメンバーは、間違いなくこの老女だろう。
その場で、愛美なしで、何らかの密約が交わされた可能性がある。
そして愛美は、この屋敷へと寄越された。
藤堂院文香が、何者かも知らされないまま。
もちろん知っていれば、ここに来た筈がない。それとも、うまく綾瀬に言いくるめられてしまっただろうか。
あくまで、ビジネスでしかないと。
愛美は、老女を振り返った。
「じゃ、その仕事を今日中に片付けるわ。それなら、三時のお茶も一回で済むもの」
老女は商談成立ねといった表情で、愛美に自分の前の椅子に座るように勧める。
愛美は、一旦決めたことは決めたことだと自分に言い聞かせて、老女に勧めに従い席に着いた。
全面ガラス張りで、まだ弱い春の陽射しが差し込んでくるそこから見える庭の景色は、イギリスの庭園を模したような造りになっていた。
そう高くはない潅木が茂みを作っていて、白い釣り鐘状の花が、群れ咲いていた。
芝が敷き詰められ、潅木の向こうに白い大理石製の像の一部が見えている。
ギリシャ神話の神か何かであろう。
どこからどこまでモダンで、老女もこの屋敷のセットの一部のようだった。
ここは、彼女の領域なのだ。
愛美は我知らず雰囲気に呑まれまいと、硬い表情をする。
「それで、何かの気配がするそうですが、具体的に何か被害でもありますか?」
このサンルームは比較的新しいものだが、あの大階段などは、どう見ても五十年やそこらで利かない古びようだ。
外観や内装も、何度も手を入れているのだろう。




