STEP4 最後の女神 27
それでも、気後れしてしまうのは仕方がない。
愛美が、ワンピースの着用ジワを気にするのも何度目だろう。
お手伝いと言われても、どのような格好で行けばいいものか迷うところだった。無難に、地味な茶色のワンピースを選んだ。
愛美は、意を決してブザーを押す。
屋敷の中で、ブザーの音が響く様子はなかった。
壊れているのかとも思ったが、屋敷が広すぎて聞こえないだけかも知れない。暫く待つつもりでいたが、そう待たされはしなかった。
両開きの扉の右側が、内側に開かれる。
扉を開けたのは、六十半ばほどの燕尾服を着た男だ。
白髪の目立つ髪を、見苦しくないように撫でつけてある。
男の物腰は、ヨーロッパの由緒正しいホテルのホテルマンか何かのように洗練されて落ち着いていた。
彼は無言だったが、威圧感もなければ、厳しい感じもしない。
愛美は些かあがりながら、
「お手伝いとして、雇って戴くことになっていた近藤と申します。申し訳ありません。裏に回った方が良かったでしょうか?」
と、聞いた。
男はにっこりと微笑んで、どうぞと言うように腕を奥に指し示した。
おどおどとして中に入る愛美を、せかすこともなく男は傍らに控えて待っている。
中に入ってまず目に付くのが、二階に上がる大階段だ。
扉を入るとちょっとした規模のホールになっていて、ホール部分は吹き抜けだった。
飴色に光る階段。
吹き抜けの天井にはシャンデリアが下がっていて、映画のセットかと言った具合だった。
大正モダニズムのモガやモボが、歓談している幻でも見えそうな感じだ。
男は愛美の背後で静かに扉を閉じると、案内するように先に立って歩き始めた。
階段ではなく、右手の廊下に向かう。
廊下には厚い模様入りの絨毯が敷かれていた。廊下の角を曲がると、何処までも真っ直な廊下が伸びている。
廊下と言っても、その横幅も相当なものだ。
両手を広げても壁どころか、廊下のところどころに配された、壷やブロンズ像などを置いてある猫足のテーブルにさえ触れることができない。
まあ、愛美がうっかりぶつかって落としたりすることはなさそうだった。
両側の壁にはそれぞれ三つと四つの扉があり、開いている壁の部分には、額に入った絵がかけてあった。
全部見て歩いていた訳ではないが、風景画が多いようだ。
有名な画家のものなのか、愛美は生憎その方面の知識はない。
イギリス紳士のような男――執事なのだろうは、愛美に話しかけることもなく、ごくゆったりとした足どりで愛美を導いていく。




