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STEP4 最後の女神 26

――Goodby Say Hello me 時々曇りの空見上げて 思いきり叫びたいよ


『歌うの嫌いなの? だって歌ってても楽しそうじゃないんだもの』


――Goodby Say Hello me


 CMに入る前の曲が流れて、そこで録音は終わっていた。

 ザキが出演していたのは、僅か五分ほどのことだ。


 いつラジオに出演したのか知らないが、どうして綾瀬はこれを録音して愛美に聞かせようとしたのだろうか。


 それはやはり、そう言うことだろう。


 またしてもして、やられた感じがする。

 今回はザキと綾瀬に、二重に填められたようなものだ。ものの見事に、ツボに填まってしまった。


 とても癪だが、やはり認めるしかない。


 愛美は、涙で潤んだ目のまま笑った。


 悔しいが、音楽には力がある。

 ザキの音楽によって、愛美は確実に元気づけられた。


 元気づけられるほど、つまり自分は落ち込んでいたことになる。


 巴の渡米話、長門の留守、西川に振られて、一人ぼっちで心細い気分になってしまった。


「グッバイセイハローミー そう言う訳にゃいかないもんだろ」

 愛美は、その覚えやすいメロディーを唇にのせてみた。


 さよならがやってきた。

 そんな訳にはいかないだろうと、愛美も言いたくなる時がある。


 自分はとてもちっぽけで、何一つ持っていない。


 愛美にあるのは何だろう。愛美自身が誇れるのは、自分だけだ。


 夢はいつでもこの手の内に。言葉はいつでも胸に抱えて、知らないことは沢山あるし、うまくいかない自分を嘆いてばかり。

 それでも信じてみたい、信じられるものがある。


 愛美は、思いきりのびをした。


 まだ、私は、大丈夫。まだ、大丈夫。


 *


 屋敷は、槍状に尖った二メートルほどの柵が埋め込まれた塀に囲まれていた。


 敷地内に生えている木々は、まだ若葉には早いのか冬の装いのままだ。

 屋敷は白い石造りで、一階の窓枠の下までは、灰色のモルタルが盛りつけたように塗ってあった。


 柵状の門扉のつけられた石柱の門は、通りすがりの者を誘うかのように開けられている。


 鳥の声が耳につくほど、辺りは静かだった。

 閑静な住宅街の更に奥まった場所に、その洋館は、まるで物語に出てくるそのままの様相で建っていた。


 東京のお屋敷街に足を運ぶことなど、この依頼が最初で最後かも知れない。


 愛美は、畳二枚分ほどもある樫材の扉の前に立ち、一つ深呼吸をした。

 屋根のついたそのポーチの部分だけでも、四畳ぐらいはありそうだ。


 如何にも古臭い儼しい造りの建物を想像していただけに、そのモダンな造りのお屋敷は、とても親しみやすい感じがした。

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