STEP1 Frozen Flare 29
私は用意していた訳ではないが、彼らを前にすると、口から出任せが恥ずかしげもなく出てくるのだった。
「峰君がチーフスタイリストで、スタイリストをそれぞれにつけようと思っていてね。まずは見習いとして、彼女に入ってもらうことにしたから」
里見は、愛美をそう言って紹介した。
「どうも」
位置的に愛美の目の前に立っていた男が、目顔で頷く。
Frozen Flareのリーダーであり、一番の年長者であるシヴァだ。と言っても、まだ二一だった。今聞いた里見の話によると、大学の三年だという。
衣装らしいチャコールグレイのハイネックのセーターに、紫のマフラーを緩く巻いていた。ほっそりとした面長で、知的な雰囲気のする男だ。
後ろから覗き込むように、もう一人の少年が顔をつき出してくる。
ヨータが、里見と変わらないぐらいの身長だとすると、シヴァは170センチ弱といったところだろう。
「若いね。年幾つ、俺らと変わんないんじゃない?」
ヨータは、十九という年齢よりも幼く見える気さくな笑顔を、愛美に向けた。
「二十歳です」
里見がシヴァを手招いて、何やら話を始める。仕事の打ち合わせだろう。
「一コ、お姉さんか。よろしくね。マナミちゃーん」
ヨータは、笑顔で手を差し出した。
愛美は、ちょっと首を傾げて少年の顔と手を交互に見る。専門学校に通っているそうで、東大寺と同じ年だ。東大寺は、浪人+留年で愛美と同じ高二だが。
愛美が差し出した手をヨータは握り締めたまま、仲良くしようねと言った。調理師の免状をとるのが、夢らしい。
ヨータは愛美の手を握ったまま、顔を近づけてくる。
(馴れ馴れしいやつ、まあ、悪い人間ではないのだろう)
髪の毛は、脱色して色が抜けきってプラチナ色になっていて、黒のVネックのセーターに派手な赤い色のシャツを羽織っていた。
「俺らの曲で、どれが好き?」
無邪気に尋ねられて、愛美は焦る。
巴は、いつも以上に山のような大量の資料をくれたが、音源&VTRまでは用意してくれなかった。一応あとで経費で落とさせるとして、CDを入手しようと思ってはいたのだ。
予習ができていない。自分の責任ではある。しかし、聞く必要があるとは思っていなかったのだ。
ああ、言い訳、言い訳。
「聞いたことないんだろ」
ザキが、吐き捨てるように言った。
黙っていたのでいないと思っていたのだが、いたのか。
愛美は、引き攣りそうになる頬を、辛うじて笑顔のままで留めた。
聞いたことはないのは確かだが、一々癇に障る奴だ。




