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STEP4 最後の女神 18

《 夜空では、蒼い月が、朦ろな光を投げ掛けていた。


――斬ることは容易たやすい。

 青年は、自分の心に言い聞かせる。


――如何いかに人をあやめるかではなく、如何に己を殺すかだ。


 指が刀の束に触れると、五感が研ぎ澄まされるのが分かる。


 土を擦る草履の足音は三つ。

 供が二人いる。但し、殺すのは一人だ。


 提灯の火が夜陰に浮かぶ。

 火灯ほあかりだけが、幽鬼の如く近付いてくる。


 青年は、抜刀の構えをとった。》


「ピンポーン」

 はてな、と愛美は読んでいた本のページから顔を上げた。


 いま愛美が読んでいるのは、図書館で借りてきた『残照譜』という題名の新撰組隊士を扱った娯楽時代小説だ。

 愛美は再び、読んでいた文章に目を戻す。


《 火灯りだけが、幽鬼の如く近付いてくる。

 青年は、抜刀の構えをとった。


 相手が間合いに入った刹那。青年は、刀を鞘から抜き放った。

 白刃が、提灯の光を受けて、鈍く一閃した。》


 もちろんピンポーンなどという妙な擬音は、どこにも書いていない。

 何の音だったのか一瞬、愛美は考えてしまった。


 そして、実際さっき音がしたことに気が付いた。


 マンションを訪ねて来る者で、ドアチャイムを鳴らす者などいない。


 愛美は、寝転がっていた身体を起こして本を放り出すと、ドアを開けて見た。愛美の部屋が、一番玄関に近い。


「宅配便です」


 鍵をかけていたのかいなかったのかは覚えていないが、玄関の上がり框の前に立っていた人影はそう言うと、愛美に軽く頭を下げた。


 自然、愛美の声も驚きに満ちたものになる。


「西川さん」


 いつもながら隙のない着こなしをしているのは、綾瀬の教育だろうか。

 春らしい薄い水色のファッションスーツを着こなした西川は、どこから見ても大人の女だ。


 綾瀬の秘書である女性は、そのパッと目を引くような容姿であるにも関わらず、いついかなる時でも控え目な態度を崩さない。

 陰に徹して、SGAのメンバーを支えてくれていた。


「次のお仕事です」

 B5書類が入る茶色の封筒を、西川は愛美に差し出した。


「わざわざ済みません。電話くれたらとりに行くのに」


 愛美は、書類だけが入っているのではないらしいそのいびつに膨れた封筒を、訝しげに受けとった。

 なぜ今回に限って、と言いたい。


 いつだってこちらの状況にはお構いなしで、綾瀬は仕事が入ったと連絡してくる。


 それが、なぜ今回は違うのだろう。


 愛美の疑問は、次の西川の言葉で、簡単に氷解した。


「社長は留守です。当分、連絡はとれません。オフィスの方も閉めてありますので」

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