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STEP4 最後の女神 12

 両親とそれぞれの会社や、祖母との間でどのようなやりとりがあったのかは、巴は子供が知らなくてもいいこととして聞かされていない。


 それでも少し前の一、二ケ月の間は、家の中はずっと落ち着きがなかった。

 決まってしまえば、あとはどうと言うこともない。


 両親も巴も、普段通りの日常生活を送っていた。当たり前すぎて、ともすると日本を離れることを忘れそうになる。


 そのこともあって、話すのが先送りになっていた感もあった。


「どうして、そう言う大事なことを言ってくれないの?」

 愛美なら、きっとそう言うと思っていた。


 一旦、手にとったカップを愛美はまた、テーブルに戻した。真剣に、このことを論議する気だ。


「仕事と学業の両立に忙しそうでしたから」

 巴はそう言って、食欲はなかったものの、出されたケーキにフォークを刺した。

 

 もっと違う言い方が、できないかとも自分で思う。


 愛美は、くしゃくしゃに表情を歪めた。

「そんなの、関係ないじゃない」


 関係ない。


 その通りだ。


 一言いうべきであったし、また言うのが当然である。同じSGAのメンバーであるのだから。


 しかし所詮、愛美は赤の他人だ。

 愛美には、関係ないことだと言ってしまうこともできた。


「綾瀬さんや、他のみんなには言ったの?」


 こんなにも手放しで、巴と離れ離れになることを悲しんでくれるのは、愛美だけだと思う。


 理屈も理由も関係なかった。ただひたすらに感情論をぶつけてくる。


 それでこそ、彼女なのかも知れない。


「社長には、一応それとなく話しておきました」


 巴がサイトでセントガーディアンの名を見つけ、綾瀬を問い詰めに行った時には、既に綾瀬には渡米の予定があることを話したあとだった。


 その広告を見た綾瀬が、巴が新しく何か始めるつもりかと言ったのは、そこからの発言だ。


 巴は、自分の後釜をもう早速見つけてきたのかと早とちりして詰問したのだが、綾瀬は綾瀬でそれを逆手にとった訳である。


「私達って一体、巴君の何なの? そんなこと勝手に決めるなんて」


 愛美は優しい人だから、この話が出れば、どうあっても傷付けてしまうだろうと巴はそう考えていた。

 もっと早くに言っていても結局、愛美は傷付いただろう。


 行っちゃうの?と、今にも泣き出しそうな表情で愛美に言われるのが怖くて、巴はずっと抜き差しならなくなるまで黙っていたのだ。


 しかし一番聞いて欲しい人間が、愛美であることも確かだった。


「決めたのは親です」

 こんな言葉で、愛美が納得する筈がない。


「だったら、嫌だって言えばいいじゃない」

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