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STEP3 Starless 98

 老女は綾瀬に再び注意を向けると、向き合った椅子を綾瀬に勧める。


 藤椅子の座る部分には、嫌味にならない程度に花を散らした敷布が敷いてあった。


 綾瀬は、勧められたものの、椅子に腰掛けようとはしない。

 茶飲み話に来たのではないし、この場で寛ぐつもりもなかった。


 綾瀬は、優雅な動作で軽く頭を下げる。

「お久しぶりです。奥様」


 老婦人は、少女のように屈託ない笑顔を浮かべた。

「相変わらず、いい男ね」


 綾瀬は軽く眉を上げただけで、老婦人の言葉に返答は返さなかった。


「また、女の子が入ったのね。前の子は、凪さんと言ったかしら? でも、私は今の子の方が好きよ。若いっていいわね」


 綾瀬は、思わず眉をヒクリと動かした。


 もちろん顔はポーカーフェイスのまま、何一つ動いてはいない。


 それでも老婦人は、綾瀬が内心では動揺していることを見抜いているようだ。


 巴だったろうか。以前に、綾瀬に見込まれた人間は苦労すると言ったのは。


 綾瀬より、よほどこの老婦人に気に入られる方が不運と言えよう。


 凪が死んだ大本の理由は自分にあることを知っていて、この老婦人は彼女の名前を出したのだ。


 今度は、愛美を気にいったと言うのだろうか。


 黙っている綾瀬を老婦人は意にも介さず、それでも自分の言わんとしていることは全て通じていることを承知で話し始めた。


「とてもいいカードがあるの」


 ここに愛美がいなかったのは、本当に幸いと言えた。


 愛美は、綾瀬の車の中で眠り続けている。


 いま綾瀬に何かあれば、愛美は一生涯目を覚ますことはないだろう。

 綾瀬が起こすまで、夢も見ずに眠り続けるのだ。


 もし愛美がこの場で、この老婦人の言葉を聞いていれば、明らかに不快そうな顔をしただろう。


 カードとは、言うまでもなくこの場合人間のことである。


「男と駆け落ちしてきて、結局うまくいかずに、路頭に迷っていたところを拾ったの」


 綾瀬は、老婦人の喋るままに任せていた。


「時々、お話相手になってもらうんだけど。上田さん。結婚した時の名は、――とか言うそうよ」


 綾瀬の眉は、今度は確かに動いた。


 老婦人は、信じられない言葉を、いともたやすく言ってのけた。


 綾瀬は、愕然となる。


 まさか、そんなことが。


「ストレートフラッシュかしら?」

 老婦人は、まるで女学生のような華やいだ声を上げる。


 対する綾瀬はその事実と、それから起こり得る出来事に、すっかり色を失っていた。


「生きて、いたのですか?」

 綾瀬が、自分を押さえていられたのもそこまでだった。

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