STEP3 Starless 81
三十分の約束に間違いはないのにと、巴は眉間に皴を寄せつつ、
「え、だって僕。頼まれてた盗聴機の見本を、幾つか人に見せる約束でしたから」
と、言う。
誰も何も言えなかった。
「もう集まってたんですね」
その時、突然後ろから声をかけられて、飛び上がるほど驚いた。
いつの間にか、背後に紫苑が近付いてきていたのだ。
ちょっと派手ではないかと思える服装に、栗色の髪を長く垂らしていて、その軽そうに見えるところが、あまり好きになれなかった。
「全員集めてどうするんですか。ロボットものみたいに、今度は合体でもするんですか?」
紫苑は髪の毛を掻き上げながら、東大寺、長門、そして巴と順番に顔を見ていく。
東大寺が、もう我慢できないと言うように、癇癪を起こしたような声を出した。
「何言うてるねん、紫苑。全員集めるってどないなっとるねん。どういうことか一人一人説明してみぃや」
東大寺の言葉が終わった一瞬の静寂を、それは見事に捉えていた。
「その偽物関西弁だけは許せへんな」
声は上から聞こえた。
みんな、ギョッとした辺りを見渡す。
そして、もう一人の人影を見つけたのだ。
男が一人、ビルから突き出た非常階段の一番下の踊り場に立っていた。
ブルーデニムに、パーカーを羽織っている。
全員の注意がそちらに向かったのを見計らったように、別の声が聞こえた。
幼い声ながら、どこか老成た喋り方だ。
「僕は、そんな貧弱なオタクに見えますか?」
目の前の路地に、これまたいつの間にか、一人の小柄な少年が壁を背にして立っていた。
少年は、黒縁の眼鏡を鼻の上に押し上げる仕草をして、こちらに冷たい視線を寄越す。
「その顔で、私の名前を名乗るなんていい度胸ですよ」
その声は、背後から聞こえた。
思わず、一歩二歩とあとずさる。
光の加減か、金髪に見える長い髪に、ラベンダー色のデニム、クリーム色のシャツを身につけた青年がゆっくりとこちらに歩いてくるところだった。
奇麗な微笑を浮かべた顔は、生身とは到底思えず、覚えずも呆けてしまうほどの美しさだ。
「俺という人間は、二人もいらないだろう」
全員が、思わずその声にビクッとなった。
淡々として底知れない冷たい響きに、振り返るのをためらうほどだ。
左の通路には、胸のボタンを引っ掛けただけの白いシャツに、黒の革のパンツを履いた男が立っていた。
長身痩躯、などというものではない。見上げるばかりの大男だ。
「何よ。全然似てないじゃない」
不貞腐れたような可愛い声。
振り返ってみると、ポニーテールの少女が、塀に腰掛けて足をブラブラさせている。




